年間約4300万本。これは広島県内の小中学校で給食に使われるプラスチック製ストローの数だ。毎日のストローを環境にやさしい素材に換え、現地で堆肥化して循環させる“西日本初”の取り組みが始まった。
見た目は普通のストローなのに…
廿日市市にある吉和小中学校。昼の時間になると、児童・生徒たちはいつも通り給食の準備を進める。
この記事の画像(14枚)「ストローが変わったことにみんな気づいた?」
食事中の生徒に問いかけるカネカの宅佑奈さん。カネカは環境に配慮した製品などを製造・販売する総合化学メーカーである。
「気づいたー」
「透明で長くなった」
「ちょっと硬い」
「ストローを伸ばさなくてよくなった」
「飲みやすい」
これまで使っていたストローとの違いを言い合う生徒たち。見た目は一般的なストローと同じようだが、実はある特殊な素材で作られている。
宅さんは「今回、みんなに使ってもらうストローは土の中や海の中にいる小さな生き物がエサとして食べてくれるので環境に残らない素材です」と説明した。
その素材とは「生分解性プラスチック」。土壌中や海洋中の微生物によって最終的には二酸化炭素と水に分解される。これまでのプラスチックは分解されず“ごみ”として残ってしまうが、生分解性プラスチックであれば分解されて残らないため、海洋プラスチックごみの問題解決につながるという。
海洋プラスチックごみゼロを目指す
広島県内の小中学校で給食に使われるプラスチック製ストローは、年間約4300万本。
県と廿日市市は海洋プラスチックごみを削減するため、9月から廿日市市にある27の小中学校で生分解性ストローを試験的に導入する実証事業を始めた。
県では2050年までに海洋プラスチックごみゼロを目指しているが、2023年度、県内の海岸で回収した12.8トンのごみのうちプラスチックごみが10.7トンを占めていて深刻な状況となっている。
県環境保全課・秋山日登美課長は「海に流れ出るごみを一切ゼロにするの難しい。完全に回収できればいいですが、どうしても流出してしまうという危険性をはらんでいます。生分解性のものであれば、流出してしまっても溶けて環境にやさしい。かなり効果的な取り組みになろうかと期待しています」と話す。
給食ストローを微生物が細かく分解
今回の実証事業では、環境にやさしいストローを使うだけではなく、校内に「コンポスター」と呼ばれる生ごみ処理装置を設置し、使用済みのストローを堆肥にする実験も行う。
この日、生徒たちは初めてコンポスターにストローを投入した。さらに給食の調理で出た野菜の皮や水を加えることで微生物の働きが活発になり、分解されやすくなる。
中学1年生の川﨑桂汰さんは「見た目はプラスチックだけど、土に変わるってどう変わるのかなと思いました。本当に分解されるのかな」と不思議そう。また、中学1年生の大村慧三朗さんは「環境にいいならすごい」と新しい取り組みにワクワクしているようだ。
2週間~1カ月で分解されるという生分解性ストロー。約2週間後の9月19日、再び吉和小中学校を訪れた。コンポスターのまわりを生徒たちが囲んでいる。カネカの宅さんが「いきますよ」と言い、ふたを開けた。
「ええー!すごい、どうなっているの?」
実験を始めた日に入れたストローはほぼ分解しきっていて、小さくなったかけらが土に混ざっている状態。生徒たちは「こんなに細かくなるとは思わなかった」「環境に良くなっている」と驚いていた。
堆肥化して学校菜園で使用
ストローは2週間でその形状がわからないほど細かくなった。
その違いは一目瞭然で、分解は順調に進んでいるという。
カネカの宅さんは「給食ストローは毎日使われるので、どういうスキームや設備の能力があれば、多くのストローを分解できるのか確認したい」と意気込む。
中学1年生の大村さんは「これからもっと細かくなっていくのが楽しみ」、川﨑さんは「吉和だけじゃなくてまわりの学校にもコンポスターを設置して、環境に良い取り組みを増やしていきたい」と話していた。
ストローが分解された堆肥は学校菜園で使用。吉和小中学校をモデル校として“現地で生分解処理する循環モデル”を実証しようとしている。この取り組みは西日本初で、子どもたちだけでなく地域全体で環境問題を考える意識改革につながるかもしれない。
県環境保全課・秋山課長は「学校で学んだことを子どもたちは家に帰って親御さんに話すと思うんですね。環境にやさしいストローを使っていることを家庭や地域で共有してもらうことによって、取り組みが広がっていく」と期待を寄せている。
この実証事業の期間は2025年3月末まで。県は、削減できたプラスチックごみの量などを調べて効果が確認できれば2025年度も継続し、ほかの地域へ拡大していく考えだ。
(テレビ新広島)