選挙では、洋の東西を問わず「ドブ板作戦」が功を奏するようだ。
“市民と同目線”で選挙公約訴え
「マムダニはいかにニューヨークに衝撃を与えたかーー彼の勝利から民主党が学べること」
2025年11月のニューヨーク市長選挙へ向けて行われた民主党の予備選挙で、無名で若い社会主義者のイスラム教徒ゾーラン・マムダニ氏が党の候補者に選出された大番狂せ(本コラム既報6月26日)をめぐって、英国のBBC放送の電子版は26日、同氏の勝因を次のように分析する記事を掲載した。

「ゾーラン・マムダニは、ニューヨーク市長を目指すにあたり、マンハッタンを歩いて縦断するという決意を固めた――6月の金曜日の午後7時、彼の挑戦は始まった。すべてが終わったのは午前2時30分だった。その様子を収めた動画がSNSに投稿され、ニューヨーカーたちが彼に親指を立てて応援し、抱きしめる姿が一コマ一コマ映し出されている。(中略)33歳のマムダニのSNSを少したどって見るだけで、彼の政治スタイルが従来の政治家とはまったく異なることがすぐにわかる。決まりきった文言を避け、自然体で即興的な語り口を貫いているのだ。火曜日に行われたニューヨーク市長選の民主党予備選で勝利したことで、このスタイルは幅広い支持層を引きつけたとして高く評価されている」
The sun’s gone down. We’re just getting started. pic.twitter.com/aZQqfQ2cGU
— Zohran Kwame Mamdani (@ZohranKMamdani) June 21, 2025
また、ニューヨーク在住のジャーナリスト達が寄稿する週刊ニュースサイト「ザ・ニューヨーク・グルーブ」は、こんな選挙の分析記事を掲載した。
「ニューヨークの選挙に勝利する秘訣は、ニューヨーク市を好きになることだ。マムダニは電車を利用し、マンハッタンを歩き通した。クオモ(本命だった元ニューヨーク州知事)は停止標識を無視して車を走らせ、一度も主要な公開討論会に現われなかった」

マムダニ氏は、「安い公営住宅建設」「市営のスーパーマーケットで日用品の廉価販売」「市営バスの無料化」など福祉政策の一方で、企業や富裕層への課税強化など米国ではある種タブーの社会主義的な選挙公約を打ち出しているが、それをマンハッタン歩きで市民と同じ目線で訴えたことで勝利を呼び込んだのだという。
勝利演説で語った“ドブ板作戦”の模様
ニューヨークの道路にも側溝に蓋をするドブ板があるかどうかは定かではないが、マムダニ氏はまさに「ドブ板作戦」をニューヨーク市を代表するマンハッタンで展開したことになる。その模様を同氏は予備選の勝利演説の中で次のように述べている。
East Village. pic.twitter.com/uf5Qfe0ahl
— Zohran Kwame Mamdani (@ZohranKMamdani) June 21, 2025
「先週の金曜の夜、夕日が空に沈み始める頃、私はマンハッタン最北端から島の南端まで、13マイル(約20キロ)のウォーキングに出発しました。出発地点はインウッド。音楽が流れ、ご近所さんたちが歩道にドミノを並べている場所でした。時刻は午後7時。週末の始まりです。多くの人にとって、仕事の時間は終わっていました。しかし、ここはニューヨーク──仕事が決して終わらない街です。181丁目ではウェイターたちが皿を運び、125丁目の高架を走る地下鉄は運転士によって運転され、リンカーン・スクエアを通り過ぎると、世界一流の音楽家たちが楽器の調律をしていました」
Times Square. pic.twitter.com/VV5LdBlL1N
— Zohran Kwame Mamdani (@ZohranKMamdani) June 21, 2025
「私たちがダウンタウンに到着する頃には、後ろに一団の群衆が続いており、それはこのキャンペーンを象徴するエネルギーと目的意識の、生きた体現そのものでした。
真夜中を過ぎても、ニューヨークは働き続けていました。ゴミ収集車が静まり返った通りを縫うように走り、魚屋は翌日の商品を運び込み、そして午前2時20分にようやく最南端のバッテリーに到着したとき、スタテンアイランド・フェリーの運行スタッフたちもまた、他の時間帯と変わらず勤務中でした。彼らは週7日、24時間いつでも働いています。その夜、働いていたそれぞれのニューヨーカーは夢を胸に抱いており、それは私たち一人ひとりが抱く『すべての人にとって希望に満ち、手の届くニューヨーク』という夢と重なっています。私たちはその夢のために懸命に努力します」
本選への世論調査でも支持率トップ
英国の主要マスコミも絶賛したこの作戦の衝撃は、予備選に終わらず、11月の本選まで余韻が残っているようだ。

アメリカン・パルス社が1日までに行った世論調査では、マムダニ氏の支持率は35%、民主党の予備選で敗北したアンドリュー・クオモ前ニューヨーク州知事が無所属で出馬すれば29%、スキャンダルで民主党籍を離脱したエリック・アダムス現知事 13%、共和党のカーティス・スリワ氏16%となっている。
20日投開票日の日本の参議院選挙も、最後は「ドブ板作戦」がものを言うのかもしれない。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)