バイデンとトランプの意外な共通項
トランプ政権が4年ぶりに帰ってきた。
昨年秋の大統領選は、結果的にトランプ圧勝という意識が先行しているようにも映るが、獲得票数でトランプ大統領とハリス氏は250万票ほどしか差がなく、圧勝というよりは僅差だったと表現した方が適切であり、むしろそれだけ米国では分断が深刻である現実を我々は認識する必要があろう。

いずれにせよ、今後、日本企業はトランプアメリカという国際秩序の中で経済活動を続けていくことになるが、その中心となる米中対立の中で、日本企業には以下のような対米、対中認識が必要である。
まず、バイデン氏が最後になって日本製鉄によるUSスチール買収を阻止する決断を下したが、現在のところ、トランプ大統領もその姿勢を継続する可能性が非常に高い。

バイデン氏とトランプ大統領は価値観が真っ向から対立するイメージが先行するが、米国の経済的繁栄と平和安全を維持・強化する、そのために強い米国として中国に対する優位性を確保するという点では一致している。そして、日本企業としては、そういった姿勢が経済や貿易の領域で今後さらに露骨になってくることを意識する必要がある。
バイデン氏がNOを突き付けた背景には、今後の民主党を意識した狙いだけでなく、同盟国を含む外国企業と中国との関係、そして国家としてのプライドがあったことは間違いないが、米国は自らの核心に触れられるほど、保護主義的な姿勢を躊躇なく示していくだろう。
「同盟国だから」より「最大の対米投資国」として
言い換えれば、USスチールほど象徴的な企業でなければないほど、日本企業による米国企業買収の可能性が高まると言えるかも知れないが、米国の同盟国であるからという認識は今後4年間は持たない方が賢明だろう。

日米同盟は一元的なものではなく、日本が捉える日米同盟と米国が捉える日米同盟は異なり、米国にとって日本は軍事同盟国の一国に過ぎない(無論、駐留する米軍の規模や台湾、北朝鮮などを考慮すれば日本が最も重要な同盟国ではあるが)。
また、トランプ大統領にとっては伝統的な同盟国が必ずしも同盟国となるかは不明であり、石破・トランプ関係の行方によっては日本の優先順位が低下する可能性も排除はできない。

一方、今日、日本は世界最大の対米投資国家であり、米国を再び偉大な国家にする(MAGA)という目標を掲げるトランプ大統領が、日本はMAGAに積極的に貢献しようとしているという認識を強めれば、日本企業にとってはとても明るい兆しになるだろう。
日本外交としても、MAGA最大貢献国として日本をトランプ大統領に積極的にアピールすることは日本の国益にも適うものである。
米国の保護主義を好機と捉える中国
次に、対中認識だが、トランプ政権が保護主義的な姿勢を前面に出すことで、中国はそれを好機にしようとしている。
すなわち、中国としては米国による保護主義的な姿勢こそが自由貿易、市場経済にとっての脅威だと内外に強く訴えることで、米国と日本、欧州との間に楔を打ち込み、自らに有利な政治経済環境を整備しようという狙いがある。
最近、日本と中国との間で関係改善の動きが進んでいるように映るが、中国側にはそういった狙いがあって日本へ接近しようとしている。

近年、不動産バブルの崩壊や高い失業率、鈍化する経済成長や改正反スパイ法などにより、日本企業の間では脱中国の動きが広がっているが、米国が保護主義的な姿勢を鮮明にすることで、そういった脱中国の動きが後退するのではないかという声が聞かれる。
しかし、日中間では尖閣や台湾、邦人拘束など根本的な問題は何も解決しておらず、依然として多くの潜在的リスクがあり、米国の保護主義的な姿勢と日中関係をセットで考えるべきではない。実際にどう動くかは各企業の問題であるが、米国が保護主義だからやはり中国との経済関係だと単純に判断することは避けるべきだろう。
中国との関係強化は対米リスクにも
また、これに関連するが、中国との関係を強化することが同時に対米リスクを上昇させる可能性がある。
すなわち、米国は同盟国を含む外国の企業と中国との関係に過剰とも言える懸念を抱いていると考えられ、米国と中国と関係を持つある日本企業が中国事業を積極的に強化しようとすれば、それによって米国が同企業への警戒をいっそう強める可能性がある。

米国が中国警戒を強めれば強めるほど、日本企業による純粋な中国ビジネスが1つのリスクと見做されるようになるかも知れない。
米中のどちらに付くのかという議論は避けるべきだが、今日の米国はこのような議論も展開しそうなほど冷静さを失っているようにも感じられる。
【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】