「スタットキャスト」の導入によって、選手の試合でのパフォーマンスは、オンタイムで把握できるようになった。

また、これまでの試合に張り付き、データを録るフィールドワーク的なスタッフの仕事はこれによって大幅に減少した。

大谷翔平は投打ともに最上位

こうしたデータはMLBの試合の中継中にも Gamedayなどで発信された。またMLBの公式サイトでは「スタットキャスト」で計測した投手、打者のデータがオンタイムでランキングされている。

2023年の大谷翔平は「スタットキャスト」では投打ともに最上位にいた。MVPはシーズンの実績による評価だが、パフォーマンスそのものの客観評価も極めて高かったのだ。

「スタットキャスト」の中核をなすトラッキングシステムは、2020年に「トラックマン」から「ホークアイ」に切り替わった。「ホークアイ」は球場内に設置した複数台のカメラの画像をもとに解析する。

データの精度が高くなるうえに、従来のシステムでは録れなかった守備成績も記録できる。

さらに選手の関節情報も録ることができるので、投打守のバイオメカニクス的なデータも記録することが可能になった。

MLBでは「スタットキャスト」の試合中のデータは公開されている。誰でも無料で、MLBの選手たちのデータに接して、そのパフォーマンスを数字で把握することができる。

これによってアナリストの仕事は「いかにデータを録るか」ではなく「出てきたデータからいかなる分析をするか」「それをどのように効果的に選手、チームにプレゼンテーションするか」に変わりつつある。

『データ・ボール アナリストは野球をどう変えたのか』(新潮社新書)

広尾晃
コピーライターなどを経てスポーツライターに。立命館大学卒業。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』『野球崩壊――深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(ともにイースト・プレス)など

 
広尾晃
広尾晃

コピーライターなどを経てスポーツライターに。立命館大学卒業。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』『野球崩壊――深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(ともにイースト・プレス)など