今日、中東情勢は極めて予断を許さない局面を迎えている。
米国およびイスラエルによる対イラン攻撃は、単なる二国間、あるいは地域的な紛争の枠組みを超え、世界の安全保障環境を揺るがす事態へと発展している。
特に、イランの最高指導者ハメネイ師の殺害という事態は大きな衝撃を与えた。
イラン側はこれに対し、ホルムズ海峡を事実上封鎖し、周辺諸国に点在する米軍拠点や石油関連施設への報復を繰り返し行っている。この対立の激化はエネルギー供給網の寸断という経済的リスクを伴いながら、国際社会全体に暗い影を落としている。
圧倒的な武力
現在のトランプ政権が推進する外交・安全保障政策は、アメリカ・ファーストの理念に基づいた極めて徹底した実利主義に貫かれている。
その中核にあるのは、保護主義的な通商政策、相互関税の導入、そして軍事的な優位性を背景とした力による平和の追求である。
今年に入ってからのベネズエラ、そして今回のイランに対する大規模な軍事介入は、自国の戦略的利益や安全保障上の懸念を解消するためであれば、既存の多国間合意や外交的プロセスを飛び越え、圧倒的な武力行使を辞さないという政権の強い意志を反映している。
しかし、こうした行動は、国連憲章が定める武力行使禁止原則や、主権国家の平等といった国際法の基本原則を逸脱したものであり、トランプ政権による一方的な現状変更は、こうしたルールの信頼性を著しく損なうものであると言わざるを得ない。
高市政権は“理想と現実の狭間”で決断
こうした米国の強硬な姿勢に対し、日本の高市政権は極めて慎重な対応を維持している。
政府は米イスラエルによる武力行使に対し、明確な支持を表明することも、あるいは強い言葉で非難することも避けている。高市首相や外相による発言は、一貫して「事態の沈静化を強く求め、対話による平和的解決を期待する」という、従来の外交的公式見解の範囲内に留まっている。
これに対して、野党や一部の有識者からは「国際法違反でありトランプ政権に主張するべきだ」などといった厳しい意見が出ている。
しかし、外交政策の根幹とは、感情論ではなく冷徹なまでに自国の安全と繁栄という国益を計算し、確保することにある。現在の日本を取り巻く東アジアの安全保障環境を直視すれば、高市政権の選択は、理想と現実の狭間における苦渋の決断の結果であると評価すべきだろう。
日本の立ち位置守るため
日本にとって、台湾海峡や朝鮮半島、あるいは尖閣諸島周辺における緊張は、国家の生存に関わる死活的な問題である。これらの脅威に対し、実効的な抑止力を維持するためには、日米同盟の盤石な信頼関係が不可欠である。
トランプ政権との間に摩擦や亀裂を生じさせ、日本が米国にとって不透明なパートナーであるとの認識を持たれることは、日本の安全保障上のリスクを飛躍的に高めることになる。アジア太平洋地域における米国の関与を繋ぎ止め、同盟の質を維持することは、日本の防衛政策における最優先の至上命題なのである。
高市政権の曖昧とも取れる沈黙は、この過酷な安全保障環境の中で、日本の立ち位置を守るための現実主義的な戦略の一環であると解釈できる。
アメリカの“ご機嫌伺い”
しかしながら、我々は今、国際社会の構造が大きく変化する構造的な地殻変動の渦中にいる。
米国のパワーや影響力が相対的に低下し、中国やインド、そしてグローバルサウスと総称される新興諸国や途上国が国際政治や経済の舞台において急速に存在感を強めており、それは今後いっそう顕著になろう。
米国が国際社会の規範を軽視する姿勢を鮮明にするほど、国際社会では米国に対する不満や不信感は増殖され続け、しいては”米国を放置する”、”米国を自らの蚊帳の外に置く”ような動きも諸外国の間で広がっていくことも考えられる。
また、米国が守るべきルールを自ら破っていると映るダブルスタンダードの問題は、多極化する世界において、西側諸国全体のモラル・オーソリティを失墜させる要因となる。
このような大きな潮流の中で、常に米国の機嫌をうかがい、その行動を静観または追認し続けるような日本の姿が、多極化する世界の中で他国の目にどのように映るかを、我々は今後いっそう考えていく必要があるだろう。
【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】
