本格的な「スパイスカレー」が全国的に人気を集める中、長崎市内に新しい店がオープンした。元教員の夫婦が切り盛りする店のカレーは「やさしい思い」が込められている。味噌汁にも「やさしさ」だ。
身体にやさしいスパイスカレー
長崎市内の住宅地の一角でひっそりと営業しているのは「新しい食堂チエノワLabo」。

寺澤祥さんと妻の智恵さん夫婦が営んでいる。

看板メニューは「スパイスカレー」だ。トマトベースで酸味を感じるポークビンダルーと、香り高い中華の辛味がアクセントの花椒キーマの合い掛けが一番人気。

チエノワのカレーは「やさしい味」を目指している。客からも「野菜も肉もたくさん入っていて、混ぜると色んな味がする」「全然辛くなくて味が深い。日本人向き」「他にはないカレー。昼に食べても重くないスパイスカレー。身体によさそう」と人気だ。
それもそのはず。料理を手掛ける智恵さんは、身体に負担の少ない料理を提供したいとの思いから、カレーは辛すぎず、油を多く使うのも控えているのだ。

数多くのスパイスを使うカレーが多い中、チエノワのポークビンダルーは「シナモン、カイエンペッパー・スターアニス・クローブ・カルダモン」の5種類に厳選している。

玉ねぎもじっくり時間をかけてあめ色に炒め、ショウガとニンニクにホールトマトを加えてうま味を凝縮。白ワインと酢で一晩漬けた豚肉と一緒に煮込んだ後に寝かせればようやく完成。
サウナ好きの2人が汗をかいた後に食べたいメニューを追求した結果、酸味のあるポークビンダルーに行きついた。

スパイスカレーは定食でも出していて、味噌汁付きだ。客から「スパイスカレーも定食にして味噌汁をつけてほしい」というリクエストに応えた。カレー以外にも週替わり定食も出していて、人気だ。智恵さんは「仕事終わりに味噌汁を飲んでもらうイメージ。食べてくれる人の健康を願って味噌汁をつけている」と、ここにも「やさしさ」が込められている。
チャレンジして人生を楽しく
店を開く前、2人は教員だった。9年前に同じ高校に勤務したのが出会いのきっかけだ。

当時、智恵さんはひどい冷え性と食欲不振に悩まされ、休日に体調を崩すことも珍しくなかった。そうした中、注目したのが「スパイスカレー」だった。

寺澤智恵さん:
スパイスの香りがすると食欲がわくので、身体の中にいいものを取り入れられるし、ものすごくいい食材だと思った。その時におそらくこういう感じで苦しんでいるのは自分だけではなくて、働いている女性や子育て中のお母さんに同じ現象が起きているのではないかと思った。助かる人がいるかもしれないと思った時にスパイスカレー屋をやってみたいと思った。
定年後の夢のつもりが、新型コロナによる生活の制限が2人の転機となった。
寺澤智恵さん:
コロナ禍で何もできなかったと思っている子供たちもいるのかなと。(当時)それに一番悩んだが、その子に「何か違うことをチャレンジして楽しんでいるよ」ということを伝えられたらというのもあった。
当時の子供たちが店に足を運んでくれている。子供から「人生、すごく楽しんでいますよね」と言われることもあり、智恵さんは「そう見えているならうれしいなと思う」と話す。

教員を辞めて飲食店で調理やホールを経験し、カレーを研究してイベントで販売をしていた。2年間の準備期間を経て、2024年4月、祥さんの地元で開店した。

買い出しは近くの商店街だ。「この店を開けたから地元とつながりが深まるのはうれしい」と祥さんは話す。
カレーの周りに輪ができる
店の名前である「チエノワ」は、「智恵さんのカレーの周りに人が集まって輪ができてほしい」「地元で集まって和ができる」などいろいろな意味が込められている。オープン後、教員時代の同僚や教え子、保護者も店に来てくれている。

智恵さんは「長く続けてここに来る子供が大きくなるのを見ていたい。家族の成長を見られる店にしたい」と夢を語る。

スパイスカレーのごはんは黒米を混ぜて炊いていて3種類のつけあわせ(アチャール)が味の変化のアクセントになっている。もちろんアチャールも手作りで、夏に向けて山形県の郷土料理「だし」をアレンジして添えた限定のスパイスカレーを準備中。7月下旬に提供を始める予定だ。

智恵さんのカレーに多くの人が集まって大きな輪になることを願って、チエノワは新しいスタイルの「スパイスカレー」のチャレンジを続けていく。
(テレビ長崎)