ボクシングで沖縄初の女子世界チャンピオンを目指している池本夢実(ゆめみ)選手。彼女は現役の警察官でプロボクサーでもある。
2024年7月、アジアの王座を決める試合に挑んだ池本選手。彼女の拳には「沖縄の子どもたちを支えたい」という強い想いが込められていた。
二足のわらじのプロボクサー
琉球ボクシングジム所属のプロボクサー、池本夢実選手。
この記事の画像(15枚)強烈な右ストレートと果敢なファイトスタイルを武器に相手を追い込む。
彼女を突き動かす原動力、それは…
池本夢実選手:
沖縄を良くしたいっていう思いがあって。沖縄の子どもの未来のためにボクシングを頑張っているという理由でもあるので
WBOアジアパシフィック女子ライトフライ級1位。
圧倒的な実力を誇る池本選手は沖縄県警の警察官。那覇署の地域課に勤務していて、パトカーを運転し街をパトロールする「自動車警ら隊」に所属している。
激務とされる警察官の仕事と、ボクサーとしてのトレーニングを両立させる日々は、過酷そのものである。
池本夢実選手:
(両立することは)簡単ではないですね。24時間勤務のなかで働いて、明け方に仕事を引き継いだ後にジムに入って、次の日の休みでまたジムに入るという生活を普段はしているので
教育格差を目の当たりにして
プロボクサーと警察官、池本選手がこの厳しい道を選んだ理由とは?
池本夢実選手:
警察官として自分がやりたいことがあって、でもやっぱり、ボクサーとして自分の夢も諦めたくなくて。やれるのであれば、両方やろうと思いました
地元の静岡から琉球大学の教育学部に進学し、もともと教員を目指していたという池本選手。
教育実習などを通して目の当たりにしたのは、子どもたちの教育格差であった。
学びたいけど家庭環境が複雑で、学ぶ環境ができてない子が想像以上に多く、子どもたちが教育を受けるための環境をもっと整えるべきじゃないかと感じ、貧困や非行などの問題を抱える子どもたちが暮らす環境を改善するため、警察官を志した池本選手。
子どもたちへの思いはボクサーとしての池本選手も支えている。
池本夢実選手:
沖縄を良くしたいという想いがあり、沖縄の子どもの未来のためにというのもあって、自分がいまボクシングを頑張っている理由でもあります
「できない」と言われるのが一番嫌い
この日、池本選手はアジアの王座を決める大きな一戦を10日後に控えていた。
トレーニングにも熱が入る。
10年以上にわたって二人三脚で歩んできたのが、チーフトレーナーの仲井眞重春さん。
「できない」と言われることが嫌いで、「警察官だったら、世界チャンピオンになれないよ」と言われても、チャンピオンになると言い続けていた池本選手。
負けず嫌いな性格が池本選手の強みだとトレーナーの仲井眞さんは話す。
チーフトレーナー 仲井眞重春さん:
反骨精神じゃないですけど、「見とけよ」というのもあるんじゃないですかね
長い年月をかけて築いてきた絆とともにアジアチャンピオン、そしてその先の世界を目指す。
こんなに大変なことをよく一人でやってきたなと
迎えたアジア王座決定戦の当日、池本選手を応援しようと会場には500人を超える観客が集まった。
その中には娘をサポートするため2023年、静岡から沖縄に移住してきた母親の祐子さんの姿もあった。
池本祐子さん:
本当によく我慢して、モチベーションを切らさないで地道にコツコツ練習している。一緒に暮らしてみて、いままでこんなに大変なことを、よくひとりでやってきたなと
そしてついに、熱戦の火ぶたが切られる。
強烈な右ストレートと磨き上げてきたボディ。試合を優位に進める。
迎えた第4ラウンド。同じ階級でアジア2位の強敵をマットに沈め、見事アジアチャンピオンの座を手にした。
池本夢実選手:
獲るべくして獲ることができたので、安心したというのがあります
チーフトレーナー 仲井眞重春さん:
今日はもう、よくやりました。このままいくしかないだろうなと。警察官でも世界チャンピオンになれる
世界のベルトを獲るまで頑張る
圧倒的な強さでアジアの新王者に輝いた池本選手。
次なるステージは世界である。
池本夢実選手:
あくまで今日のアジア(チャンピオン)は自分のなかで通過点なので、この後さらに世界に向けて、世界のベルトを獲るところまで、テッペンまでいけるように頑張りたいと思います
プロボクサーとして、警察官として、子どもたちの未来を想いながら沖縄初の女性世界チャンピオンへ。夢を実らせる日まで、拳を振るい続ける。
<取材後記>
池本選手は、子どもたちをサポートするため、これまでボクシングで得たファイトマネーの全額を支援団体に寄付してきた。
池本選手は「沖縄の子どもたちのためにできることは、すべてやっていきたい」と話している。
(沖縄テレビ)