2024年夏、道後温泉本館が5年半ぶりに全館営業を再開した。この歴史ある温泉地では、未来への新たな一歩を踏み出す動きが相次いでいる。老舗旅館の経営権譲渡、ホテルの屋号変更、そして増加する外国人観光客。道後温泉は今、大きな転換期を迎えているのだ。伝統を守りながらも、時代の波に乗り遅れまいとする道後の姿を追った。

150年の歴史に新たな1ページ 老舗旅館の決断

2024年9月、道後温泉に衝撃が走った。

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1868年の創業以来、150年以上にわたりこの地で営業を続けてきた老舗旅館「大和屋本店」が、パチンコ大手「マルハングループ」に全株式を売却したのだ。

マルハン北日本カンパニー観光事業部の山口明部長は、「本当に道後温泉のブランド力と、そして大和屋のブランドを掲げて、ブランドを掛け合わせると。非常に魅力を感じて、今回このような契約をすることができたというところです」と語る。

この決断の背景には、2020年以降観光業を襲った「コロナ禍」があった。大和屋本店の奥村敏仁社長は、「環境の変化と、財務の新型コロナによる痛みを乗り越えていくためには、今回の資本投下をいただくことによって前に進んでいく力を得たのではないかと考えている」と説明する。

築28年と老朽化する建物の修繕など、将来を見据えた投資が必要だった老舗旅館。2023年春ごろから協議を始め、2024年4月に大和屋別荘を、そして2024年9月には大和屋本店の株式を譲渡した。

マルハン側は「今後の事業継続」と「全従業員の雇用維持」を受け入れ、パチンコ事業で培ったサービス力を生かしながら新分野への事業拡大を狙う構想だ。山口部長は、「変化というよりも、やはり継承していくという...地域の方々が大事にしているものを壊すようなことはしたくないと考えております」と強調する。

「大和屋」の屋号などはこれまでと変わらず営業を続けている。伝統を守りつつ、新たな力を得て前進する。それが大和屋の選んだ道だった。

インバウンド需要に応える 進化する「おもてなし」

道後温泉では、別のホテルでも大きな変化があった。

和・洋・中、70品の多彩な料理が並ぶ「バイキング」が人気という「道後彩朝楽」が、「大江戸温泉物語 道後」として生まれ変わったのだ。
元々、低価格を売りに全国展開する関西の『湯快リゾート』が2014年に買収し運営していたこのホテル。しかし、長引く物価高による節約志向や旅行控えなどを受け、湯快リゾートと関東の「大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ」はこの春、経営統合。

さらなる集客力アップを目指し、より認知度の高い「大江戸温泉物語」にホテルのブランド名を統一することになったのだ。

大江戸温泉物語 道後の疋田晃三支配人は、「これからはやはり外需ということで、インバウンド顧客を取り込むために、そういった統合することによって幅広くお客様を拾っていけるのではないかなと考えております」と語る。

実際、道後温泉を訪れる外国人観光客は急増している。プサン便の就航やソウル便の増便など、韓国路線が中四国最多の週20便を数える松山空港。さらに台北便も再開した。

観光庁の統計によると、2023年7月の1カ月間に愛媛に宿泊した韓国人観光客は3300人余りだったが、2024年7月はなんと約1万5000人と4.5倍に。台湾からの観光客も、2023年7月の3000人ほどから2024年7月には6500人余りと、2倍以上に増加している。

疋田支配人は、「コロナ前まではだいたい(1か月に)600人から800人ぐらいの台湾からのお客様でしたが、2024年に入って1200人から1500名まで増えております」と述べ、特に台湾からの宿泊客が増えていることを明かした。

この変化に対応するため、ホテルでは80部屋の客室のうち約6割を占める和室の一部を、外国人向けにベッドが置ける和洋室に改装する方針だ。さらに、外国人観光客の細かなニーズにも注目している。

さらに疋田支配人は「インバウンドのお客様は意外に客室にこだわりがありまして、一部屋一部屋の客室の作りだとか、これをしっかりデータ化している」と語る。外国人観光客は部屋の間取りやトイレの広さ、風呂の床の材質など細かいところをチェックしてホテルを選ぶ傾向が強く、部屋の雰囲気がわかるよう写真付きの詳細なデータを旅行会社と共有しているという。

疋田支配人は「言葉でなかなか伝わらない部分がありますので、インバウンドのお客様に対する表示だったり、そういったものをしっかり作り上げて、インバウンドのお客様でも使いやすい施設を目指してまいります」と意気込む。

伝統と革新の共存 道後温泉の未来像

こうした変化の中、大和屋本店の奥村社長は地元の旅館・ホテル業界のトップとして、観光地・道後を取り巻く状況の変化には業界全体で敏感になっていかないといけないと考えている。

道後温泉旅館協同組合の理事長も務める奥村社長は、「新しい動きと今までの動きを調和させながら進んでいくのが、今後必要なことと考えております」と語る。

観光産業は今や日本の成長産業として位置付けられ、様々な投資の対象にもなっている。そのため、歴史ある道後のまちづくりにマイナスの影響を与えないよう注意しなければいけないと奥村理事長は警鐘を鳴らす。

奥村理事長は「洗練されているが、懐かしさもあり、独自性もあると。そういったものは1つだけの施設ではできません。それぞれが自分の施設を磨きあげながら、まちづくりにも協力していく必要が、最終的にはその施設の利益にもなっていくということかと思っております」と語る。

道後温泉は今、新たな動きも取り入れながら、積み重ねてきた歴史を未来へつないでいく挑戦の最中にある。伝統と革新のバランスを取りながら、この温泉街は次の150年に向けて歩み始めている。

変わりゆく道後温泉。しかし、その本質は変わらない。温泉に浸かり、歴史を感じ、新しい「おもてなし」を体験する。そんな道後温泉の魅力は、これからも多くの人々を惹きつけ続けるだろう。

(テレビ愛媛)

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