観光立国タイ

2019年1年間に約4000万人の外国人観光客が訪れた観光立国タイ。しかし、2020年1月から6月までの外国人観光客の数は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響で、前の年の6割以上減少した。国際線の旅客機の乗り入れは禁止され、2020年4月から7月までにタイを訪れた外国人観光客はゼロとなった。

“聖地”カオサン通りは以前の面影なし

閑散とした平日夜のカオサン通り
閑散とした平日夜のカオサン通り
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バックパッカーの聖地とも言われたカオサン通り。300メートルほどの通りに安宿やレストラン、それに土産物店や屋台などがひしめく。バンコク有数の観光スポットで世界中から旅行者が集まり、活気にあふれていた。

8月5日平日水曜日の夜に訪れてみると、通りにはレストランやバーの客引きの人たちばかりでほとんど人通りがない。カオサン通り屋台協会によると、以前は観光客の9割が外国人だった。入国制限が続く今、外国人の姿はない。タイ人客は最近になって増えてきたものの、金曜日と土曜日の夜以外にぎわいはないという。営業をしていない店も目立つ。

4カ月以上宿泊客は誰もいない

4カ月以上宿泊客がいないゲストハウス・カオサン通り
4カ月以上宿泊客がいないゲストハウス・カオサン通り

40年近くカオサン通りで営業を続けてきたハーンゲストハウス。日本人観光客も多く利用してきた安宿で、最も安い1人部屋は220バーツ、日本円で約760円。以前は1日3000バーツほどの売り上げがあったが今はゼロの状態が続く。今年3月下旬以降宿泊客は誰も来ていない。ロビーに置かれたビールや飲み物の販売で得た売り上げで従業員の給与を払っているような状況だという。

誰も客がいない平日午後8時頃のレストラン・カオサン通り
誰も客がいない平日午後8時頃のレストラン・カオサン通り

レストランによっては、料理の味をタイ人好みに変えてタイ人のお客さんを獲得しようという動きもあるという。金曜日と土曜日の夜は歩行者天国にするという計画もあるが、はたしてお客さんを増やすことはできるのだろうか。

外国人に人気の観光地はタイ人向けにシフト

外国人観光客がほぼいないメークロン市場
外国人観光客がほぼいないメークロン市場

バンコクから車でおよそ1時間半。メークロン市場には、線路脇ぎりぎりに魚や肉、果物、日用品などの店が所狭しと並ぶ中、列車が通過するという驚きの光景が広がる。1日8回列車が来るたびに店のテントをたたみ、陳列していた棚を動かし、列車が通り過ぎるとまた店を広げるため、「傘をたたむ市場」と呼ばれる。

もともと列車に興味を持つタイ人は少なく、外国人観光客が中心だったが、いま訪れる観光客はタイ人ばかり。だが、タイ人は土産物を買うことが少なく営業を再開できない土産物店も多いという。

タイ人向けの衣服の販売を始めた土産物店・メークロン市場
タイ人向けの衣服の販売を始めた土産物店・メークロン市場

駅に近いこの土産物店ではドリアンのお菓子やゾウ柄のシャツが外国人観光客に人気だった。しかし全く売れなくなり、タイ人観光客向けに普通の服を入荷して店頭に並べている。コロナ前は客のほぼ100%が外国人で1日数千バーツの売り上げがあった時もあったが、今は1日400~500バーツほど(日本円で1400~1700円ほど)しかないという。

土産物が売れずムール貝の佃煮を売り始めた女性・メークロン市場
土産物が売れずムール貝の佃煮を売り始めた女性・メークロン市場

ムール貝の佃煮を売っている屋台の女性。もともと5~6年前から日本人などの外国人観光客向けにトムヤムクンの材料となるハーブをセットにして販売していた。しかしほとんど売れなくなったため、ムール貝の屋台を始めた。以前は1日2000バーツ(日本円で7000円ほど)を売り上げていたが、いまは生活費に充てる分を稼ぐだけで精一杯だと話す。

回復しつつある観光地・ホアヒンも…

バンコクから車でおよそ3時間。タイ王室の保養地として発展してきたホアヒンは美しい白い砂のビーチとナイトマーケットで有名な観光地だ。外国人にも人気があるが、入国制限のため訪れる観光客はほとんどがタイ人で、外国人はタイに住む人に限られている。コロナで観光客は激減したが、タイの国内旅行キャンペーンも手伝って徐々に回復しつつある。

観光客でにぎわうフードフェスティバル会場・ホアヒン
観光客でにぎわうフードフェスティバル会場・ホアヒン

取材した日はホテルや地元自治体などによって、海岸で「フードフェスティバル」というイベントが開かれおよそ50店舗がさまざまな食べ物を販売していた。会場には大勢の観光客が集まり、以前のにぎわいを取り戻したかのような活気ある雰囲気に包まれていた。

パンの販売を始めたナイトマーケットのバッグ店・ホアヒン
パンの販売を始めたナイトマーケットのバッグ店・ホアヒン

ホアヒンのナイトマーケットも活気を取り戻しつつある。しかし、タイ人は外国人と比べあまりお金を使わず安い商品や食べ物を買う程度で、多くの屋台は収入が激減したままだ。

バッグを扱うこの店はコロナ前はほとんどが外国人客だった。以前は1日1万バーツ以上(3万5000円以上)の売り上げがあったが、今は数百バーツのみ。タイ人の観光客はあまり高いバッグを買おうとせず売り上げが伸びないため、20バーツ(約70円)のパンの販売を始めた。週末なら1日30個から40個売れていて、この日は土曜日ですべて完売。収入はすべて自分の生活費に消えるという。

人気のシーフードレストランは週末のみ7割回復

タイ人観光客でにぎわうナイトマーケットのレストラン・ホアヒン
タイ人観光客でにぎわうナイトマーケットのレストラン・ホアヒン

一方で、大勢のタイ人観光客でにぎわうシーフードレストランを見つけた。コロナ前から人気店でいつも満席の状態だった。現在お客さんの数は週末に限ればコロナ前の7割ほどに戻ってきたという。しかし、半数を占めていた外国人客はほぼゼロだ。

すでに市中感染は80日以上確認されていないタイ。感染拡大を封じ込めているからこそ、外国人の入国制限の緩和に慎重な姿勢を示している。

外国人観光客の穴を埋めるため、地元客を対象に国内旅行を盛り上げていくキャンペーンもおこなわれている。航空運賃やホテル代など最大40%の割り引きが受けられ、予算規模は総額770億円ほど。しかし、「ホテルの別の割り引きの方が得」「登録の手続きが面倒だ」など批判的な声もある。

外国人客に人気だったカオサン通りやメークロン市場は、他の観光地以上に深刻だ。外国人観光客の入国がいつ可能になるのかわからず、タイの観光復活の兆しはいまだに見通せない状況が続いている。

【執筆:FNNバンコク支局 武田絢哉】