世界的バイオリニストの葉加瀬太郎さん(56)が「ラムゼイ・ハント症候群」を公表した。ある日突然、顔の半分にまひが起こる神経系の病気で、葉加瀬さんも顔面の左半分が動かなくなったという。
また一昨年には、アーティストのジャスティン・ビーバーさんも同じ病気を発症し、一時的に活動を休止していたが、どのような人がなりやすいのか。発症のきっかけや予防法を慶友銀座クリニックの大場俊彦理事長に聞いた。
水疱瘡のウイルスが再活性化
ーー「ラムゼイ・ハント症候群」とは?
ラムゼイ・ハント症候群は顔面神経まひで、頭から耳の奥を通って顔に麻痺が起こる病気です。初期症状としては、耳の周りにヘルペスの赤い発疹が出る、耳鳴りや難聴、耳の痛み、味覚障害、めまいなどがありますが、だいたいは顔面まひが先に来ることが多いです。
ーー何が原因で発症する?
水疱瘡のウイルスが原因です。小さい頃にかかった水疱瘡のウイルスが耳の奥の神経の中に生き続けています。普段は何も悪さをしませんが、年齢を重ねて疲れたりストレスを感じたりすると、神経内のウイルスが活性化して神経を膨らませてしまいます。しかし神経は硬い組織の中を走っているので縮んで引き締められ、それに伴ってまひが起こる仕組みです。
子どもの頃に水疱瘡にかかっている人は多いので、病気を発症する可能性は多くの人にあります。
異常を感じたらすぐ病院へ!
大場理事長によると、顔面神経まひは早めに治療をすれば治りも早く後遺症も少ないという。耳に違和感を感じるなど、少しでも調子が悪いと思ったらすぐに病院に行くことが大切だと話す。
ーー何歳ぐらいから発症しやすい?
50歳を過ぎてくると発症しやすくなります。最近の子どもはワクチンを打っているのであまり水疱瘡にかかりませんが、昔は打っていなかったので皆さん水疱瘡にかかっていました。
子どもが水疱瘡になることで、親ももう1回ウイルスに晒されてブースター効果で抵抗力がついたのですが、最近は子どもが予防注射をしているので新しくかかることがなくなりました。そのため50歳を過ぎた頃から男女ほぼ同じ確率で発症しやすくなり、60歳以上になると更にかかりやすくなっています。ストレスや疲れがある人、糖尿病など持病がある人は治療がしにくく、症状も強く出ます。私の経験では患者数は少し増えていると思います。
ーー自覚症状は?
朝起きた時に「顔の動きが少しおかしい」というのが一番多いです。葉加瀬太郎さんの場合は目に症状が出たようですが、目が開けにくくなったり、顔の動きが悪くなって病院に来る人が多いです。早く治療すればするほど治りが早いので、調子が悪いと思ったら放置せずにすぐに病院に行ってください。
ちょっと顔に違和感があったら鏡を見てウィンクができるかなど確認してください。笑った時に顔が引きつるなどした場合は病院に来てください。耳にちょっと痛みがあって、中耳炎かと思ったらヘルペスが結構出ていた…というケースもあります。耳に変な痛みがあったり、突き刺すような激痛がある場合は耳鼻科に行って検査をすれば原因がわかるので、とにかく早く病院に来て治療を始めることが大事です。そうすれば後遺症も少なく済みます。
最新型ワクチンで約90%以上予防
ラムゼイ・ハント症候群の治療には有効な薬もあるが、50歳を過ぎたら最新型のワクチンで予防することが1番だと大場理事長は話す。
ーー治療法は?
基本的には抗ウイルス薬やステロイドという副腎皮質ホルモンを投与します。しかし糖尿病がある患者にはステロイドが使えないので、入院して内科の医師のチェックを受けながら薬を投与することになります。そうすると数カ月単位でだんだんと良くなることが多いです。
ーー予防法は?
50歳以上からワクチンが打てます。ワクチンは2種類あって、少し弱めのワクチンと新型のかなり効果がある強めのワクチンがあります。自治体によっては補助金が出るところもあるので、50歳を過ぎたらワクチンを積極的に打つことをおすすめしています。
昔からある生ワクチンの持続性は5年で、1回の皮下注射で終わります。50~59歳までの発症予防率は約70%、60歳以上は約50%です。もう1つの最新型の不活化ワクチンは2回打つ必要があり、筋肉内注射なので少し痛く値段もやや高額ですが、50歳以上は約97%、70歳以上は約90%の発症予防効果があると言われています。そのため、できれば最新型のワクチンを打つことを推奨しています。