太平洋戦争の記憶が各所に残るアメリカ海軍士官学校には、9カ国が教官を派遣している。日本からも1971年以降、海上自衛隊が教官を派遣。

米海軍士官学校に派遣されていた田浦貴明二等海佐(41)
米海軍士官学校に派遣されていた田浦貴明二等海佐(41)
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今回、2年間の任期を終えて、7月末に帰国したばかりの田浦貴明二等海佐(41)に話を聞くことができた。日米関係の礎としてどのような職務を果たし、学生への指導と交流を行ってきたのか、話を聞いた。

田浦氏と各国から派遣された教官
田浦氏と各国から派遣された教官

―海軍士官学校ではどのような職務を行っていたのでしょうか?

海上自衛隊 田浦貴明2等海佐:(以下省略)
学校の中に訓練部航海科という部署があり、そこで教官として学生の必修科目である航海の授業や船の動かし方、操船実習などを担当していました。また、米軍の教官に対して船を動かす訓練の管理や、計画を助言し、練度、実力と技能を審査するような仕事もしていました。月に3回くらい実習があり、船の動かし方、レーダーの使い方、プラネタリウムを使った星の見つけ方なども教えていました。

田浦氏が行った操船実習の様子
田浦氏が行った操船実習の様子

―海軍士官学校の学生の雰囲気はどのようなものですか?日本との違いは感じましたか?

士官学校は学術的なことを重視していて、軍事以外に興味を持つ学生も多くいます。特にサイバーや統計学の分野、データサイエンス、コンピューターサイエンスを専攻している学生は、民間技術の動向にも強く関心を持っています。また、日本と異なり海軍に定年まで務めると言っている学生は、ほとんど見たことがありません。卒業して最低5年は軍に務めなければいけないのですが、その後、どこに就職するとか、どういう人間になりたいかという話をしていました。

授業中に発言する学生は日本より圧倒的に多いという
授業中に発言する学生は日本より圧倒的に多いという

また、学生の自主・自律を求めているため、日本と比較して強制的なルールは少なく、自由な雰囲気が漂っています。必修科目が少ない上に、企業インターンシップや短期留学などの多彩なプログラムも用意されていて、得意分野を伸ばせる土壌があると思います。

―アメリカでは軍人を目指す学生数が減っていると聞きますが、学生の雰囲気は?

統計的なデータとしては、公表されている通り志望者は減ってきています。ただ、今は、台頭する中国に関心を持っている学生が多く、台湾有事に関心を持つ学生は大勢います。イスラエルやウクライナといった現在進行形の紛争や戦争についても、関心を持つ学生は多いです。

ウクライナ、ガザ地区の紛争や台頭する中国に対する学生の関心は高い
ウクライナ、ガザ地区の紛争や台頭する中国に対する学生の関心は高い

講演会などもよく開催されているのですが学生にとって数少ない自由時間の昼休みでも、満員になります。

―学生達の日本や日米関係に関する印象はどのように感じましたか?

日本については「価値観を共有する同盟国」として期待していると思います。日本には多くの基地があり、海外の基地としては1番多いです。ご家族が軍人で日本に住んだこともある学生も多くいます。他の同盟国とは少し違った存在、身近な存在として受け取られています。

学内にも日本の文化や歴史を紹介する掲示が多くあった
学内にも日本の文化や歴史を紹介する掲示が多くあった

一方、学内には戦前の日本に関する展示物が多くあり、アメリカにとって日本は、かつては国家の運命をかけて敵対した国だけれども、現在は最重要の同盟国と認識されていると思っています。あれだけの戦いをした相手だからこそのリスペクトも感じられるのだと思います。

学生からは日本は最重要の同盟国と認識されているという
学生からは日本は最重要の同盟国と認識されているという

米海軍にとって横須賀や佐世保はある種の「バトルフロント」と彼らは表現したりしますが、「前線」という意識もあり、日本に配属されることはやりがいもあると思います。ただ、彼らの中では沖縄を中心とした基地問題があるという認識もあるので、日本に赴任した際には、歓迎されるような軍人になりたいという学生もいました。

ー配属先の希望として日本は人気ですか?

人気です。彼らは成績順に赴任地を選べます。日本はかなり成績上位でないと行けないということも、人気の証拠ですね。

学校の卒業式に出席した際の田浦氏
学校の卒業式に出席した際の田浦氏

―日本について学生に聞かれたりする機会は多いですか?

日本に赴任したい学生が「日本はどういうところですか?」「日本はアメリカ人をどう思っていますか」と個人的に尋ねてくることは多いですし、日本の文化的なことや、政治的なスタンスを聞かれることもあります。

学生からは日本についての質問も多く出るという
学生からは日本についての質問も多く出るという

―学生にはどう答えていましたか?

あくまで個人的な見解ですが、日米は今、防衛協力を含めて幅広い分野での連携を拡大しています。「やれることを政府も増やしているということは、日本もアメリカともっともっと一緒に活動をしたいと思っていて、一緒に頑張って行くという気持ちは、(日米政府や自衛隊、米軍関係者)みんなが共有していることだと思うよ」と教えていました。「基地問題があるのも事実だが、歓迎される軍人になりたいという姿勢を分かってくれる人も多い」という発言もしています。

学生からは日米の連携のさらなる強化に期待の声も
学生からは日米の連携のさらなる強化に期待の声も

―「学生は日本に期待している」とのことですが、日米共同活動の拡大に期待していますか?

学生たちは日本が防衛予算を増やしているとの認識があります。昔と比べるとアメリカは自分たちだけで全部なんとかしてやるという訳ではなくて、「一緒にやっていきましょう」という気持ちが強い。基地も沢山あり、長い同盟の歴史がある。価値観も基本的には一緒だという認識でいるため、アメリカは独りではないよねというような文脈で、日本と一緒に頑張りたいという風に言っていると認識しています。

―帰任する直前には航海訓練もあったと聞きました。どのような訓練ですか?

練習船4隻で、約120人の学生と約30人の米海軍の教官や船を管理するスタッフのリーダーとして航海訓練を実施してきました。 1週間ほど学校で訓練した後に出航して、2週間くらいかけてボストンなどに帰港しながら、航海訓練をやってきました。

船の動かし方などを教えていきますが、航海技術を勉強するというよりは、どんな分野に行っても役に立つ、リーダーシップと、フォロワーシップについて重んじていて、4年生は1年生をどうまとめていくか。1年生はどう従っていくかを重んじている訓練でした。そこをリーダーとして率いさせて頂きました。

―赴任期間を振り返ってみて、海軍士官学校とはどんな学校だったのか?

アメリカ人教官や学生と同じ目標、同じ土俵で、同じ部屋で同じ言語で学び、仕事すること。並んで訓練するのではなく、一緒に訓練するという意味で、深いレベルで綿密な交流をすることができました。おこがましいですが、日米同盟の深化にささやかながら貢献できたのではないかと思っています。

学校内で日本文化を紹介するイベントなども開催した
学校内で日本文化を紹介するイベントなども開催した

リーダーシップ教育に力を入れ、自主・自律を重んじているところに多くの学びを得ました。一方、日本も規律が厳しい教育で、訓練とか勉強とか色々なことを含めると日本のオーガナイズされた教育もそれはそれで一つの優れた点もあると認識しました。お互い仲は良いですが、性格は違うので、強い点と弱い点を補える存在だと思います。中長期的に色々な分野にそれが落とし込まれていくのではないかと感じました。

田浦氏は日本とアメリカの双方の良さを生かしたいと語る
田浦氏は日本とアメリカの双方の良さを生かしたいと語る

―学生達に今後どのように成長して欲しいですか?

卒業後に日本を含めて世界中で活躍する可能性があるので、異文化を理解して、多様性を活用できる力をますます成長させてほしいなと思いますし、よく言っていたのは、彼らは外国人の私から航海術を学ぶことができます。私たちはアメリカ人から航海術を全員が日本語で学ぶことはなかなか難しいと思います。そういう意味では外国人からも色々なことを学べるのは彼らの一つの強みで、多様性を活用していることなので、卒業後も生かしていってほしいし、日本に赴任したときには特に一緒に頑張る力として持ってほしいなと思っております。
(FNNワシントン支局 中西孝介)

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。