15日に長崎県内各地でお盆の伝統行事「精霊流し」が行われる。故人の御霊を精霊船に乗せて浄土に送るという長崎独特の行事で、中国由来といわれている。長崎市でも、初盆を迎えた家が亡くなった家族のために船を作り、本番を迎える。
愛する妻に30年の感謝を込めて
長崎市銅座町にある「万徳」は、ミシュランガイドにも掲載されている人気の北京料理の店だ。
この記事の画像(15枚)万徳の店主・崔 万清さんの妻・よう子さんは2023年の夏、亡くなった。
よう子さんは長崎市の出身。1993年に崔さんと結婚し、5年後に店をオープン。2人で切り盛りしてきた。しかし腎臓を患い、約20年にわたる闘病の末、2023年8月に72歳で息を引き取った。崔さんは妻との思い出を「いつも店でケンカしていて、客からは漫才みたいだと言われていた」と語る。
精霊流しが大好きだったという妻のために、崔さんは客や従業員、親族とともに船を作った。
中国の極彩色の船
崔さんがイメージしたのは中国の結婚式で花嫁を乗せる「輿」だ。
赤や黄色などの華やかな色づかいを、よう子さんは気に入っていた。
崔万清さん:去年の精霊流しの時にお前の時は派手なのを作ると言ったら、「お願いします」と言われた。妻の好みにあわせる。
船首の「みよし」には、よう子さんが大切にしていたベッドカバーを使った。プレゼントされた手作り品だという。「一度使ったけどもったいないとしまっていた。ここで使えてよかった」と崔さんは話す。
船は金銀、赤、黄色と華やかな色で装飾。よう子さんが好きな色だ。中国から取り寄せたクジャクの鈴飾りによう子さんが好きだった龍も飾り付けた。船を曳く人の衣装も中国風にしてこだわった。
亡き妻のために流す中国風の極彩色の精霊船。当日は約40人で船を曳くことにしている。
崔万清さん:妻には感謝の気持ちしかない。きっと天国から見ていてくれると思う。
三兄弟で作る母の船
母のために船を作る家族がいる。
長崎市の馬場由美子さんは卓球が大好きだった。選手として県の大会で優勝したことがあり、15年以上にわたり指導にも携わった。2024年1月に74歳で旅立った。
次男の雅朗さんは「やさしかった。何かあったら背中を押してくれる母だった」と思い出を振り返る。
卓球尽くしの母の船
兄弟3人で手作りした船は「卓球」をイメージした。
みよしは卓球のラケット型だ。長男の雅義さんは「卓球のラケットは持ち手が大事。実寸と同じ割合にしている。きちんとした人だったからやりきった方がいいと思う」と話す。孫も「おばあちゃんの性格だもんね」と思い出話に花が咲く。
精霊流しの時、移動しながら花火や爆竹をするが、必要なものを入れる荷車にもこだわった。卓球台を模したのだ。
長女の智子さんは「途中で船をとめた時に、みんなで卓球できるようにラケットと球を用意しておく」とぬかりない。
長男の雅義さんは「イメージしていた形になった。母も満足してくれているのではないか」と話す。
三兄弟の母への感謝を込めた2連の精霊船には、母の卓球愛が込められている。
長崎では15日、日が暮れる頃から、故人の御霊を送る思い思いの船が爆竹を鳴らしながら家族や友人に見守られて流し場へと運ばれる。
(テレビ長崎)