少子高齢化が進む中で就職戦線も売り手市場となり、多くの企業が人材確保に頭を悩ませている。特に中小企業では賃上げ圧力等もある中でいかに優秀な人材を確保するかは死活問題だ。こうした中、静岡市内の3社で始めた取り組みが注目を集めている。
募集しても来ない…採用しても辞める
静岡市駿河区の金属などを加工する工作機械メーカー・フジ産業。
社員数36人のこの会社では大きな悩みを抱えている。
製造に不可欠な設計者の採用を目指したものの応募はほとんど来ず、ようやく採用できたのは2年が経ってからだったそうだ。
フジ産業の池田信之 専務は「長期的に戦略を立てていきながら（採用を）やっていかないと難しい」と話す。
また、野菜や穀物などから水分をしぼる脱水機を製造している静岡市清水区の河口精機も採用に苦労しているという。
こちらでは20代前半の社員が退職代行サービスを使い、入社からわずか半年で辞めてしまった。
大澤宏典 社長は「非常にショックで、まさかウチの会社がそれを喰らうとは夢にも思ってなかった」と当時を振り返る。
少子高齢化が進む中で、中小企業を中心に多くが人出不足や人材確保に悩んでいて、静岡経済研究所が2023年4月に行ったアンケートでは、約7割の県内企業が「人手不足」と答えている。
人材確保に苦慮する3社が協力
人材の確保が難しくなる今、静岡市の3つの会社が共同で“切り札”になるかもしれない取り組みを始めた。
「2本一緒にやるって感じですかね」と確認しながら工作機械の配線やねじ締めを行う女性。
人手不足に悩むフジ産業で作業をしていたのは山口県の工業高等専門学校の学生・内山育美さんだ。
学校では機械制御工学などを学び、高度な知識と技術を持つ内山さんのような人材は製造業にとっては喉から手が出るほど欲しい人材。
そんな”逸材”をどのようにして見つけたのかといえば、人手不足に悩む静岡市内の3社が協力し合い、インターンとして彼女を招いたからだ。
内山育実さん：
それぞれの企業で作っている製品は違っていて、それぞれに強みがあると思うのですごく貴重な機会です
静岡市に本社を置くフジ産業・川口精機・中村機工の3社はそれぞれ工作機械・脱水機・機械商社と業種の異なる３社だ。
その3社が人材確保に向け、インターンで来ればそれぞれの会社で様々な経験ができることをアピールして実現にこぎつけた。
スキルアップにつながるインターン
インターンの期間は3社あわせて2カ月間。
最初に配属されたフジ産業では、設計から営業、金属の加工まで、中小企業ならではの小回りを生かして様々な業務を経験でき、内山さんもそうした点に魅力を感じているようだ。
内山育実さん：
自分も設計するけれど、モノをどう作るかという工程を知っておくことは大事だなと思って、そういうのが自分の身になるなと
受け入れたフジ産業の池田伸之 専務は「覚えがすごく早い。『こんなに早い人がいるんだ』と担当したメンバーも話していた」と優秀なインターンに感心している様子だ。
野菜や果物などから水分を絞るプレス機を製造する川口精機での研修では、絞るものに応じてプレスを最適な強さに調整していることなどについて説明を受けていた。
水分を絞るのに大切なのがスクリュー部分だ。
内山さんは微妙な曲線や角度が求められるスクリューを作る技術の高さに感心した様子だった。
内山育実さん：
中小企業があって大企業の事業も成り立っていると考えると、中小企業って本当に大事だなと感じました。（それぞれの会社で）違うことを学ばせてもらって、ありがたいし、すごく楽しいです
優秀な人材のシェアを視野に
一方で、会社側もこの取り組みが大きな一歩と感じている。
3社とも縮小する国内市場から経済成長の続く海外市場に目を向けており、そのためにも優秀な人材の確保は最重要課題で、まずはインターンの受け入れで人材シェアの仕組みを作り、ゆくゆくは正社員として優秀な人材を採用してシェアすることを目指すそうだ。
川口精機・大澤宏典 社長：
（人材が）いないと嘆いてないで、人材をシェアするとかお互いのリソースを共有し合うとか必要になってきていると感じる。僕らが教えてもらえることも高専（工業高等専門学校）では勉強しているので、うちの技術力のアップにもつながるのでは
フジ産業・池田信之 専務：
人材の確保、シェアの確保に向けてこうした取り組みは必要で、より優秀な人間が欲しくなってくるのは必然だと
人手不足にあえぐ中小企業同士の連携。
こうした試みに挑戦していくことで人材獲得に向けての活路が見いだされることが期待される。
（テレビ静岡）
