「いけました!OK!」。小学生たちの歓声が響く。黒い線に沿って動くロボット。左のタイヤが黒に触れると右に曲がり、右のタイヤが黒に触れると左に曲がるようにプログラミングされている。プログラムを組んだのは、未来の理系人材を育てようと立ち上げられた「子どもの理科離れをなくす会」に所属する小学生たちだ。

理科の世界に魅了された中学生

難しいプログラミングにも挑戦する小学生たちが憧れる先輩の中学生がいる。福岡市に住む中学3年生の白水瑛章さんが、その〝憧れの先輩”だ。白水さんが「子どもの理科離れをなくす会」に入会したのは、小学5年生のとき。「学校にプログラミングができる人は、ほぼいないので、最初に入ったときは、すごく話が通じるっていう感覚だった」と気の合う仲間に出会えた喜びを振り返る。

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仲間と一緒にプログラミングをする楽しさ。思い通りにロボットを動かす喜び。白水さんは「理科」の世界に魅了されていった。会の講師を務める清水颯太さんは「(白水さんは)最初から熱心で集中すると入りこんで一生懸命やる子だった」と話す。

白水さんは、中学2年のときに「コース上にあるブロックを拾い上げ指定された場所まで運ぶ自律型ロボット」の性能を競う全国大会に出場。150人が参加したその大会で、見事ベスト16に選ばれた。大会で実力を認められ、一気にステップアップ。ある壮大なプロジェクトへの参加を認められることになったのだ。

JAXAプロジェクトに最年少で参加

壮大なプロジェクトとは「人工衛星を動かすためのソフトウェアを作ること」。白水さんは日本の航空宇宙開発政策を担うJAXAと行う事業に最年少メンバーとして参加を許された。人工衛星の軌道をミリ単位で把握するプロジェクトだ。

白水さんの担当は人工衛星が地上と通信するためのソフトの作成。うまくいけば将来的には宇宙空間での安全性確保にも応用可能な技術だという。「将来的にはスペースデブリがどうやって動くかを予測してISS(国際宇宙ステーション)にデブリが当たる前に計算で気づけるようにする」と語る白水さん。スペースデブリとは、宇宙空間に漂う人工衛星やロケット機体などの破片のことだが、小さなデブリでも秒速7キロメートル以上の高速で動いているため、宇宙ステーションや人工衛星などに衝突すると大きな被害をもたらし、宇宙開発の大きな障害となるのだという。

チームには大学院生など15人が全国から参加している。白水さんはオンライン会議で年上のメンバーと意見交換しながら自分が受け持つ課題を1つ1つ解決していくが、「説明書に書いていないようなことが起こる。どうしてここでこのエラーが起きるのかとか、そういうときは寝転がったり漫画を読んだりして解決策が思い浮かぶのを待つ」と独自の解決方法も教えてくれた。

受験勉強とプログラミングの両立

壮大なプロジェクトに参加している白水さんだが、意外にも毎日プログラミングにかける時間は1時間ほど。高校受験を控える中学3年生の身の上なのだ。宿題を学校の休み時間に終わらせるなど時間をうまく活用して受験とプログラミングの両立を図っているという。

プロジェクトで白水さんが担当する作業はすでに9割ほど終了しているが、自分の作業が適切だったかどうかが分かるのは、まだまだ先の話。「まずは打ち上がった後もこのソフトが動くことを祈るのみ」と、はにかむ白水さんだ。

見守る父親の潤さんは「親ができることは情報をいっぱいあげること」と話す。図鑑や本は幼い頃から与えて、好きなものがあったらとりあえずやってもらうようにしてきたと、息子の成長を喜ぶ。

‟理系離れ”は指導する大人の不足?

小中学生の理系離れが叫ばれて久しい。しかし、文部科学省の調査では「理系科目が好き」とする小学生の割合は92パーセント、中学生でも70パーセントと実は多くの子供たちは、理科が好きだと答えている。それが、成長するとなぜか理科から離れてしまう。博士号の取得者数は、イギリスや韓国は右肩上がりなのに対し、日本は横這いの状況が続いている。「子どもの理科離れをなくす会」の北原代表は「指導する大人が少なく、近くにいないのが問題」と理由を分析する。理系離れの解決には、子どもたちが理科への興味を失わずに勉強や研究の道に進むような環境を整えることが重要なのだ。

いまやJAXAが認めるプログラマーに成長した白水さん。JAXAとのプロジェクトで人工衛星は2025年春、アメリカで打ち上げられる予定となっている。

(テレビ西日本)

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