高齢や難病などで普段、外出が難しい人たちや介護家族の「もう一度一緒に旅行がしたい」という願いをサポートする「介護付きツアー」が、広がりをみせている。高齢化が進む中、諦めない新しい旅のカタチに密着した。

車椅子でも旅を諦めない介護旅行

福岡市早良区にある旅行会社「トラベルケアふくおか」。代表を務める清水正樹さんが、かつて旅行会社に勤務していた経験と介護の資格を生かして3年前に会社を立ち上げた介護と旅行と介護タクシーのミックスサービスの会社だ。旅行会社勤務時代、団塊の世代と一緒に旅行することが多かったと話す清水さん。「今まで私が普通にお連れするツアー客の方々に、車椅子生活になられた時に介護旅行を選んでいただければ旅行を諦めずにすむ」と新しい旅のカタチを提案している。

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スーパーの買い出しから旅行のサポートまで1ヵ月に約15件ほどの依頼があるという。依頼者の思いや介護のレベルに寄り添ったプランを提案することはもちろん、宿泊先のバリアフリーの情報や多目的トイレの有無など、清水さんは移動中も含めて旅の全行程の情報を事前に把握する。

この日、清水さんが訪れたのは、北九州市のデイサービス。1週間後に控えた介護旅行の打ち合わせだ。「途中のサービスエリアで1回休憩をとるので、トイレとかの心配はなさらずに。また、車椅子の方でも入れる温泉があり上にレールがついています」など依頼者が不安に思うことを丁寧に説明する。

認知症の母と一緒に‶女子会旅”

依頼者は篠原智子さん。88歳になる母親のタキノさんは、8年前に認知症を発症し、今は1人では日常生活が送れない状態で、車椅子での生活を余儀なくされている。今回は、そのタキノさんを連れての旅行を計画しているのだ。

智子さんは、「車椅子を乗せて旅行をサポートしてくれるサービスがあるけど、こういうサービスを望んでいる方たち、凄く多いと思う。昔はよく祖母と母と姉と一緒に‶女子会旅″みたいなのに行っていた」と嬉しそうに話す。最近は楽しく話す機会も減っていたので昔のように家族でまた、旅行できたらとこのサービスを依頼したという。

今回の旅行は、依頼者の智子さんと母親のタキノさん。それに智子さんの姉と叔母、そして智子さんの友人の計5人。「お母さんのご希望通り女子会よ、温泉旅行」。篠原さんが母親に声をかけ、いよいよ出発。運転は清水さんが担当する。旅の目的地は昔、家族旅行でも訪れたこがある水郷・柳川。10年ぶりということで車内は旅の高揚感に包まれていた。

柳川へ向かう一行
柳川へ向かう一行

「お母さん、お水を一口でも飲んで」と清水さんは運転しながらもタキノさんを気に掛ける。九州自動車道をしばらく走り、立ち寄ったのは広川サービスエリア。トイレ休憩はもちろんだが、「目で見るとか耳に入ってくるとか、特に匂いは認知症でも覚えていることが多いので1回はリフレッシュで外にお連れするようにしています」と清水さんは話す。

水郷・柳川で温泉と鰻を満喫

柳川に到着した一行は、日帰り温泉へ。清水さんが選んだホテルには、車椅子や足が不自由な人でも気軽に入浴できる天井走行リフト付きの貸し切り風呂があるのだ。

「気持ちいいね。良かったね」。久々に家族で入る温泉は格別。長湯はできない母親のタキノさんは、みんなより先に出て清水さんと散歩。普段、介護でなかなか自分の時間がとれない家族にリフレッシュしてもらうのも介護旅行の大きな魅力なのだ。

風呂と散歩の後は楽しみな夕食。依頼者の智子さんがサプライズで衣装を用意していた。母親が88歳「米寿」の祝いで黄色。叔母は「傘寿」で紫色。姉は「還暦」で赤色。

「記念すべき私たちお母さんとの温泉旅。皆さんありがとうございます」。健康と長寿を願って乾杯。食事はタキノさんの大好物、鰻のせいろ蒸し。「美味しいね」とタキノさんが舌鼓を打つ。普段なかなか言葉を発さないという母親から出た「美味しい」の一言。食卓は家族の笑顔に包まれた。

介護する家族もリフレッシュ

今回の旅行を計画した智子さんは「きょうは温泉から食事まで、母と叔母と皆で楽しむことができました。1人で企画して運転するのは大変だけど、清水さんがやってくれる。私もリフレッシュできたし、介護を受ける母もリフレッシュしていたでしょう。感謝の気持ちでいっぱいです」と今回の介護旅行に満足した様子だった。

介護する「トラベルケアふくおか」清水正樹代表
介護する「トラベルケアふくおか」清水正樹代表

深刻な高齢化が進む中、介護を受ける人の数は年々増加している。身体の不自由さをサポートしながら人生の楽しみを諦めない介護旅行。リピーターが多いのも特徴で今後多くの人々が必要とするサービスとなりそうだ。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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