たとえ目先の何かで損をしたとしても、結果的には全部がいい方向へ回っています。自分だけでなく、私の周りの人たちもみんな立派になっています。
最近の3年間は私だけが立て続けに大きな病気をしてしまって地獄に落ちたような状態になっています。でも、自分でも不思議なのですが、それでいいと思っているのです。
ほとんどの人間は自己保存の本能によって小さな目標しか立てないうえに、損得勘定をするので、桁外れの大きな目標は持てないのです。
それをやると損をするという話になってしまうからです。多くの人がその考え方を正しいと思っています。だから、「桁違いの目標を立てなさい」と私が言うと、「えーっ」という反応が返ってきます。
自分の殻を破るような体験を
しかし、世界一の救命救急センターを作りたいという桁違いの目標を立てたことが私の潜在能力の発揮を促し、目標を実現に導いた原因であるというのは紛れもない事実です。
目標というものは体験から生まれます。そのため、自分の殻を破るという体験を何度もした人は、だんだん大きな目標を掲げることができるようになります。
しかし、自分が傷つかないように守ってばかりいて、殻を破るという体験をしたことがない人は、小さな目標しか持てないということになるのです。
そういう人が桁違いの大きな目標を持つためには、ひとまず自分のことは横に置いて、「人のために何ができるか」と考えてみるのも一つの方法です。現実的には自分を守りたいとみんな考えているのですが、目を外に向けてみるのです。
人のために生きようと考える人が増えてくれば、世の中は大きく変わります。そして、そこが変わるだけでも、潜在能力が引き出されて、いい人生を送れるようになると思います。
逆に言えば、自分の得だけを考えているうちは、大きな潜在能力は発揮できないということです。

林成之
日本大学名誉教授。脳科学をスポーツに応用し、北京オリンピック競泳日本代表の北島康介選手らの金メダル獲得に貢献。脳低温療法を開発し国際学会の会長も務めるなど、脳蘇生治療の第一人者としても知られる。著書に『<勝負脳>の鍛え方』(講談社現代新書)、『脳に悪い7つの習慣』(幻冬舎)などがある。