この夏、猛暑が続いた余波が広島名産のカキにも及んでいる。海水温が下がらないと、カキの身が大きく、太らないことから、養殖業者らは、水揚げを例年より20日遅らせ、10月21日からにすることにした。広島カキのブランドを守るために課題と向き合う現場を取材した。
9月の海水温 例年より5℃高い
広島が生産量日本一を誇る「冬の味覚」カキ。例年の出荷開始は10月1日だが、海水温が下がらず、身が大きく育っていないため、広島県漁連などが協議し、水揚げは例年より20日遅い10月21日からと決めた。
この記事の画像(11枚)広島湾内の海水面の温度は9月にもかかわらず29.9℃。これは過去30年間の平均水温と比べ5℃も高い。
地上だけでなく、海の中の季節にも「ズレ」が生じている。気になるのはカキの品質だが、水揚げを遅らせれば問題ないという。
米田海産・米田礼一郎 社長:
解禁日が遅れると、カキの品質が悪いんじゃないかと思う人もいるかと思いますが、必ずしもそうではなく、遅れる分、待てばその分成長するので、いいものが食べられると期待して待ってもらえたらと思います
カキの身は、水温が下がらないと太り始めない。おいしいカキの特徴の“ぷりっ”とした身になるには水揚げの時期を遅らせて、身が育つのを待つしかない。
水揚げの遅れについては、「広島カキ」のブランドを守るために加工業者もやむを得ないと考えている。
カネウ・村田泰隆 社長:
品質を求めると水揚げは必然的に10月の後半になってしまう。生鮮ものが間に合わなければ冷凍加工品で対応する。以前のようには品不足にはならないでしょうし、今後品質の改良で対応できていく見込みで、非常に進化し続けていますね
かき殻置き場が満杯
水揚げに遅れが生じた理由には、別の物理的な課題もある。それは、かき殻だ。
五十川裕明ディレクター:
高さがビル5~6階くらいあるんじゃないかという感じです
白く積みあがった山、これは昨シーズンまでの「かき殻」のほんの一部だ。広島ではむき身にするときに年間14~15万トンのかき殻が出ると言われていて、昨シーズンは最盛期に広島県内の堆積場が一時、満杯に近い状態となった。
五十川裕明ディレクター:
これだけ山になるのであれば、海に捨ててしまえばいいんじゃないかと素人感覚で思うのですが、そういうわけにはいかないですか
丸栄・立木仁 常務:
粉砕したものを単純に海に撒いてしまうと浮遊してしまうし、加工をしておかないと海の水質改善に悪影響を及ぼします。
かき殻は、ほとんどが肥料や家畜用の飼料として新たな「資源」になるが、その前には一時的に堆積場に保管せざるを得ない。身が小さいカキばかりをむき身にすると、殻の量が増えてしまい、結果的に堆積場に入りきらなくなる恐れがあるという。
とは言っても、かき殻を肥料や家畜飼料として資源化する取り組みは、立木常務によると、まだ伸びしろがあり、ある程度は解決できそうとのことだ。
水揚げの時期について、広島県水産海洋技術センターを取材した五十川ディレクターによると、「2023年は10月1日が水揚げ開始だったが、実際には生育が整う11月まで出荷を待つ養殖業者が多かった」ということだ。
気候変動の影響を受ける広島のカキ養殖は、持続可能な生産体制と「ブランド力」を守るために現場での奮闘が続く。
(テレビ新広島)