長崎の知られざる街の魅力を発掘し、おすすめスポットや地元グルメを県内21市町をめぐりながらシリーズで紹介する。五島市の地元で愛された中華料理店が2023年に閉店。ちょっと意外な業種が味を引き継ぎ、島で人気のちゃんぽんが、新しい料理人のもとで復活した。
後継者がいれば…
五島列島福江島の北西にある三井楽町に、長年親しまれてきた町の小さな中華料理店がある。
店の名は「一龍宝」。1978年に創業した。

名物は大将の坂本喜代氏さんが作る、うまみが濃いスープが特徴の「ちゃんぽん」や、他にはない独特のトロミがくせになる「牛丼」だ。
常連に支えられ、妻や娘と営業を続けてきたが、2023年9月に店を閉じることにした。理由のひとつは「年齢」だ。大将は75才になった。

一龍宝 坂本喜代氏さん:
妻が「もうきついから出来れば続けたくない」ということで、そうだよなと思った。
もうひとつの理由は「後継者がいないこと」だった。

閉店を告知して以降、店の味を惜しむ客が連日行列を作った。フロアを担当する娘の奈美恵さんは「客は閉店の事情もよく知っているので、『しょうがないよね』『よくがんばったね』と声をかけてくれる。父も辞めると決めた時は一大決心だったと思うが、ちょっとした未練はあったと思う」と少し残念そうに語る。
店を閉めると決めたものの「後継者がいれば…」との思いをずっと抱いていた坂本さん。事業の引き継ぎの仲介をサポートする県の支援センターに最後の望みを託した。すると県外の少し意外な業種から名乗りが上がったのだった。
途絶えさせてはいけない
名乗りを上げたのは千葉県で建設業を営む内尾貴行さんだった。内尾さんは「ちゃんぽんを食べた時のあの味の衝撃が忘れられなかった」と語る。

ホテル建設の仕事で五島を訪れた際、一龍宝の料理を食べ「この味をなくしてはいけない」と直感。五島に特別縁はなかったが、引き継ぐことを決意した。
DEARS 内尾貴行 代表取締役:ちゃんぽんといえば一龍宝と島内の人たちはみんな思っていると思っていて、閉店することで途絶えてしまうが、この伝統を途絶えさせてはいけないという気持ちが強い。
内尾さん率いる新生「一龍宝」では、2人の料理人が坂本さんの味を引き継ぐことになった。地元出身の西村洋二さんは中華料理店で働いていた経験を持ち、即戦力だ。「引き継ぐプレッシャーはもちろんあった。坂本さんの味の特徴ははっきりした味。僕もはっきりしたものを作っていたつもりだが、さらに上だった」と語る。

もう1人は茨城県からIターンでやってきた築舘颯真さんで、調理は未経験。若さとやる気があり、将来性を買った。

2週間以上の指導、特訓を終えてオープンを3日後に控え、伝統の味を出せているか、ちゃんぽんの最終チェックの日を迎えた。
坂本さんのチェックは厳しい。いよいよ味見の瞬間。スープを飲んだ坂本さんから「OK」が出た!色で判断がついたという。
一龍宝 坂本喜代氏さん:
色で大体わかるが、この色が私特有のちゃんぽんの色。100%合格!
フロア担当の娘の奈美恵さんも試食。OKだった!娘のOKに坂本さんもホッと一安心だ。
新しい船出
一龍宝、再オープンの日はあいにくの雨だったが、大勢の客が訪れた。

「おいしい、噂通り、噂以上」「毎日でも通いたい」と大好評だ。開店から満席が続き、大盛況のうちに初日の営業を終えた。店の復活に新旧オーナーは希望を見出した。
DEARS 内尾貴行 代表取締役:
私が勝手にこの味が五島のソウルフードだと思っているのでそれは守りつつ、もっと皆の笑顔を作りつつ、この五島の味を日本全国、世界に発信していきたい。

坂本さんは当面厨房に立ち、2人のサポートに入るという。店を引き継いだとはいえ出番があることが生きがいとなっていると話す。
一龍宝 坂本喜代氏さん:
これからの五島になくてはならないちゃんぽん屋になればいいと思う。
意外な救世主によって守られた名店の味。今後はキッチンカーなどで県内にこの味を届けることができればと夢は膨らむ。内尾さんは海外進出も視野に入れていると語る。

一龍宝は新たなオーナーのもと、三井楽町のいつもの場所できょうも馴染みの料理を提供している。
こんなまちメモ<五島市>
長崎から西に100kmの海上に浮かぶ大小152の島々からなる五島列島。五島市は列島最大の島・福江島を含む、久賀島、奈留島とその周辺の島々で構成される。海、山、温泉と大自然が魅力。肥沃な土地と温暖な気候に恵まれ、農産物にとっても最適な環境。五島灘は速い潮流と豊富なエサに恵まれた好漁場。畜産も牛、豚、鶏が揃っている。
(テレビ長崎)