2021年11月に新潟市南区の自宅で29歳の妻と1歳の娘を殺害した罪などに問われている男の裁判員裁判は11月22日に判決を迎える。男は涙を流して殺害を認めたものの、殺害事件以前に起こしていた殺人未遂事件などの“殺意”については否認を続けた。こうした姿勢に「形だけの涙と謝罪だった」と怒りをあらわにした遺族。検察側が無期懲役を求刑し、弁護側が有期刑での判決を求める中、裁判の争点などを整理する。

「妻と娘が倒れている」嘘の通報から発覚した妻子殺害事件

殺人や殺人未遂、殺人予備、窃盗の4つの罪に問われているのは、新潟市南区の元看護師・渡辺健被告(31)だ。

渡辺健 被告
渡辺健 被告
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起訴状などによると、渡辺被告は2021年9月、当時勤務していた病院から塩化カリウム10本を妻を殺害する目的で盗んだほか、11月7日には自宅で妻の春香さん(当時29歳)と娘の純ちゃん(当時1歳)の首をロープで絞め付け自殺を装い殺害。

さらに、殺害事件を起こす以前の2021年3月には、睡眠薬入りの飲料を春香さんに提供し、交通事故を起こさせて殺害しようとした罪などに問われている。

この一連の事件が発覚したのは、2021年11月7日午後1時半ごろ。渡辺被告による119番通報がきっかけとなった。

渡辺被告の通報内容:
妻と娘が倒れている

消防が現場に駆けつけたところ、春香さんと純ちゃんが死亡しているのが見つかり、階段にはロープがかけられていたほか、春香さんの携帯から渡辺被告の携帯に自殺をほのめかすようなメッセージが送られていて、渡辺被告は当初「妻が娘を手にかけて、その後、自殺したのではないか」と説明していた。

しかし、その後の調べで、通報があった3時間前、午前10時半ごろには春香さんと純ちゃんが死亡していたことが判明。

事情聴取を受ける中で、渡辺被告は自分が春香さんと純ちゃんの首をロープで絞めたと認めたことから、事件翌日の8日に逮捕となった。

約半年後に再逮捕…その理由は

渡辺被告の最初の逮捕から約半年後の2022年5月17日、警察は渡辺被告を春香さんと純ちゃんを殺害しようとした殺人未遂の疑いで再逮捕した。

渡辺健 被告(インスタグラムより)
渡辺健 被告(インスタグラムより)

逮捕容疑は、春香さんに睡眠薬入りの飲料を提供し、それを飲んだ妻が長女を乗せて車を運転することを知りながらもあえて制止せず、交通事故を起こさせ殺害しようとしたというものだった。

殺人事件以前に、なぜこのような事件を起こしていたのか。

検察は渡辺被告が当時勤務していた病院内での「不倫」が事件の背景にあり、妻と娘を事故を装って殺害することで不倫相手と一緒になろうとしていたと断じた。

妻に発覚するも不倫を続けた渡辺被告 不審な検索履歴も

事件の動機にもつながる同僚との不倫関係は渡辺被告が春香さんと結婚した8カ月後に始まった。

【2018年5月】
渡辺被告と春香さんが結婚

2019年1月10日ごろ
渡辺被告が当時看護師として勤務していた新潟市南区の病院で同僚の看護師との不倫関係が始まる

2019年1月11日~2月3日
春香さんが渡辺被告の不倫を知り、弁護士を通じて慰謝料請求

春香さんに不倫が発覚するも、不倫関係を続け、さらにその過程で長女の純ちゃんが誕生する。

そして、2020年12月28日に渡辺被告は自身の携帯で「銀行口座について死亡時の手続き」を検索していた。

また、この時期渡辺被告は競馬投資の副業を始めるも詐欺だったことが分かり、約400万円の借金を負い、その借金返済のために、春香さんの銀行口座から無断で金を返済に流用。

2021年1月29日には「妻殺害水死に偽装する方法」、1月31日には「生命保険死亡保険金」などといった検索履歴が確認されている。

不倫終了の危機で繰り返された看護師の立場を利用した悪質な犯行

2021年2月10日ごろ、不倫相手から不倫関係の終了を宣言された渡辺被告は、その翌日には「建築中 施主死亡」と検索。

この時期、渡辺被告は、新潟市南区に新居を建設していたという。

そして、2月19日に不倫相手から「会うのはこの日が最後」と告げられ、不倫関係は終了するも、この4日後に渡辺被告は「職場の患者が飲まなかったため、看護師のユニホームに入れて間違えて持ってきてしまった」とした睡眠薬を飲料に混ぜて春香さんに提供。

それを飲んだ春香さんは、意識混濁や失禁の症状が出たことから病院を受診し、その後「てんかん」の疑いで入院したものの、翌日には症状も治まり退院している。

その後も春香さんの口座から借金返済のために無断出金していた渡辺被告は、2月末ごろに職場で偶然、不倫相手と会ったことをきっかけに、「また会いたい」と連絡を取り合い、翌月には不倫関係を再開。

不倫相手の誕生日を一緒に過ごして祝うなどしていた一方で、「夫が運転中に心肺停止して死亡した」というインターネットの質問サイトなどを閲覧していたほか、「低酸素脳症 心停止」などと不審な検索は続いていた。

そして、3月29日の朝…渡辺被告は再び「職場から間違えて持って帰ってきてしまった」とする睡眠薬を飲料に混ぜて春香さんに提供するも春香さんはその時、その飲料を飲まず。

これまで不審に思っていた自身の銀行口座の無断出金のことを調べに銀行に向かい、渡辺被告が無断で出金していたことを知った春香さんは夕方ごろ帰宅。

渡辺被告に対し、怒りをあらわにするとともに実家に帰ることを告げ、朝に渡辺被告が用意していた睡眠薬入りの飲料が残っていたことから、それを知らずに飲んで車を運転し、約1時間半後に交通事故を起こした。

春香さんが交通事故を起こした現場(新潟市南区)
春香さんが交通事故を起こした現場(新潟市南区)

渡辺被告は、春香さんが睡眠薬入りの飲料を飲んだのを知りながら、長女の純ちゃんを車に乗せて出発しようとする春香さんをあえて制止せず、裁判では事故を起こして死亡することを企図していた「殺人未遂」の罪に問われている。

不倫相手との関係性の浮き沈みで次第に加速する渡辺被告の犯行

殺人未遂事件を起こし、春香さんの実家まで春香さんを車で送り届けた渡辺被告は、そのまま不倫相手の自宅に向かい、「建築中の新居ができるまで、そのまま実家で過ごす」とした春香さんがいない間の2021年3月29日~8月9日まで不倫相手の家で生活していた。

その間にも不審な検索は続く。

【渡辺被告の閲覧・検索履歴】
「毒薬・劇薬と毒物・劇物」
「気管塞ぐ」
「リスペリドン致死量」
「塩化カリウム致死量」
「高カリウム血症解剖」
「妻がいなくなった 行方不明」

そして、新居が完成し、春香さんと純ちゃんとの生活を目前にした8月9日ごろ、渡辺被告に対し、不倫相手は「年内中に離婚の動きがなければ諦める」と告げた。

そして、不倫相手の家での生活が終わり、新潟市南区の新居で過ごすことになった渡辺被告は「取り調べ 録音」「塩化カリウム注射」「塩化カリウム製剤 死ぬ」などの検索を続けるとともに、再び春香さんに対し、睡眠薬入りの飲料を複数回提供。

9月10日には、これまで検索を続けていた塩化カリウム10本を職場から盗み出す殺人予備事件を起こす(実際には使用せず)。

そして、不倫相手とは紅葉狩りに行ったり、自宅に泊まったりするなどの不倫行為を続けていた渡辺被告は10月30日にロープを購入したほか「自殺による死亡の場合、保険金はどうなる?」「死後硬直時間」「窒息死亡時間」などを検索。

そして、四十九日の忌明けなどの検索もしていた渡辺被告は11月6日、深夜まで続いた勤務が終わると不倫相手の自宅に向かい、7日の午前4時半ごろに春香さんに帰宅する旨のメッセージを送ってから帰宅し、自宅で就寝。

そして、11月7日、妻と娘に対する殺人事件を起こす。

事件現場(新潟市南区)
事件現場(新潟市南区)

午前10時ごろに目覚め、1階のリビングでたまっていた洗い物をした渡辺被告は純ちゃんをあやしていた春香さんに対し…

渡辺被告:
手伝ってくれない?

春香さん:
今、すーちゃん(純ちゃん)見ているから嫌だ

渡辺被告:
見ているっていってもスマホを見ているだけじゃん

春香さんが不機嫌な顔をしたことから「やってられない」と思った渡辺被告。

渡辺被告:
離婚してほしい。いつも俺ばっかり家事をやって、家のことを何もしてくれない。離婚してくれ

春香さん:
本当に言っているの?不倫して借金を作って、私の口座の金を無断で返済に充てたりしたあなたにそれを言う権利も資格もない。これまで一緒にいてくれただけありがたいと思え

このやりとりがあった後、渡辺被告は事前に購入していたロープを取りにいき、春香さんの首をしめ殺害、近くにいた純ちゃんの首もロープで絞め殺した。

リンク:なぜ1歳の娘まで…不倫相手の家から帰宅後に妻と娘を殺害した男が法廷で語った身勝手な動機「娘の顔が妻の顔に見え…」

裁判の争点は殺人未遂事件の「殺意」と「量刑」

2024年10月29日に開かれた初公判で、妻と娘に対する11月7日の殺人に関しては「間違いありません」と認めた渡辺被告。

渡辺 被告
渡辺 被告

しかし、殺害の約8カ月前、春香さんに睡眠薬入りの飲料を提供し、娘を乗せて車を運転するのを制止せず交通事故を起こさせた殺人未遂とその6カ月後に妻を殺害しようと勤務先の病院から塩化カリウム10本を盗んだ殺人予備事件については「妻と娘を殺そうとしたわけではありません」と“殺意”について否定した。

これまでの裁判で、検察側は「殺害に至るまでに不倫相手との関係の浮き沈みによって、妻の春香さんに睡眠薬を飲ませる行為を繰り返すなど以前から殺意があった」と主張。

一方の弁護側は「睡眠薬入りの飲料を飲ませたのは、銀行口座の無断出金がバレないように、春香さんが出かけることを阻止するためだった。塩化カリウムを盗んだのも『これがあればいつでも勝てるんだ』と妻に怒られたりした際に心の安定を図るためで、塩化カリウムを静脈注射するための道具は揃っておらず、具体的な殺意が高まったのは事件を起こす3日前だった」と主張してきた。

11月12日の論告弁論で検察側が無期懲役を求刑し、弁護側が有期刑での判決を求めている今回の裁判。

リンク:「不倫続けようと…」妻と1歳の娘を殺害した元看護師の男に“無期懲役”を求刑遺族も衝撃…逮捕後にも続いていた不倫関係「貴方に一生の誓いを…」

殺人未遂の殺意は認められるのか、そして量刑はどうなるのか…自分の欲望のため、身勝手な動機で妻と娘に手をかけた男に下る判決は果たして。

判決は11月22日午後3時に言い渡される。

(NST新潟総合テレビ)

NST新潟総合テレビ
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