シャッターが目立つ秋田・湯沢市の駅前商店街ににぎわいを取り戻そうと、3年前の春、一つの明かりが灯った。当時、この地域では少なかった唐揚げ専門店。「地域を元気にしたい」という思いから始まった店主の挑戦が、街に新たな風を吹き込んでいる。
「シャッターこじ開けるように」飲食業へ
JR湯沢駅前の商店街に店を構える唐揚げ専門店・此処唐堂(ここからどう)。パックや弁当で、揚げたての唐揚げを販売している。
店を営むのは、大仙市出身の伊藤広和さん(46)。横手市のシステム開発会社勤務などを経て、フリーランスでウェブ制作の仕事を始めた。独立して8年後の2017年、知人の紹介で湯沢市に移住した。
移住後、商店街の様子を見て伊藤さんは心を動かされた。
「シャッターが閉まっているところが多く、何か自分でできることがないかと思った。店があるかないかで全く雰囲気が変わると思い、シャッターをこじ開けるように自分を奮い立たせた」と店を開いたきっかけを語った。
こうして2022年4月、此処唐堂がオープン。店名には、“ここから”商店街が変わるきっかけをつくりたいという願いが込められている。
“唐揚げ”で地域に活気を
「商店街を活性化したい」という強い思いから店を始めた伊藤さん。ウェブ制作の仕事は続けながら、初めての飲食業に挑戦した。
伊藤さんは「唐揚げ専門店がはやってきている時だったが、県南地区にはない状態だったので、ここから始めようと唐揚げ専門店を自分で出す決意をした」と話す。

店の一番人気は『こっ唐』。にんにくを使っておらずジューシーで、幅広い世代に大人気の商品だ。

『ざわ唐』は、酒類醸造の盛んな湯沢の魅力を詰め込んだこだわりの一品。酒かすに漬け込んでいるためとても柔らかく、しょうゆの味もしっかりと感じられる。
応援メッセージで街を彩る
年末年始も休まず営業を続ける伊藤さんの姿に、商店街を訪れた人から応援の声が届くようになった。
その声を形にしたい――そんな思いから、2023年に新たな取り組みが始まった。
「みんなの声を書いてもらい、みんなに発信できる、みんなが興味を持つものを考えた。応援メッセージでアートを作りたい。それを商店街のシンボルとして、全国からも人が見に来てくれるものにしたい」と語る伊藤さん。
店頭などに用意されたのは、6センチ四方のメッセージカード。買い物客などに湯沢市や商店街への応援メッセージを書いてもらい、カードを並べてアート作品を作るというプロジェクトだ。
目標は3000枚 全国からの声も
カードの目標は3000枚。スタートから約2年半で1000枚近い応援メッセージが集まっていて、メッセージを書くために遠方から訪れた人もいたという。
伊藤さんは、JR湯沢駅近くに2026年完成予定の複合施設のオープンに合わせて、メッセージアートのお披露目を目指している。
「そこに行けば店がある」という安心感
「まずは店に明かりを灯し続け、厳しい状況は続くが諦めず、そこに行けば唐揚げ店があるという信頼と安心感をつくれるように続けていきたい」と先を見据える伊藤さん。
商店街を活気づけようと奮闘する伊藤さんの歩みは、これからも続いていく。
