日本製鉄によるアメリカ鉄鋼大手USスチールの買収計画に注目が集まる中、日本製鉄が外国資本による米国企業の買収を審査する対米外国投資委員会に対して、買収計画を再申請する方針を固めたと報じられた。
この記事の画像(6枚)これによってバイデン政権による是非の判断は11月5日の大統領選後に先送りされることになったが、9月になって同政権が買収計画に対して中止命令を出す方向で最終調整に入っていると報じられたことから、買収が認められるかは依然として不透明な状況と言えよう。
保護主義化するアメリカ
一方、対米M&Aを行うアメリカに進出する日本企業としては、今回の件から1つ捉えるべきポイントがある。保護主義化するアメリカだ。
2016年のアメリカ大統領選で勝利したトランプ氏は、大量に流入してくる安価な中国製品からアメリカを守るとの決意で、2018年から4回にわたって3700億ドル相当の中国製品に最大25%の追加関税を課し、中国もそれに対して報復関税を発動し、米中間では貿易摩擦が激化していった。
しかし、トランプ政権を批判し続けてきたバイデン大統領も、対中国という部分ではトランプ路線を継承した。バイデン政権は対中国を外交政策上の最重要課題に位置付け、中国新疆ウイグル自治区における強制労働などの人権問題を理由に、それと関連する中国企業へ貿易規制措置を次々に発動し、2022年6月にはウイグル強制労働防止法を施行した。
また、バイデン政権は先端半導体の軍事転用を防止する観点から、先端半導体分野の対中輸出規制を大幅に強化したが、先端半導体の製造装置で高い技術力を誇る日本やオランダ、ドイツ、韓国などの同盟国にも対中規制に同調するよう求めるなど、保護主義的な動きを強めている。
2024年5月には2兆8000億円相当の中国製品に対する関税を引き上げると発表し、中国製EVが25%~100%、車載用電池や鉄鋼などが7.5%~25%、太陽電池の関税が25%~50%などに引き上げられ、非先端の半導体や医療製品なども対象に含まれた。
アメリカ大統領選挙ではトランプ氏とハリス氏の戦いが続いているが、トランプ氏は中国製品に対する関税を一律60%に引き上げると強調し、ハリス氏もトランプ時代にアメリカの半導体が中国に流出し、結果として中国軍の近代化を支援することになったなどと主張しており、2025年に発足する新政権もトランプ、バイデン路線を継承することになるだろう。
外国企業と中国の関係に神経質になるアメリカ
日本製鉄によるUSスチール買収の件も、この一環で考えられる。無論、アメリカが日本企業に対して特別な警戒感を抱いているわけでない。しかし、中国への警戒感を強めるアメリカは、日本企業がどこまで中国、中国企業と繋がっているかを強く意識し始めていると考えられる。
日本製鉄によるUSスチール買収計画が広く議論される中、米国議会では4月に日本製鉄の中国事業を問題視する意見が上がり、バイデン政権には、日本製鉄と中国との関係を精査するよう求める書簡が民主党の上院議員から送付された。日本製鉄は中国鉄鋼大手「宝山鋼鉄」との間で2004年に合弁会社を設立し、自動車向けの鋼板の製造や販売などを行ってきたが、2024年7月に同社との合弁事業から撤退すると明らかにした。だが、それによってすぐに米国が抱く懸念が払拭されるかは分からない。
日本企業による対米M&Aはここ数年増加傾向にある。日本企業による脱中国依存なども影響し、今後その数はさらに増える可能性があるが、米中間で経済、貿易の摩擦が激化すれば、米国は日本を含む外国企業と中国との関係にいっそう神経質になってくることが考えられる。