被爆者の体験を語り継ぐ「被爆体験伝承者」で最年少、21歳の女子大生が広島にいる。「地獄を見た被爆者の証言を聞くだけでいいのか」という使命感に押され、伝承活動を始めた思いを取材した。
47都道府県各地での講話が目標
8月6日に広島で行われた平和記念式典に市民代表の一人として参列した大学生の増本夏海さん、21歳は、今回初めて慰霊碑に献花をした。

夏海さんは、4月に最年少の20歳という若さで被爆者の体験や思いを語り継ぐ「伝承者」として、2年の研修を終えて認定された。

日本全国で語り継ぎの活動をしたいと抱負を語る。
被爆体験伝承者・増本夏海さん:
47都道府県全国各地で講話することを目標に頑張りたい。

夏海さんが語り継ぐのは、6歳で被爆した岸田弘子さん(84)の体験とその思い。岸田さんは、若き伝承者に大きな期待を寄せる。

被爆者・岸田弘子さん(84):
多くの犠牲になった命の叫びを発信してくれると思うので、とても期待しています。

夏海さんは、いまどきの大学3年生だが、幼いころから聞いてきた被爆者の声に心を動かされたという。

増本夏海さん:
地獄を見た被爆者が自分の言葉に出して、何度も思い出してまで話をする。私たちは聞くだけでいいのかなと。いま平和のために何かしたいと思う一番の原動力
伝承のスキルを習得 講話に挑む
夏海さんが、伝承者を目指すことに、母・真澄さんは「想像もしてなかった。しんどいことが何回かあったので、無理なのかもしれないと思っていた」と認定されたことに、驚きを隠せない様子だ。

それでも夏海さんは諦めずに2年間の研修で伝承のスキルを習得した。6月、初めて人前で講話をする日。夏海さんは念入りにリハーサルを行った。

会場には、岸田さん、母・真澄さんをはじめ多くの人が集まり、夏海さんは、岸田さんの被爆体験を講話として披露した。

夏海さん講話:
弘子ちゃん(岸田弘子さん)は忘れられません。コールタールのような油っこいドロッとした「黒い雨」の雫が、真っ赤なトマトに流れていました。いまでもスーパーに行って大きなトマトを買うことができません。

岸田さんの被爆体験と思い、そして最後に夏海さんの平和へのメッセージを届ける。
夏海さん講話:
この核兵器は世界を平和にしますか?私が伝承者として原子爆弾を多くの人に伝えることは、平和を望む人や平和を実現させようとする人を増やすためです。
会場の人たちにも、夏海さんの強い使命感が伝わったようだ。

講話を聞いた人:
被爆体験を若い人が、次の世代へ語り継ぐことが非常に大事だと思いました。

この会場からの反応に、夏海さんの目に思わず涙が…
2024年8月6日、原爆投下から79年を迎えた広島で、初めて式典に参加した夏海さんは、被爆80年に向けて平和への思いを新たにした。

増本夏海さん:
「安らかに眠ってください」と言えるくらいまで、平和活動を行いたいと思っている。たくさんの場所で伝承講話ができるように。自分の平和活動をより広めていくだけです。

被爆体験伝承者は2024年4月時点で226人。年齢は様々だ。45分の語り継ぎの講話は、平和資料館の休館日以外は基本毎日行われている。
被爆者の高齢化が進む中で、夏海さんのような若い世代の中に、被爆者の苦しみ、痛みを感じ取って行動に移す人が増えることを期待せずにはいられない。
(テレビ新広島)