「送料無料」。まるで荷物輸送にコストがかからないかのような表示が多い中、トラックドライバーの労働環境は厳しさを増している。流通拠点やサービスエリアでの深刻な「ゴミのポイ捨て問題」をきっかけに、驚きの実態と背景を取材した。
物流拠点に潜む“ゴミ捨て場”
広島市西区。市場や倉庫が集積し、物流の拠点となっている場所で日常化している光景がある。
石井百恵 記者:
朝6時です。大きなトラックがたくさん連なっています。車内で寝ている人も見受けられました
石井百恵 記者:
そして、道路脇の茂みにはビニール袋を中心にゴミが散乱しています。コンビニエンスストアで買ったものでしょうか。食べたあとのゴミがまとめて捨ててあります
まるで“ゴミ捨て場”のように、道路やその脇にゴミが捨てられている。様々な人が捨てたとみられるが、特に多いのは「ドライバー」だといわれている。
トラックドライバー:
多い日には、道路の両サイドに乗用車とトラックの運転手が休憩したり路上駐車もある。その人らが捨てとるんじゃないかなと思う
SAではゴミ箱以外に大量のポイ捨て
一方、高速道路のサービスエリアでも同じ問題が起きている。広島県内で利用者が多い小谷サービスエリア(SA)では、一日平均150kgのゴミを収集。
そのうち、「ポイ捨て」などゴミ箱ではない場所に捨てられているものも多くあるという。取材班が清掃作業に同行させてもらった。側溝から拾いあげたビニール袋の中には…
NEXCO西日本 小谷SA・クリーンスタッフ:
弁当がらなど、たまったゴミがたくさん入っていますね
サービスエリアの出入り口付近の見えにくい場所から、次々とゴミが見つかった。
NEXCO西日本 小谷SA・クリーンスタッフ:
タバコの吸い殻が一番多いと思います。携帯灰皿にたまった吸い殻を車の窓からパサっと捨てて、そのままこんもり駐車場に残っています。それを清掃してまわるのが日課です
「排せつ物」を入れたペットボトルまで
さらに、「こんなものまで?」と驚くようなゴミが多く回収されている。
NEXCO西日本 小谷SA・クリーンスタッフ:
こういうペットボトルもすごく多いです
清掃スタッフが手にしているのは大容量の2Lペットボトル。中に入っている薄黄色の液体は「排せつ物」だ。
NEXCO西日本 小谷SA・クリーンスタッフ:
だいたい夜間から朝方にかけて捨てられることが多いので、人目に付かないときにこっそり捨てにくるのかなという感じはしますね
捨てられたゴミの仕分け作業や処分には費用がかかり、負担は少なくない。
NEXCO西日本 小谷SA・クリーンスタッフ:
みんながきれいな環境で過ごせるようにわれわれは日々頑張っていますので、お客様もマナーにより一層気を付けてもらえたらありがたいなと思っています
「許せない」 同業者からの怒りの声
小谷サービスエリア全体を見渡すと、乗用車に比べてトラックはゴミ箱から離れた位置へ駐車している。
(Q:ゴミを捨てる人を見たことは?)
トラックドライバー:
みんな、ぼんぼん捨てよるよ。ゴミ箱がそこにあるのに、多分、歩くのが面倒くさいだけと思う。自分はしないです
ゴミを捨てるのは一部のドライバー。ゴミ袋をトラックに常備しているというトラックドライバーもいる。
ゴミ袋を常備しているトラックドライバー:
「なんで捨てとるん」と、逆に腹立つこともある。捨てる人の常識がちょっと違うかもしれん
トラックドライバー:
正直、それはもう甘えじゃないですか。トラックドライバーに対する目とか風当たりが強くなるので、許せないというか、それぐらいゴミ箱に捨てにいけよと思いますけどね
トラック協会も問題視
こうした問題を、広島県トラック協会も把握しているという。
広島県トラック協会・森井茂人 専務理事:
雑誌、飲み物の空き缶、弁当がら、そして排せつ物が捨てられているというのが現状だと思います。車内ゴミのポイ捨て防止のためにポスターやチラシなどを作成して配布し、正しくゴミを処分するよう周知をはかっております。5月をトラック運送業界の美化月間に設定し、ポイ捨て防止に向けて強く啓発をしています
しかし、なぜ車内ゴミのポイ捨てが増加したのだろうか?
広島県トラック協会・森井茂人 専務理事:
今、ゴミ箱が社会から減ってきている
以前はコンビニエンスストアの外にあったゴミ箱も店舗の中に設置されるなど、ゴミ箱が減っていることが要因の一つだという。
意外に多いアルコール飲料の空き缶
環境の専門家も調査に乗り出した。路上に落ちているゴミの種類を調査するため、ゴミを回収。
石井百恵 記者:
ゴミの回収を始めて15分程度経過したところですが、あっという間にゴミ袋の中がいっぱいになっています
八千代エンジニヤリング・山本菜月さん:
食品の容器や袋であったり、食べ物・飲み物にかかわるものが多いと感じています
回収したゴミを分析するために、ビニール袋から一つ一つ出して、細かく種類ごとに仕分けていく。
八千代エンジニヤリング・大竹政慶さん:
ビールの缶と弁当がら、箸、あと菓子の袋とか…
大きなブルーシートを広げ、ペットボトル、缶、食品容器などが種類ごとに並べられた。
八千代エンジニヤリング・山本菜月さん:
多いのはペットボトル。意外に、お酒の缶も多い。あそこで食事をしたり休憩をする人がいるのかなと、ゴミを広げてみるとより一層感じます。レジ袋やコンビニごとの商品から、どこかのコンビニに寄ってきた状況が見えてきますね
問題の背景に“長時間の荷待ち”
さらに今回の環境調査では、トラックに搭載されたGPS機器から収集した1分毎の位置情報をもとに、ゴミの多い場所に停車したトラックの行動を分析した。
八千代エンジニヤリング・大竹政慶さん:
特徴として、非常に頻繁に駐車している車両がいくつかあるということ、平均的な駐車時間は約3時間であることがわかっています。駐車を始める時間は深夜から早朝・午前中が多く、逆に駐車を終了して発車する時間帯は正午から午後の時間帯が多いようです。「荷物を何時に取りにきてくれ」と言われ、それまでの時間調整だとか、遠くから来ているトラックはここを仮眠の場所としていると思います
背景には、荷物の集積場で積み降ろしの順番を待つ「荷待ち」と呼ばれる状況があった。
こうした事情について、キャリア30年以上のトラックドライバーに聞いた。YouTubeでトラック業界の事情や道中のグルメを紹介している人気ユーチューバー・おじとらさんだ。
トラックユーチューバー・おじとらさん:
特に冷凍車の仕事は荷待ち時間がすごく長いんです
おじとらさんは、荷物を積み降ろしする様子もYouTubeで配信している。1,000箱ものキャベツを一人で30分かけて載せる動画も。
トラックユーチューバー・おじとらさん:
12月は繁忙期になって、積み下ろしをする所がめちゃくちゃ込み合うんですよ。だから10時間とか待たされることも普通にあるんですよね
一部のドライバーに問われるモラル
専門家による行動分析では、ある傾向も見えてきました。
八千代エンジニヤリング・大竹政慶さん:
駐車する直前にコンビニに寄っていることが、時系列でデータを追うことで何件か見ることができました。コンビニに寄った時間と駐車を開始した時間の差は10分ぐらいですので、すぐ近くのコンビニでお弁当などの食べ物を買って駐車していると思われます
ベテランドライバーのおじとらさんは、ここ数年でゴミが増えた背景についてこう話す。
トラックユーチューバー・おじとらさん:
30年前はコンビニが普及していなかったので、道路にビニール袋に入ったゴミが散乱しているのをまず見ることがなかったんですが、年々多くなっている気がします。やはり買いやすい、捨てやすい、そういったことも関係しているのかなと思います
しかし、おじとらさんたち多くのドライバーはマナーを守っている。
トラックユーチューバー・おじとらさん:
一部の心無いドライバーがやっていると思っています。道路やパーキングは自分たちの職場ですから。一人ひとりが解決していかないといけないでしょうね
トラックドライバー:
個人のモラルの問題やね
競争激化に伴って増える“車中食”
環境悪化につながるドライバーによるゴミのポイ捨て。一人ひとりのモラルが問われるている。
一方で…
広島県トラック協会・森井茂人 専務理事:
ドライバーの意識を変えていくことも必要なんですけれども、社会が一体となってポイ捨てしないような社会環境にしていく必要があるのではないか
そう話す背景には、トラックドライバーの労働環境がある。
広島大学大学院 社会科学研究科・角谷快彦 教授:
トラックドライバーの労働環境は規制緩和の進行によって厳しさを増して、1990年に運賃が認可制から届け出制になったことでより自由な価格競争が生まれるようになりました
広島大学大学院 社会科学研究科・角谷快彦 教授:
さらに、免許制が認可制になって新規参入しやすくなった。競争が激しくなり、価格が低下して賃金が下がっていった
国土交通省の発表によると、1990年に全国で4万72社だったトラック事業者が、2020年には26万2,844社まで増えた。
広島大学大学院 社会科学研究科・角谷快彦 教授:
トラック事業者の経営環境も悪化して、コスト削減のため、高速道路ではETC料金が3割引きになる深夜にトラック渋滞が起きる。いわゆる「深夜集中」が起きて、それまではレストランや食堂で食事をしていたのがコンビニで買って車中食という形になり、それに伴ってポイ捨てが増えていくような構図だと思う
車中食が増え、トラックで過ごす時間が長いことが、排せつ物の入ったペットボトルのポイ捨ての要因の一つに挙げられている。
トラックユーチューバー・おじとらさん:
そういうときのために、簡易的な携帯トイレ。こういうものをトラックにたくさん積んでいるんですよ。使うことはまずないですけれど、あるに越したことはないので
おじとらさんのように、常識的な対策をとるドライバーもいるのだ。
2024年問題でどうなる?
トラック業界は2024年に残業規制が始まり、これまでの無制限から年間残業時間の上限が960時間になる。
専門家は、いわゆる「2024年問題」の影響がポイ捨てにも出てくると予想する。
広島大学大学院 社会科学研究科・角谷快彦 教授:
悪化すると思いますね。より限られた労働時間で多くの荷物を運ばないといけない。車中食がさらに増えて、ポイ捨てにつながるということは十分に考えられます。また、今まで残業代を頼りに生活をしていた人が離職したりすると、より少ないドライバーの数で、増え続ける荷物に対処しなきゃいけない。休憩時間が削られていく可能性が高く、そうなると労働環境は悪くなると思います
そうならないために、どうすればいいのだろうか。
広島大学大学院 社会科学研究科・角谷快彦 教授:
政府が労働生産性向上のための投資をするということだと思います。例えば、インフラ投資。道路が良くなればスムーズに荷物を運べるようになる。それから補助金。トラックのETC料金を無料にして高速道路料金を払わなくていいようにすれば、運輸業に余裕が生まれてドライバーの待遇も改善されていく可能性が高いと思います。また、将来に向けた高速道路の自動運転技術の研究開発投資も重要です。労働生産性が向上すれば、おのずとドライバーの待遇も良くなる。そのあたりが鍵だと思います
休憩場所を確保する県内初の実証実験
そんな中、2024年問題を見据えて、トラックドライバーの休憩場所を確保しようとする動きがある。NEXCO西日本は、より多くのドライバーがサービスエリアを利用できるようにするため、広島県内初となる実証実験を12月19日からスタート。
鈴木崇義 記者:福山サービスエリア下りです。午前10時ですが、駐車スペースの大型車マスには多くのトラックが止まっています。その中で、あまり見慣れない“黄色いマス”がありますね
NEXCO西日本 中国支社 交通計画課・吉川貴信 課長代理:
2024年問題を意識しています
福山サービスエリアの夜間の様子を見ると、長距離トラックなどの大型車がびっしりと駐車している。特に午後8時から翌日午前5時の間は常に満車状態で、中には半日ほど止まっているトラックもあるという。
この状況で問題となっているのが、駐車できない大型車が多く発生していること。NEXCO西日本ではこれまでも、小型車マスを大型車マスに変えたり、福山市のシンボルであるバラを植えていた一部のスペースをなくして、駐車スペースを増やしてきた。
60分以内の駐車なら短時間限定マスへ
さらに今回の実験では“短時間だけでも”止めたいトラックが駐車できるよう、60分以内に出発することを前提とした大型車限定の駐車マス5台分を設け、混雑状況や効果などを検証することにしている。
NEXCO西日本 中国支社 交通計画課・吉川貴信 課長代理:
やむを得ず本線の路肩にトラックを止める人がいるが、非常に危ない。正規の休憩施設で止まっていただいて、トイレ、食事、ゴミ処理もやっていただければという思いはあります
実証実験は、広島県内では「福山SA下り」で半年から1年ほど行われる予定。
私たちの生活に必要な荷物を運んでくれるトラックドライバー。一人ひとりのマナーやモラルだけでなく、その労働環境の改善に目を向けることが、ポイ捨てを減らす第一歩になる。
(テレビ新広島)