長崎の秋の風物詩「長崎くんち」を前に、2024年に出演する踊町とその見どころを紹介する。獅子と蝶が勇壮かつ優雅に舞う本踊「石橋(しゃっきょう)」を守る興善町が、本番を前に踊りに磨きをかける。

能をもとにした格式高い「石橋」

2024年9月1日、31度の厳しい暑さの中、諏訪神社では踊子たちは2メートル、重さ3キロの獅子役のかつらを着けて稽古に励んでいた。

重さ3キロあるかつらを着けて舞う
重さ3キロあるかつらを着けて舞う
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夏の稽古の必須アイテムは「冷感スプレー」
夏の稽古の必須アイテムは「冷感スプレー」

白獅子役の藤間織月さんは「冷やす、冷感スプレー!」と足元にもスプレーをかけ、暑さ対策に余念がない。藤間峰織貴師匠は「暑いし光がいっぱいあるけど、なるべくニコニコでね」と子供の踊子に声をかける。厳しい稽古の中にも笑顔が絶えない。

興善町が奉納する「石橋」は、くんちの本踊では珍しく能の演目をもとにしている。中国の清涼山を舞台に、文殊菩薩の浄土にかかる石橋の前で獅子と胡蝶が牡丹に戯れる様子を描く、おめでたくも格式高い舞だ。1985年に復活した興善町の奉納は、2024年で6回目となる。

進む高齢化で伝統継承の課題も

興善町は、長崎市立図書館や消防局、オフィスが立ち並ぶ町だ。

長崎市興善町
長崎市興善町

マンションが新たに建設されることはほとんどなく、自治会に加入しているのは以前から暮らす60世帯ほどだ。人口が増えず、年々高齢化が進んでいて伝統を守ることは並大抵のことではない。

子供たちの成長が町を元気に

最初に登場する「楽の精」は、町にゆかりのある4歳から10歳までの9人の子供たちが務める。

「皆と一緒に合わせてできることが楽しいです」と話すのは、興善町在住で楽の精を務める入口華さん(小4)。大人の踊子との共演は、町の子供たちにとって大きな刺激となっている。

婦人部副部長の荒木由紀子さんは「皆さん町の方も本当に喜んで子供さんたちを応援しています」と語る。子供たちの成長する姿が、町全体の活力となっているのだ。

この世とは一線を画した神秘的な世界へ

獅子らしい動きを表現するため重心を落とし、目つきや表情にも気を配る。

白獅子を務める藤間織月さんは「首だけ振ると首を痛めるし、全然、毛が思うようにいかないので、毛の先を遠くに飛ばすイメージで頑張っている」と稽古にも力が入る。また、赤獅子を務める藤間織貴祥さんは「蝶は蝶らしく、獅子は獅子らしく皆様に伝えられて、いい奉納ができたら」と本番への意気込みを語る。

藤間峰織貴師匠は、古典の中にも新たな趣向を取り入れた。山場には浄土へと続く橋「石橋」が姿を現す。また四方に観客がいることを意識し、より立体的な舞になるよう工夫を凝らしている。

10月のくんち本番。初日の諏訪神社で「一番町」を務める興善町の「石橋」が、長崎くんちの幕開けを華やかに告げる。10年ぶりに帰ってきた勇壮な獅子と優美な蝶の舞が、町の人々の思いとともに、伝統を未来へとつなぐ。

(テレビ長崎)

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