2024年11月19日。自民・公明・国民民主党の3党は、所得税が課されるいわゆる『103万円の壁』の見直しについて上限を引き上げることで合意した。ただ国民民主が主張する178万円までの引き上げをどこまで飲むかなど具体策は決まっていない。

地方の税収が大きく減るとの懸念も

自民党の宮沢洋一・税制調査会長は「壁を引き上げるということだけ決まっている。ほとんど大事なことは全部残っている。しっかり実現できるように財源を考えていかなければいけない」と記者団の質問に答えた。

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財源確保の見通しが立たないとするなかでスタートした見直しの議論。税収が大きく減るとの懸念もあり地方自治体のトップからは「大きな影響と聞いている。とても現実的にのみ込めるものではない」(花角英世・新潟県知事)。「税収が減るのであれば、どういうふうに補填していくのか、そうしたことも議論してほしい」(伊原木隆太・岡山県知事)など次々と不安の声が上がっている。

総務省の試算によると税の減収額は国と地方を合わせて7兆円から8兆円に上り、個人住民税だけでも地方は、約4兆円の税収減になるとしている。

行政サービスへの影響はどこまで

福岡・久留米市。人口30万人を抱える県南の中核市だ。久留米市の場合、税収の減少でどのような影響を受けるのか。

タワーマンションを核とした再開発事業が進められているJR久留米駅前。久留米と博多とを結ぶ駅前の再開発事業だが、この事業には久留米市が総額44億円の補助金を出す計画だ。

「やめられる事業があれば、今までにやめてますよ。市民の方が我慢するのか、自治体が我慢するのか」と語る久留米市の原口新五市長。『103万円の壁』見直しに伴う影響について自治体の抱える実情を初めて語った。

「103万円の壁の見直しがあれば、ざっと考えると50億近い減収。それも1年だけならまだ我慢も、いや我慢もできないけど、毎年でしょ。いろんな政策を減額または廃止やらざるを得ない」と語る。久留米市の市税収入が年間約430億円。『103万円の壁』の見直しでこのうち約50億円が減収となる見込みを明らかにした。

さらに「50億の規模っていうと1年間のごみ収集とごみ処理量で、大体ざっと50億。それから令和4、5年で割ると大体1年間での治水、雨水対策が50億。ものすごく大きいですよ。とてつもないですよ。止めるわけにはいかないしね」と苦渋の表情だ。

「水害で何十億もの被害が毎年」

原口市長が特に力を入れているのが大雨に対応する「治水対策」。久留米市は毎年のように豪雨による大規模な浸水や土砂災害の被害を受けていることから、治水対策に3年間で140億円の予算を計上。そのため、さまざまな事業を見直し、2024年度は市の基金から10億円を切り崩して事業費を捻出したという。

原口市長は「水害で何億も何十億も被害が、これが毎年ですよ。しょうがないじゃないですかっていうわけにはいかない。どれを待ってもらうか、どれを縮小するか、どれを削るかという、今すごい苦しい段階で今、査定をやっているのに、そのなかで改めて数十億とかいうお金は…、これは無理ですよ」と頭を抱える。

地方から噴出する強い懸念の声

2025年度の予算編成に向け調整が続くこの時期、年間50億円の減収となれば地域コミュニティの維持や施設管理、子育て支援など行政サービスの一部は削ることになるおそれもあるというのだ。市長は『103万円の壁』の見直しについて一定の理解を示しつつも、国に対し自治体への丁寧な説明に加え、長期的な目線で議論を進めてほしいとしている。

「医療と福祉とか教育とか、市民から『もっとお願いできないか』というものはたくさんある。財政を切り崩して、基金まで切り崩してやっとこの状況ですから…。形を変えるにしても我々の税収、税金関係は減らないようにしてほしい」

将来的に人口減少が避けられないなか、地方から噴出する強い懸念の声と政党間での激しい駆け引き。納得できる答えは出せるのか。論戦が本格化する臨時国会は11月28日に召集される。

(テレビ西日本)

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