トランプ前大統領の暗殺未遂事件、バイデン大統領の再選断念、そしてハリス副大統領の民主党大統領候補への決定。
この記事の画像(10枚)7月以降、怒濤の政局となったアメリカ大統領選挙だが、トランプ氏とハリス氏の初の直接対決となるテレビ討論会が、日本時間11日午前10時(現地10日午後9時)から行われる。
投開票日まで2カ月を切る中で、選挙戦の今後に大きな影響を与えると見られる注目の討論会のポイントを解説する。
討論会の開催地、ルールは?
ABCテレビが主催するテレビ討論会は、激戦州の1つ、ペンシルベニア州フィラデルフィアで開催される。9月4日に両陣営が合意し、以下のルールも公表された。
・討論会の時間は90分(CMは2回)。会場に聴衆は入らない。
・立ち位置は画面の左側がトランプ氏、右側がハリス氏・メモや小道具の持ち込み禁止。ペンとメモ用紙、水1本が渡される。
・冒頭に両氏の演説はなく、討論会の最後にハリス氏、トランプ氏の順番で2分間の演説・質問に対する回答は2分。反論が2分、補足説明などのため1分延長される可能性がある。
・候補者同士で質問することは禁止。マイクの音声は、発言機会以外はミュートになる。
焦点となっていたのは、ハリス氏側が求めたマイク音声の常時「オン」だ。6月のバイデン氏とトランプ氏のテレビ討論会では、バイデン氏側が発言中のトランプ氏の横やりを気にして、マイク「オフ」を要請した。
今回、ハリス氏側は真逆の対応を求めたが、ハリス氏の発言中にトランプ氏の批判や個人攻撃の音が流れれば「大統領らしくない」と視聴者に印象付ける狙いがあったと見られる。
結果として、相手の発言中はもう一方のマイクの音を消すことになった。
キャラチェンジに失敗 トランプ氏は「悪口」を抑えられるか?
アドリブが得意とされるトランプ氏だが、前回の討論会も事前準備は最小限で臨んだ。今回も討論会直前の週末は選挙集会で、1時間半以上も演説を行っていた。
陣営は暗殺未遂事件の直後は「分断」から「全ての国民の大統領」としてアピールし「結束」を訴える大統領像を目指した。
しかし、若干の変化はあるが、未だ発言の多くに悪口や批判が目立つ。トランプ陣営からはハリス氏に対し、いつも通りの「極左」「最悪の副大統領」「マルクス主義者」などと個人攻撃を連発すれば、トランプ氏に不利になると懸念する声も挙がる。
国民が最も重要視する「経済」や「不法移民」「治安」の問題などで、バイデン政権で副大統領を務めるハリス氏の「失政だ」として、追い込むことができるのかが、焦点になりそうだ。
個人攻撃はトランプ氏の支持層には響くが、中間層、無党派層へは響かない。逆に個人攻撃に終始すれば、ハリス氏に優位に傾く可能性が高くなる。
勢いは限界? ハリス氏は論戦で正念場
現地メディアによると、ハリス氏は5日午後から9日までペンシルベニア州で討論会に向けた「特訓」を行った。討論会場を模したステージを作り、側近がトランプ氏役を務めたという。高齢批判が根強かったバイデン氏に対して、若さや明るさを前面に出しているハリス氏だが、討論のパフォーマンス力は未知数だ。
大統領候補になってからテレビインタビューは1度のみで、政策よりも雰囲気重視でこれまで選挙戦を戦ってきたとの指摘は多い。インタビューでも「価値観は変わっていない」と述べたが、知りたいのはその価値観だ。
現政権の副大統領として、トランプ氏の批判にどう反論し、自身が大統領になればどのような未来が待つのか。具体的な説明が問われる場面ともなりそうだ。
また、陣営としてはトランプ氏の攻撃的な姿勢を引き出し、ハリス氏の方が大統領にふさわしいと見せたい狙いも窺える。
最新の世論調査でも大接戦
ニューヨーク・タイムズとシエナ大学による8日に発表された世論調査では、トランプ氏がハリス氏を48%対47%でリードしている結果となった。ニューヨーク・タイムズの記者は「この結果は少し意外だ」とした上で、ハリス氏への熱狂的な報道が続いた状況から、トランプ氏の支持への回帰が見られる点を指摘する。
さらに、有権者にとって重要な課題などで、トランプ氏の方がハリス氏よりも「優れている」との回答が多い点にも注目した。
最大の関心時の「経済」では、「どちらの方がより良い仕事をすると思うか?」という問いに、トランプ氏が55%、ハリス氏が42%。18歳から29歳のハリス氏が人気とされる若者層では、トランプ氏57%、ハリス氏41%と差も開いている。ハリス氏優位の報道がここ1カ月は目立っていたが、再び状況は接戦に落ち着き始めた兆候かもしれない。
政治サイト「ポリティコ」は、この世論調査を元に、ハリス氏の立ち位置を、バイデン氏がトランプ氏に勝利した2020年の大統領選挙よりも、ヒラリー・クリントン氏が敗北した2016年に方に近いとも分析する。
トランプ氏自体も支持の伸び悩みが起きている一方で、ハリス氏も勢いに限界が見えてきているようだ。投票日まで残された時間を考えれば、討論会が大きな節目になるのは間違いない。
両者がどのような論戦を繰り広げるのか。勝者はどちらになるのか。はたまた、2人とも痛み分けのような議論になるのか。今後の選挙戦を占う勝負の一番となりそうだ。
(FNNワシントン支局 中西孝介)