東京江戸川区。住宅が密集し、車1台通るのがやっとの狭い路地にその工場はあります。
1908年創業の「小川産業」。主力製品は麦茶です。

石釜で2回焙煎する昔ながらの製法で作られる麦茶。
1つ目の石釜は250度。2つ目の石釜は180度。2回焙煎することで甘みと香ばしさが増すといいます。


現代では効率が悪いとされるこの作業。
仕上がりにムラが出ないように、常に釜をチェックして火力を調整しなければなりません。その為、小川さんは釜から目を離せません。
この日の工場内の温度は42度。暑い時は48度になることもあるといいます。

この中を小川さんは所狭しと動き回ります。 昼食時も石釜から目を離しません。食事をとるために涼しい場所に行くことなく、釜のそばで食事をします。

新型コロナの影響で、今年の春頃から売り上げが減り始めたものの、メディアに取り上げられたことで注文が全国から殺到して、現在は忙しさが戻ったということです。
連日暑い日が続く東京。
こんな時は熱中症予防にも効果があるとされる麦茶を飲みたくなります。

撮影後記
夏らしい風景を探し「麦茶」を撮影することにした。映像と共に、音にこだわり、その世界観を表現したかった。
工場を訪れ、足を踏み入れた時、目の前で行われている職人の作業、歴史を感じる工場や機械とともに、「空気感」を映像で表現してみたいと思った。何よりも「空間」を表現することに、こだわりを持って撮影した。
薄暗く蒸し暑い工場。外が涼しく感じるくらいの熱気と粉っぽさも、いかにも麦茶工場らしい。天井から差し込む一筋の陽光。その光が麦を煎る作業で工場内に舞い上がる粉を照らしていた。私にはキラキラ輝いているように見えた。

演出された世界ではない、あるがままの工場の風景を撮影することこそが、「夏風景」を捉えることだと感じながら撮影した。
報道カメラマンとして現場に立ち、目の前で起きていることを撮影し、伝えることの難しさを日々実感しているが、主人公が目の前に居る。その空気感を映像で伝える難しさを、小川さんを取材してあらためて感じた。
<取材・撮影・執筆>石黒雄太
<撮影・執筆>三浦修