2024年7月から9月の経済成長率 低水準が続く
「年間の経済・社会発展目標任務を実現するよう努力を」
中国の習近平国家主席は10月29日、全国から北京に集まった中央や地方の党幹部に、こう激を飛ばした。「保5」、つまり今年2024年の経済成長目標である「5%前後」を残り2カ月で達成するよう求めたのだ。焦る背景にあるのは低迷する経済だ。
10月18日に発表された2024年7月から9月の経済成長率は、前年同期比4.6%増で、4.7%増だった4月から6月期に比べマイナス0.1ポイントの減速で、低水準が続いている。
私は10月が終わる頃に北京に着任した。
数日間、北京市内を歩いたり買い物したりした肌感覚では、以前に比べ活気がないという印象を持った。
私は2012年から2016年までも北京に駐在していたが、その時に比べ、レストランやショッピングセンターの客の数は明らかに少なく感じた。コロナ禍で市民の生活様態や消費行動に大きな変化があったことも原因の一つだろうと思う。
変化と言えば、レストランに入ったとしても注文はスマホをかざしてQRコード読み取って行う。支払いも同様にスマホで済むため店員との会話も少なくなった。
以前なら注文したい料理について質問し、店員からあれこれ説明を受けるのも楽しみの一つだったがそうした機会は減ったように思う。
いま、多くの市民は買い物をネット通販で済ませ、食事はデリバリーを多用する。
集合住宅前にある荷物の集積場所や食品を入れるデリバリーボックスを見れば、そうした実情がよくわかる。
中国メディアによると国家統計局が発表した、2024年1月から9月のネット小売り額は、前年比8.6%増。一方で1月から9月の消費(社会消費品小売り総額)は前年比3.3%増にとどまる。
若者の失業率 高止まりが続く
もう一つ懸念されているのが失業率だ。
習近平国家主席は11月1日付けの共産党の理論誌で「高い質で十分な就職の促進」に向けた政策を検討し、「多くの労働者が幸福感と安全感を絶えず強く持てるよう」求めた。
若者の失業率の高止まりが続くなか、習主席はさらに「就職における構造的な矛盾を重点的に解決するよう」とも要求した。失業率の高さは社会不安にもつながる。
経済対策を矢継ぎ早に打ち出す習近平政権
失業率との関連は不明だが、中国では刃物による切りつけ事件が相次いで発生している。
9月には広東省の深センで日本人学校に通う男子児童が刃物で刺され死亡したほか、上海のショッピングセンターでは刃物で襲われた3人が死亡した。上海の事件で拘束された男には経済的な問題があったと地元公安当局が明らかにしている。
10月には首都の北京で富裕層が住むエリアのエリート学校の近くで切りつけ事件があり、子供3人を含む5人が負傷した。
習近平政権は経済対策を矢継ぎ早に打ち出している。不動産不況対策として地方政府による住宅在庫の買い取りのほか、9月以降も中国人民銀行が金融緩和策、財政省が国有銀行の資本強化などを相次いで発表した。
11月4日から始まった全人代(全国人民代表大会)の常務委員会では追加の経済対策が検討されるとの見方がある。
そして、習近平国家主席による経済目標達成要求と失業対策問題の解決への指示。トップ自らのこうした動きについて中国の知人は「異例」だという。
胡錦濤時代では経済運営は首相が担当するという、慣例というか棲み分けのようなものがあった。しかし、習近平一強体制下での経済政策は「核心」である習氏が主導しているとされ、実質「責任者」とも言える。
残り2カ月、習近平氏の焦りと危機感が垣間見える。
執筆:北京支局長 垣田友彦