能登半島地震が発生した2024年1月1日。液状化被害を受けた新潟市をめぐっては、被災した住民への「きめ細やかな説明」という点で積極性を欠く場面がみられた。復旧・復興へ、新しい年が住民と行政がより歩幅を合わせる1年であることが望まれる。
住民主導で開かれた初めての住民説明会
能登半島地震で多くの液状化被害に見舞われた新潟市西区では、地震から2カ月近くが経った2月26日、住民側の要望で復旧に関する説明会が開かれた。

個別相談以外で、市が住民に復旧などに関して説明を行う機会はこれが初めてだった。
説明会は住民以外には非公開で開かれたもので、招かれた新潟市の職員が復旧事業の見通しを説明したほか、住民の質問に答える内容だったという。
説明会開催の裏に「今後のことが知りたい」悲痛な思い
この説明会の開催を働きかけた一人は、新潟市西区ときめき西4丁目の自治会長・阿部誠さんだ。

阿部さんが説明会に至るまでの経緯を語った。
「地域の方々から『道路もデコボコになっているし、家も傾いている。今後どうなるのか知りたい』と話があった。何より『被災した自分たちの気持ちを聞いてもらう場をつくりたい』ということが発端だった」
会場は超満員 住民の不安を軽減させた説明会
説明会には、液状化の被害が深刻な西区の善久や立仏、ときめきなどの住民が参加。
300人の定員に対して、参加希望者があっという間に集ったといい、関心の高さを伺わせた。
質疑応答では、行政の支援についてや罹災証明書についての疑問や不安、道路復旧の見通しなど、様々な質問が住民から飛んだという。

さらには、「詳細な復旧スケジュールをこまめに示してほしい」という要望も出されたそうだ。
一方の新潟市は、住民主導の説明会が開催された後の取材に対し、「住民の皆さんは『今、どういう段階なのか、どういう計画なのか』それが知りたいのだなと肌で感じた」と、こまめな情報発信の必要性を認識したと述べている。
長期事業を期待する住民「せめて目処を知りたい…」
一方で、完了まで長い年月が予想されている復興事業が、将来的に大規模な地震が来ても被害が軽減されるように施す地盤改良工事「街区ごとの面的液状化対策」だ。
熊本地震の被災地・熊本市では、地震発生から8年が経った2024年、ようやく対策工事が完了している。
新潟市江南区天野地区の天野中前川原自治会会長・増田進さんは、街区ごとの液状化対策の必要性を早い段階から感じていた一人だ。

被災直後から「抜本的な対策がされなければ、引っ越しを考える住民が後を絶たず、都会の限界集落のようになってしまう」と危惧していた。
その増田さんが不安に思っているのは、液状化対策について新潟市から具体的な進捗や目処が示されてこなかったということだ。
「例えば新潟市から『3年我慢してればいい』とか『5年我慢していれば』と言ってもらえれば、住民は見通しが立って『その間は地震来ないで』という気持ちが出てくると思う。でも、今は雲をつかむような話」と訴える増田さん。
自宅の修繕や将来的な生活設計を立てる上で、行政の復興の見通しは欠かせない情報だ。
求められるのは“住民に寄り添った”情報提供
2024年12月、地域を代表して早期の対策を新潟市に要望した増田さん。

この際、野島晶子副市長からは「この事業に時間がかかることは動かしがたいが、皆様にとっては『一体いつになるんだろう』という状況が不安の増幅するところだと思う。その都度、その都度『今こういうことをしています。次はいつまでにこういうことをします』と、できるだけきめ細やかに地元の皆様にはお伝えしていきたい」と応じた。
一方、新潟大学・災害復興科学研究所の卜部厚志教授も、「行政が決定事項だけを発表したい気持ちは分かるが、『こういう計画がある。うまくいく・うまくいかないについてはその都度お知らせする』など、定期的に住民とコミュニケーションを取ることが大事。そういうふうに言ってもらうと住民は『時間がかかるんだな』『大きい工事なんだな』と理解する。さらに行政が『もっと早く工事ができるよう頑張ります』という姿勢を示せば、より理解が進む」と指摘する。
復旧・復興へ地域住民とともに歩む1年へ
12月24日に開かれた液状化事業の検討会議で、新潟市は次の様なスケジュールの見通しを発表した。

・2024年12月中旬から行っている地質調査を2024年度内に終える
・2025年夏には地質調査結果を踏まえ、住民に工法の方向性を提示する
・2025年度中に土木技術的な観点から検討を始める
・2026年度には工事の実施へ住民への意思確認を行う
新潟市がこの事業に対し、住民へのアプローチを含めた具体的な日程を示したのは、これが初めてだ。
行政が見通しや経過を適切に示すことは、住民にとって今後の生活設計を立てる上での確かなよりどころとなる。
それを示した上で、新しい年に新潟市の復旧・復興がより加速することが期待される。
(NST新潟総合テレビ)