長崎市八幡町が奉納する「弓矢八幡祝い船」は18人の根曳が2.5トンの船を力強く操る豪快さが見どころのひとつだが、本番に向けた週5日の稽古に、大分県から長崎県へと片道4時間をかけて通う男性がいる。男性には長崎くんちをきっかけに抱いた大きな夢がある。
八幡町が誇る「弓矢八幡祝い船」
長崎市の中島川沿いに位置する八幡町はかつては紙すき職人が多く住んでいたという。八幡町は10年ぶりに「弓矢八幡祝い船」を奉納する。

18人の根曳衆が2.5トンもの重さの船を力強く操る様子は荒々しい波を表現している。

「弓矢八幡祝い船」は、山伏道中、剣舞、そして約130羽の白鳩を一斉に飛ばす場面など、3つの要素で構成されている。
県外から通う根曳の決意
八幡町の奉納に向けて、驚くべき決意を持って参加する男性がいる。

大分市在住の堤亮介さん(36)だ。堤さんは週5日、片道4時間以上かけて長崎と大分を行き来している。「まだ練習だが長年あこがれてきた舞台に立ったということで感慨深いものがある」と堤さん。10年前、長崎大学に通っていた際に初めて目にした八幡町の奉納に魅了され、今回の参加を決意した。

その覚悟は並々ならぬものだ。稽古に通う時間を確保するため、福岡県内の自治体での仕事を辞め、地元・大分市の短大に転職したのだ。高速バスなどを利用して稽古に通う堤さんの覚悟を町の人たちも感じている。

根曳の1人・石川蒼天さんは「えぐいなと最初思ったけど見ていて熱意を感じるし、堤さんがいることで周りの熱意も上がる」と話す。
くんちから生まれた大きな夢
堤さんのくんちへの思いは、単なるくんち出演にとどまらない。「大分にもこういう祭りが必要だな。大分の中心になる祭りが必要だとすごく感じた」と、堤さんは大分での新たな挑戦を見据えている。

その挑戦とは、150年以上前に途絶えたとされる「府内祇園祭」の復興だ。「くんちに自ら参加して八幡町で学んで持ち帰り、大分で再興するときにこれを生かしていきたい」と、堤さんは意気込む。

勤務する短大で「観光学」、特に日本の祭礼行事について研究をすすめる堤さんはゼミでくんちの特徴を学生にも伝えている。
地域の枠を超えた”つなぐ”取り組み
八幡町も、堤さんのような新たな仲間を受け入れることで、伝統の維持に取り組んでいる。橋本清自治会長は「異色も異色。びっくりした。ただその分やる気があると思う。新しい風を入れてくれていい」と評価する。くんち本番では、堤さんの教え子約40人がボランティアとして参加予定で、学生たちの宿泊先として八幡町では空きアパートを無料で提供するなど、相互の協力体制も整えている。

いよいよ10年ぶりに出航の日を迎える「弓矢八幡祝い船」。地域の枠を超えて受け継がれる船出を、多くの人々が見守っている。
(テレビ長崎)