米大統領選挙で論争の的になった「ネコを食べる女」は、現実に存在していたことが分かった。
“ネコを食べた女”動物虐待で禁錮1年
米国オハイオ州の地元紙「カントン・レポジトリー」によると、同州スターク郡一般司法裁判所で2日、27歳のアレクシス・T・フェレル被告に対して動物虐待で禁錮1年の判決が言い渡された。
この記事の画像(5枚)フェレル被告は2024年8月16日、オハイオ州スターク郡カントン市の団地で、猫の頭を踏み潰して食べているのを見た住人の通報で警察に逮捕された。その際、警察官が身につけていたボディカメラには、フェレル被告が四つんばいになって猫にかじり付いている様子が記録されていたという。
A Canton woman has been sentenced to one year in prison for killing and eating a cat in a case that drew national attention. https://t.co/CMmWAMMOb7
— CantonRep.com (@CantonRepdotcom) December 3, 2024
同被告側は当初、「心神喪失による無罪」を主張したが、審理評価の結果「法定手続きを理解し自身の弁護ができる能力がある」と判断され、第5級の重罪が適用されて判決となったものだった。
テレビ討論会で「移民がペットを食べる」発言
この“事件”が地元で話題になっていた頃の9月10日、隣のペンシルベニア州フィラデルフィア市では大統領選挙の候補者同士のテレビ討論が行われており、別の「ネコを食べる人」をめぐって論争が展開されていた。
その口火を切ったのはトランプ前大統領で、不法移民が米国社会を毒していると主張して次のように言った。
「オハイオ州のスプリングフィールドでは移民が犬を食べている。ネコを食べている。ペットを食べているのだ」
この発言に司会者のABCニュースのキャスターが割って入り、「スプリングフィールド市の担当者は、移民たちによってペットが危険な目にあっているという報告はないと言っています」と指摘したが、トランプ前大統領は「テレビでそう言っていたよ」と譲らず、民主党支持者は「これこそがトランプ発のフェイクニュース」と非難し、「ネコを食べる人」がいるかどうかが大統領選挙の争点にもなってしまった。
この話は、ある種の社会現象に発展し「猫を食べるな」というふざけた車に貼るスティッカーがネット通販で全米で売り出されたり、挙げ句の果てには「猫を食べろ(Eat the Cat)」というヒップホップ曲も現れた。ザ・マリーンというラッパーが作詞作曲したもので、その歌詞は和訳すると次のようになる。
「彼らは犬を食べている 彼らは猫を食べている 猫を食べろ、猫を、猫を食べろ、猫を食べろ 怒りで目が赤くなる、だから俺を刺激するな ドナルド・トランプじゃないけど、(ニャー)を捕まえようとしてる それはハイチ人だと言った スプリングフィールドのどこかで 女が とんでもないことをしでかしている。 ガーフィールド(漫画「ガーフィールド」の主人公のネコ)を見たことあるかい?(ネコを食べろ)」
“伝聞繰り返したような話”が事件と混同され誤情報拡散
その頃、スプリングフィールドの住民のフェイスブックに「近所の人から聞いた話ですが、その人の娘の友人のネコがいなくなり、ハイチ人の家で吊るされているのを見たということです。ハイチ人はネコを食べるために切り刻んだのです」という話がアップされた。
ロイター通信が投稿者を取材すると「近所の人は、その友人の友人から聞いた話」だと何回も伝聞を繰り返したような話だということが分かった。
その間、この話はスプリングフィールド市から172マイル(約275キロ)離れたカントン市の事件と混同されることになり、米国生まれのフェレル被告がハイチの不法移民であったかのように誤った情報が拡散してしまった。
トランプ氏は、伝言ゲームの最後の参加者のような立場でその話を聞いたわけで、確証を得ずにテレビ討論という万人注視の場で口にしたことは弁解の余地もないとしても、意図的に「フェイクニュース」を発信したというそしりは免れることになったようだ。
それよりも、オハイオ州スターク郡では住民が「ネコを食べる」かのように喧伝され、大きなイメージダウンになってしまった。フェレル被告に重罪が課せられたのも、その責任が問われてのことのようで、判決にあたってフランク・フォーキオーネ判事はこう言い渡したという。
「あなたはこの郡、この国、そして何よりも自分自身を辱めたのだ」
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】