旬を迎える冬の味覚、カキ。福岡・糸島市の若手漁師が国内では珍しい養殖法で作り出した新品種が注目を集めている。カキづくりに挑戦する若手漁師を取材した。
福岡県内では10月に入りカキ小屋が続々とオープン。糸島市岐志漁港一帯には13軒のカキ小屋がずらりと軒を連ねている。岐志漁港は糸島半島で最も多くのカキ小屋があるエリアだ。
この記事の画像(9枚)22年前から営業続けている「のぶりん」。最近、この店でしか食べられないという特別なカキが話題を呼んでいるという。
新品種のカキ「糸島海王」で優秀賞
「これが『糸島海王』になります」とカキ小屋「のぶりん」の古藤海星さん(21)が1年前に作った新品種のカキを紹介してくれた。どこが特別なのか?カキが大好物で、カキには一過言あるという記者が早速、糸島海王を試食させてもらった。
開口一番「美味しい!」と舌鼓。「貝柱がすごくしっかりしていて、身がぷりっと触感が弾けるようです。ガツンと旨味が来て普通のカキより味が濃く感じます!」と大絶賛だ。それもそのはず、この糸島海王は、全国の生産者が自慢のカキを出品しナンバーワンを競う東京・豊洲市場で行われた「第1回牡蠣-1グランプリ」の生食部門で見事、優秀賞に輝いた逸品だったのだ。
‟海のゆりかご”活用「シングルシード方式」
全国の‟カキ通”に評価された糸島海王はどうやって育てられているのか?海星さんにカキ棚を案内してもらった。通常はホタテの殻にカキの稚貝を付け、7メートルほど海中に垂らして自然に育てる『垂下式』という養殖法が一般的だが、糸島海王は「シングルシード方式」という養殖法を採用している。
幅約50センチの筒状のバスケットの中にカキの稚貝をバラバラに入れて海面に浮かべ、‟波のゆりかご”で育てる。小さな目のバスケットから成長に合わせて網の目が大きいものに入れ替え、さらに藻などがついて目詰まりを起こさないよう定期的に引き揚げての洗浄作業も抜かりない。垂下式に比べ、シングルシード方式は手間暇がかかるが、フジツボなどがカキに付かず、臭みが少ないという。
カキは海中で口を開けて海水を吸い込み、植物性プランクトンなどのエサを食べ、海中から出ると口を閉める。海中にいる期間が長い垂下式と異なり、シングルシード方式だと貝柱が鍛えられ身が引き締まるのだ。
「手間がかかるんですけど、やっぱり質がいい。成長段階を見ていくのがめっちゃ面白いです」と海星さんは笑った。手がかかるほどかわいいということのようだ。
漁師の家で育ったものの、もともとは、家業には興味がなかったという海星さん。なぜ、カキ漁師になったのか?きっかけはカキを贈った知人の家族が「美味しい」と言ってくれたその一言だったという。「美味しい」の一言が何よりもうれしかったいう海星さんは、もっと美味しいカキを作りたいと考えていた矢先、偶然インターネットでシングルシード方式を知ったという。オーストラリアが発祥と言われ日本ではまだマイナーな養殖法だったが、海星さんはこの方法で自分のカキ作りを模索することにしたのだ。
目指すは「牡蠣-1グランプリ」で頂点を!
「カキは人によって全然、違った養殖法もあるんですよ。手間のかけ方とか。それによって味もまったく変わってくるので、そこが面白いですね」。糸島海王は今季は1万個ほど養殖されたが、来季はその30倍の30万個を予定しているという海星さん。新たな息子の挑戦に母親の広子さんは「20歳ぐらいの時から自分で考えて、自分のカキを作りたいと相談を受けました。私達の世代はカキ小屋で手いっぱいなので、新しいことに挑戦するほうがいいと思います」とワクワクしながら応援している。
今ではすっかりカキ養殖にはまっているという海星さん。新たな養殖法で育てた糸島海王で来年の「牡蠣-1グランプリ」に出場し、今回逃した頂点のグランプリを目指すと意気込む。「今やっているシングルシード方式という養殖法でもっと生産量を上げて自分のカキをもっといろんな人に食べてもらいたい」。糸島の若き漁師の挑戦に注目だ。
(テレビ西日本)