これまで当たり前と思われていた“立ち仕事“の職場に、いま、椅子を導入して“長時間の立ちっぱなし”を改善しようという動きが広がっている。人材確保が社会問題になる中、変わる職場のいまを取材した。

仕事中“ちょっと座れる”安心感

九州・山口で64店舗を展開するホームセンター「グッデイ」では、2024年9月から、福岡県内の5店舗でレジに1台ずつ椅子を設置した。

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店舗運営企画室の池本佳史室長は、「思っている以上にレジでの立ち仕事は、腰や足などへの負担が非常にあるという意見があったので、改善になればと思い今回導入を決めた」と椅子導入の理由を説明する。

レジをはじめ、これまで当たり前と思われてきた「立ちっぱなし」の仕事に、医師も警鐘を鳴らしている。

「下半身の筋肉が常に収縮している状態になるので、むくみが出たり、血管のこぶができたりする。体のパーツ別では下半身全体、足首から足の裏、膝、腰、首肩などに負担はかかってくる」と高森整形外科・内科の高森義博院長は注意を促す。

国も小売り業界の実態調査へ

厚生労働省の労働安全衛生規則では「就業中しばしば座れる機会がある時は、労働者が利用できる椅子を備えなければならない」と定められていて、違反すると、罰則(6月以下の懲役または50万円以下の罰金)が科せられることになっている。

しかし、現状では椅子の設置を義務づけてはいるが、導入はあまり進んでいなかった。そのため2024年7月、小売業界に対して椅子の使用状況も含めた負担軽減策のヒアリング調査に乗り出している。

「座ってイイッスプロジェクト」

こうした状況に風穴を開けようと始まったのが、その名も「座ってイイッスプロジェクト」だ。求人情報サイトを運営する「マイナビ」が、全国の企業に向け椅子の設置を呼びかけている。

アルバイト情報事業本部の南波直樹さんによると、きっかけは海外に行く機会があったプロジェクトメンバーが、現地のスーパーでは当たり前のように座って働く姿に衝撃を受けてのことだったという。

海外とは異なり日本では定着してこなかった「座って接客」。店舗側に、接客中に椅子に座ることを導入しない理由について調査したところ、最も多かったのは「客の印象悪化を防ぐため」。続いて「なんとなく…特に理由はない」が4分の1を超えた。

マイナビの南波さんは「何となくとか、今までそうだったからとか、当たり前の慣習みたいなところは、こういったきっかけがあれば、もしかしたら変わっていけるような部分も日本の中で、まだまだ他にもあるのかなと思っております」と前向きだ。

スタッフは慣れない違和感も

プロジェクトに賛同し椅子を設置した福岡市のホームセンター「グッデイ」。懸念していた“客の目”だったが、来店客からは「不快には感じない」「お客さんがいない時はいいんじゃないですか」「ずっと立って待ってるのも辛いだろうなと思うから」などと座りながらの接客に理解を示す。

一方、スタッフからは、意外な感想も聞かれた。

レジ歴約4年の松本昭代さん(52)は、「腰が痛いとなどその日の調子もあるので、楽かなと。なんとなくずっと立ってなければいけないという感じがあるので、安心感はいただけるのかな」と、椅子設置に前向きな感想を語った。

しかし、レジ歴20年以上というベテランの前山春美さん(69)は、「ずっとこの仕事ですから慣れています。あんまり立ち仕事に対しての負担はないです」ときっぱり。むしろ、これまでしてこなかった「立つ・座る」の繰り返しがかえって不便だと感じているようだ。

さらに前山さんは、「仕事内容がレジだけではなく結構動くので、レジからの出入りが狭くて違和感がある。個人的には椅子がない方が…」と、率直な感想を話してくれた。

職場環境改善で新たな雇用創出にも期待

導入から間もないため戸惑う店員もいるが、グッデイの池本室長は、職場環境の改善で新たな人材確保にもつながるのではと期待を寄せている。「レジなどの業務をしたいけれど、腰や足が痛いなどの理由で仕事選びの選択肢になかった方々が、ぜひ当社でも、椅子を利用して働ける環境というのを一度体験していただけたらなと思います」と呼びかけた。

「座って接客」が今後客と店の双方にとって「当たり前」になるのか…。これからのプロジェクトの広がりに注目だ。

(テレビ西日本)

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