日本の漁業は気候変動に伴う漁獲量の減少や後継者不足で厳しさが増しているが、広島では、魚のプロたちがタッグを組んで、広島県産の魚に新たな価値を生み出す取り組みが始まっている。
瀬戸内の極上の魚介を堪能するイベント
8月末、広島県が主催する「夏の瀬戸内さかな体験会」が開かれた。こだわりの漁師がとった魚を目利きの仲買人が厳選し、人気店の調理人が腕を振るうぜいたくなイベントだ。お客さんは、取り組みの趣旨に賛同した希望者で、会費を払って参加した。
この記事の画像(14枚)瀬戸内の魚の魅力を知り尽くす、漁師らの普段は聞けない話もこの会の売りだ。
漁師・広島市漁業協同組合 岡野真吾さん:
沖と湾内でタイの顔が違うんです。目の大きさが変わるんです。なぜかというと、エサを一生懸命に探す魚ほど目が大きくなる。
気候変動などによる漁獲量の減少や漁師の後継者不足で広島でも漁業の先行きに不透明感が増している。そんな中、魚のプロたちが、組織を超えて協力するために集まることが、このイベントの目的だ。
料理の素材集めは、仲卸業の吉本さんが担当。イベント当日、午前3時過ぎの広島市中央卸売市場には、県内外から様々な魚介類が集まる。
貴重なアナゴを手間をかけてさばいた刺身に
広島の海の幸といえば、外せないのがアナゴ。しかし、近年は貴重な存在になってしまった。
仲買人・広島中央卸売市場 吉文 吉本崇仁社長:
貴重です。広島県産のアナゴは、とる漁師さんも減っていて、ほとんどとれていません。瀬戸内のアナゴは皮が硬くて脂がないイメージですが、とる場所によってはすごく脂があって、めちゃくちゃおいしいアナゴがいるんです。食べれば、驚いていただけると思う。
アナゴはシンプルにお造りに。このアナゴは、漁師の岡野さんがとった自慢の一品。ここでも、とっておきの話が…
漁師・広島市漁業協同組合 岡野真吾さん:
河口のアナゴが一番いい。腹が金色の「金アナゴ」。これは、その河口でとったアナゴです。
Q:とった場所を言っていいんですか?
大丈夫です。
岡野さんがとる魚には、プロとしてのこだわりがあるという。
仲買人・広島中央卸売市場 吉文 吉本崇仁社長:
このアナゴは、とった漁師さんが、おなかのエサを出してくれているんです。きょうは、しめて刺身で出すのですが、おなかのエサが抜けているので臭みも少ない
生産者や漁師には、それぞれのこだわりや工夫があり、イベントの時だからこそ、独自のアイデアや苦労話を聞くことができる。
カキ養殖の秘話やサザエのおいしい食べ方を披露
養殖業の栗原さんは「かきむすめ」ブランドのカキを独自の方法で養殖している。
養殖業・音戸海産 栗原単 専務:
小さいカキの方は、大きいカキに栄養を吸わせて、サイズを小さい状態にしながら1年半育てる。その後、半年だけエサを入れる養殖法のカキで、味が濃くなる
内藤さんが、素潜りでとるサザエには、出荷するまでの処理で一工夫こらしている。
漁師・マルキ水産 内藤希誉志 代表:
市場に出す時に水槽の中で泥を吐かせ、砂を抜く。4日くらいで、おなかの中のものを全部出し、中にためている砂を全部出すと、つぼ焼きにしても、全部食べられる
漁師や生産者らには、魚をおいしく食べるための工夫やこだわりがある。しかし、日頃、消費者からどう評価されているかを知ることは、ほとんどないという。
漁師・マルキ水産 内藤希誉志 代表:
食べてもらって、おいしいという声を聞けば、今まで以上に手をかけていこうと思います。
また、生産者や漁師さんは、飲食店のニーズを知る機会も少ないという。
漁師・広島市漁業協同組合 岡野真吾さん:
いい魚を卸すだけではなくて、料理に合った、魚のしめ方や保存方法などで進化や改良ができると思います。
魚に携わる全ての業種が情報を共有することで、瀬戸内の魚の価値を今以上に高めることが可能になる。
仲買人・広島中央卸売市場 吉文 吉本崇仁社長:
お互いプロ同士が集まって、1+1が2だったり、3や4になるような取り組みを今後もやっていきたい。
漁師の後継者不足や漁獲量の減少で先行きが不透明といわれる日本の水産業だが、このようにプロ同士での情報共有、ノウハウをシェアすることで、新たな価値を生み出し、ファンを増やすことができそうだ。
(テレビ新広島)