秋田・にかほ市象潟町の集落に古くから伝わる「鳥海山日立舞 横岡番楽」。他の地域にはない魅力ある番楽を絶やすまいと奮闘する人たち、それぞれの思いに迫る。
380年の歴史を持つ「鳥海山日立舞 横岡番楽」
鳥海山の麓にある、にかほ市象潟町の横岡集落。
この記事の画像(12枚)自治会館の倉庫では、集落が守り抜いてきた「鳥海山日立舞 横岡番楽」の練習が行われており、太鼓や笛の音が鳴り響いていた。
地元の人によると、横岡番楽は今から380年以上前の1640年(寛永17年)に横岡集落へ伝えられたとされていて、毎年8月13日と15日に五穀豊穣や家内安全、先祖供養のために披露されている。
舞と太鼓や笛などのはやしで演じられる横岡番楽は、はやしの拍子が速く力強い3拍子と、静かな5拍子の演目があるのが特徴だ。
中でも「団七(だんしち)」と呼ばれる演目は珍しく、父親の敵討ちを行う姉妹の戦いの話で見応えがある。
鳥海山日立舞横岡番楽保存会の齋藤朝次郎会長は「他の地域にないようなことをやっているから、すごく自分たちとしては魅力だと思う」と話す。
新しい息吹を取り込む伝統の舞
集落に住む子どもたちも練習に参加していた。
1番初めに披露される演目を舞う中学生の齋藤想さん(12)は、父親が舞っている姿に憧れて2023年に横岡番楽を始めた。「大きく手を広げたり回ったりするところが醍醐味」だという。
また、初めて参加する小学生3人も、「三人立(さんにんだち)」と呼ばれる演目を一生懸命練習していた。
番楽を始めようと思ったきっかけについて、佐藤快晟君(6)は「お父さんがやっていたから」と、齋藤崇希君(7)は「獅子舞を見て楽しそうだったから」と教えてくれた。そして、山崎智清君(8)は「難しいけど、色々なことが学べて面白い」と話す。
齋藤会長は「どうしても踊りたいということで、やらせてみようと。好きな子どもたちにはやらせたい」と、子どもたちが番楽に触れることを歓迎していた。
2024年は、横岡集落の出身者以外にも参加した若者がいる。
集落内にあるゲストハウス「麓ます(※“ます”は「ます記号」)」が、2024年初めて稽古と本番の舞台を体験できる宿泊プランを企画し、大阪などから来た3人の大学生がプランを利用した。
麓ますの中山功大さんは、この企画について「集落では、人が外から来て舞うということは1回もなかった。人がどんどん減っていく中で、続けていくためには外から人が来て参加することが大事だと思っている。地域との垣根がなくなることを僕たちは“醍醐味”と言っていて、この醍醐味を観光コンテンツとして味わってほしい」と語った。
人から人へ思いを乗せて未来へつなぐ
そして迎えた本番当日。
おはやしの音とともに中学生の齋藤さんが演じる演目が始まった。
優雅で力強い舞が次々と披露される中、初めて参加する小学生の「三人立」の順番がやってきた。
子どもたちは少し緊張した様子だったが、無事に舞い終え、「本番、ちゃんとできてうれしかった」「成功してうれしかった」「またうまくできるように、三人立とかいろんな演目に挑戦してみたい」と達成感を味わっていた。
齋藤会長は「教えたことをちゃんと守ってくれて、うまくできたということで大変喜んでいる。将来大人になってからも続けてもらえれば、会長としては大変うれしい」と笑みを浮かべた。
江戸初期から脈々と舞いつないできた「鳥海山日立舞 横岡番楽」。
令和の今も、人から人へ、思いを乗せて受け継がれていく。
(秋田テレビ)