2024年は、自動車メーカーにとって波乱の年となった。

国内では認証試験の過程で不正が見つかるなど、改めて社内の仕組みを見直すなどの対応が迫られた一方、海外ではアメリカ大統領選やEVの失速などが話題に上がった。また、業界再編に向けても動きはじめた。

100年に一度の変革期と言われる自動車産業、2025年はどうなっていくのだろうか。

“トランプ関税” 日系自動車メーカーはどうなる?

大統領選挙期間から様々な発言が注目されるトランプ氏。中でも“対自動車産業”では関税や環境規制について注目される。

トランプ氏再選で関税引き上げ実行になれば影響は避けられない
トランプ氏再選で関税引き上げ実行になれば影響は避けられない
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トランプ氏は不法移民への対応策として、メキシコからの輸入品に25%の関税を課すと明らかにしている。もし実行された場合、日本の自動車メーカーにはどのような影響があるのか。

日本の自動車メーカーでは、トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、マツダの4社がメキシコに工場を構えていて、各社のアメリカの販売状況を見ると、ホンダはアメリカの販売に占めるメキシコ生産車の割合は約1割、マツダでは約3割となる。

各社は、11月の決算説明会でメキシコからアメリカへの輸入関税引き上げについて懸念など見解を述べた。

マツダ 毛籠勝弘 代表取締役 社長兼CEO 2024年11月7日
マツダ 毛籠勝弘 代表取締役 社長兼CEO 2024年11月7日

マツダの毛籠社長は11月7日に、「個社でできる問題ではなく通商の中で解決するものであると思う」とした上で、「中身を精査して影響を吟味し、取るべき対応を決めたい」と話した。

ホンダ・青山真二副社長 2024年11月6日
ホンダ・青山真二副社長 2024年11月6日

さらにホンダの青山副社長は11月6日、メキシコからの輸出が関税対象となった場合「非常に大きな影響だ」と懸念を述べ「恒久的な関税であるとすれば、アメリカの国内であるか、あるいは関税の対象にならない国での生産にするのか、中長期的には考えざるを得ない」と明らかにした。

一方トヨタ自動車は、11月9日にメキシコに14億5000万ドルの投資をしたと発表した。1600人以上の新規雇用を創出できるとした上で、ピックアップトラックのハイブリッドモデルなどの生産をし、メキシコ事業を強化する。

2017年1月6日のトランプ氏のTwitter(現在のX)の投稿
2017年1月6日のトランプ氏のTwitter(現在のX)の投稿

トヨタとメキシコ、そしてトランプ氏と言えば、2017年にトランプ氏が大統領就任前に、トヨタがメキシコの新工場の計画を変更しないとの見解を示したことに対して、「とんでもないことだ。アメリカに工場を作らないのならば、巨額の関税を支払うべきだ」と当時のTwitter(現在のX)に投稿。現時点ではトヨタの動きに言及はないが、今後の動向に注目すべきだろう。

影響は少なからず生まれる一方で、今すぐ何かが変わるのは難しいのが現状だと言える。
自動車アナリストは、トランプ氏の任期とされる4年間は、自動車業界では拠点の変更などには「短い」と話し、「影響を最小化するように“嵐が過ぎ去るのを耐える”ことになる」と分析した。その上で「影響を少しでも回避できるもので動かしやすいものがあれば動かすことはあるだろう」と述べた。

どうなる日産 アメリカの販売戦略がカギ

また、アメリカでの日系自動車メーカーの販売を考える中で避けては通れないのが、日産だ。

アメリカでハイブリッド車の需要が高まる中、日産はアメリカ市場でガソリン車とEVのラインアップしか持たないことから販売に苦戦。販売促進のための奨励金が増加したことなどから、2024年度の中間決算では純利益が前年度から93.5%減少し192億円となった。

世界で9000人の人員削減を発表した日産・内田社長 2024年11月
世界で9000人の人員削減を発表した日産・内田社長 2024年11月

自動車アナリストは、トランプ氏がアメリカのパリ協定脱退を実行し、EV補助金を撤廃した場合、EVを持つ日産には「泣きっ面に蜂」の状況になると話し、「柔軟な選択が求められるだろう」と指摘した。

EVのゲームチェンジャー「全固体電池」は前進 EVはどうなる?

一方、未来に向けた取り組みも着実に進んでいる。

航続距離や充電インフラなどの懸念から普及に伸び悩むEVだが、この状況を変えると言われているのが「全固体電池」だ。全固体電池は、充電時間が短く航続距離をのばすことができるなどの特徴から、次世代のEV向け電池として期待され、EVの存在を変えるとも言われている。

2023年にはトヨタが、出光興産と量産実現に向けて協業するなどし、2027年から2028年に市場導入を目指すと明らかにしていた。

ホンダ(左)と日産(右)は来年からいよいよ始動(各社提供画像)
ホンダ(左)と日産(右)は来年からいよいよ始動(各社提供画像)

さらにホンダは2025年1月から栃木県さくら市の拠点で、EV向けの全固体電池の実証生産ラインを稼働させる予定。従来のリチウムイオン電池と比べて航続距離が2倍になるほか、コストも25%低減できるとしていて、2020年代後半の量産開始と投入するモデルへの搭載を目指すとしている。

日産も3月に試作ラインを稼働させる予定で、2028年度に全固体電池を搭載した新型EVを市場に投入する予定としていて、EVの普及拡大に向けて一歩前進する年になると言えるだろう。

日産とホンダが経営統合に向けて協議を開始

そして2025年を目前にした12月23日、ホンダと日産が経営統合に向けた協議に入ることが発表された。

両社は2024年3月、協業に向けた検討を始め、8月には、EVの部品の共通化などで合意をしていて、今後は経営統合に向けた検討を重ねる。2025年1月末には日産が筆頭株主の三菱自動車が合流の是非を決定し、6月に最終契約を目指すことにしている。両社は共同の持ち株会社を設立し、これまでのブランドは残した上で両社が傘下に入り、2026年8月をめどに東京証券取引所のプライム市場への上場を目指す方向性を示した。

また、経営統合では両社のガソリン車からハイブリッド車、EVなどのモデルの相互補完や、生産拠点などの最適化、購買機能の統合などでシナジー効果が期待できるとし、営業利益3兆円を超える企業を目指すとした。

しかし、経営統合にはハードルも多い。仮に経営統合が成立した場合、両社の主要なモデルや展開する市場に重なりがあるとして、本当にシナジー効果を発揮できるのか、と疑問視する声も聞かれる。

さらに日産の主要株主であるフランスの自動車大手ルノーは「あらゆる選択肢を検討する」との声明を発表したほか、台湾メディアは、台湾の大手電子機器メーカー鴻海精密工業が、日産の株式取得に向けてルノーと交渉していると報じるなど、様々な角度からの検討が必要になる。

淡々と説明するにとどまった日産・内田社長(左)とホンダ・三部社長(右) 2024年12月23日の会見
淡々と説明するにとどまった日産・内田社長(左)とホンダ・三部社長(右) 2024年12月23日の会見

経営統合の検討まで至った背景には、日産の内田社長がホンダについて「将来の危機感が共有できる相手」と述べたように、自動車業界の変革が進んでいることがある。

アメリカ・テスラの「Model Y」(左) 中国・BYDの「BYD SEAL」(右)
アメリカ・テスラの「Model Y」(左) 中国・BYDの「BYD SEAL」(右)

アメリカのテスラや中国の新興メーカーが、EVやソフトウェアの分野で勢力を拡大している。ホンダの三部社長も「進化するスピードがものすごく速い」「それは我々の既存自動車会社のかつて、あまりやってこなかった以上にものすごいスピードで進化している」と認識を示した上で、「(経営統合で)それが勝てるかというと、そんなに甘いものではない」と危機感を示した。

それぞれの課題を抱える中で、両社のシナジー効果を最大限発揮する方法を模索しながら、モビリティの変革をリードする存在になることができるのか。期待と不安が入り交じる一年になるだろう。

自動車産業からモビリティ産業へ 100年に一度の変革期

2023年には東京モーターショーが「JAPAN MOBILITY SHOW」に生まれ変わり、2024年はCEATECと併催し、ビジネスマッチングの場として「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK」が初開催された。

スタートアップブースを見て報道陣に解説するトヨタ・佐藤社長 2024年10月JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK
スタートアップブースを見て報道陣に解説するトヨタ・佐藤社長 2024年10月JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK

トヨタの佐藤社長はこの会場で「CEATEC側は若い世代が多く、CEATEC側とモビリティ側のパイプができたことがうれしい」と話し、「2025年のモビリティショーでどうやって形にしていくかが重要だと思う」などと期待と意気込みを語っていた。

2025年は10月30日から「JAPAN MOBILITY SHOW 2025」の開催を予定している。

2023年は未来を感じさせるような一新した展示も追加されたが、2025年は車にとどまらない「モビリティ産業」にまた一歩近づく展示が見られるだろうか。

各メーカーはもちろんのこと、モビリティ産業全体の変革に期待したい。
(執筆:フジテレビ経済部 丹羽うらら)

TOP画像はトヨタbZ 4X(左)、日産ARIYA(右上)、ホンダCR-V e:FCEV(右下)

丹羽うらら
丹羽うらら

フジテレビ報道局経済部記者。自動車、通信・携帯、物流担当。2023年のジャパンモビリティショーなどを取材。