卵が腐ったような悪臭、水路を流れる白っぽい泡…。「いつまでこの水で生活できるんじゃろうか」と周辺住民は不安を募らせている。広島・三原市の産業廃棄物最終処分場の近くで起きている“水質の異変”に迫った。
法律で規制できない「公害」
三原市本郷町の山間にある民間の産業廃棄物最終処分場。その近くに農業用水にも使われる水路がある。

取材に訪れた五十川裕明記者は「水が白く泡立っています。上流のほうからは硫黄のようなにおい…卵の腐ったようなにおいが流れてきますね」と報告した。

周辺は時間帯によって独特のにおいが立ち込め、住民による水質の簡易検査で法定の基準値を上回る「汚染」が検出された。

上流にある産廃処分場の池には、濁った水に黒っぽい物質が浮かんでいる。住民からの要請を受け、7月9日、三原市と広島県の職員が相次いで現地調査にやってきた。地元住民の岡田和樹さんは「ここまでになるのは初めてです。あそこに泡がちらちらと…」と現状を説明。そして「これはもう公害。明らかに公害です。法律で規制できない公害なので新たな対策をとっていただくしかない」と三原市の担当者に訴えた。
「水質が悪化した」と住民は訴えているが、2023年7月以降の県の調査で産廃処分場に法令違反はない。岡田さんは現地を訪れた県の担当者に対しても対策を求めた。
「県の方は処分場に立ち入れないんですか。県でどうにか…」
その時、風にのって独特の異臭が漂ってきた。
「今、においがきついですね。これは明らかな異常というか」

県の担当者もマスクをはずしてにおいを嗅いだが「確認してみないとわからないので」と返答。「問い詰めるつもりはないんですが、あまりにもこういう状況になってしまって…」と食い下がる岡田さんの話を「お話はもうこれ以上できないので、申し訳ないですが」と途中でさえぎった。
「設置許可」めぐる控訴審続く
本郷町の産廃処分場は2022年9月、東京の産業廃棄物処理業者 「JAB共同組合」によって段階的に稼働が始まった。

安定5品目と呼ばれる廃プラスチック類やゴムくず、金属くずなどを埋め立てる“安定型”に分類され、有害物と有機物が混入せず環境への影響が起きないことが前提だ。毎月3,000トン前後の産業廃棄物が埋め立てられるが、有害物質の混入を防ぐために中身を確認する「展開検査」が義務付けられている。

ところが、2023年7月、県に「設置許可の取り消し」を求め住民が訴えを起こした裁判で、広島地裁は「調査地点や判断に看過しがたい過誤、欠落がある」などとして県に「設置許可の取り消し」を命じる判決を言い渡した。現在も、その控訴審は続いている。

地元住民の岡田さんは「抜き打ちで状態を把握しないといけないのに、ずっとできていない。いくら通報しても処分場の中にきちっと立ち入って現状を見ていないので、管理監督する執行権がある県がそれを怠っていると言わざるを得ないですね」と落胆した。
住民の日常生活や農作物にも影響
後日、産廃処分場の設置を許可した広島県を訪れ、場内と池の映像を見てもらった。

すると、広島県産業廃棄物対策課の波谷一宏課長は「こちらの池については、現地へ直接行って状況を確認したいと思っています」とコメント。黒っぽい物質が浮かんだ池の映像に対して「こういった状況はまだ県の職員も把握できていません。自然現象が要因になっていることも考えられますので、それも含めて一体どういうものなのかできる限り調べたい」と調査に乗り出す意向を示した。

一方で、環境衛生の専門家は、産廃処分場の池自体には水質基準がなく規制することができない“法律の抜け穴”について言及した。県立広島大学・生物資源科学部の西村和之教授の話によると「処分場からの浸透水は、地下水に入り込むか、雨で土の表面や中を通って流れ出たとしても下流側に調整池があったらそこに入り込む。調整池に対しては何も制限がない」と話す。

この地域は水道が通っていないため、わき出る井戸水が人々の暮らしに直結する。日常生活に井戸水を利用している地元住民の飯田純子さんは「2024年になって、川の汚れがだんだんひどくなっています。だから、いつまでこの水で生活できるんじゃろうかと…。川で野菜を洗ったりしたりしていたんですけどね。もうそれもできないし、本当に情けないですよ」と悲痛な表情を見せた。

影響は周辺の農家にも及んでいる。2024年、5軒の農家が作付けをあきらめた。すぐ横を流れる農業用水が濁り、においを発するためだ。代わりに地中深くの井戸水を田んぼに引いているが、農業用水を使わなければ水量が足りず、水がかれてしまった田んぼもある。
きちんと展開検査されていれば…
処分場に持ち込む廃棄物を精査する大本の「展開検査」をきちんと実施していれば、通常、環境への影響は起きないと西村教授は指摘する。

そして「行政も法律で動いていますので、許認可の話で言えば、書類が届けば当然許可せざるを得ないというのも事実でしょう。逆に、違反行為があると明確に認められれば最終的には『運営をやめなさい』とまで指導できる立場ではあります」との見解を示した。
地元住民の岡田さんは「本来、安定型の処分場には汚染物や有害物質が持ち込まれないということになっているんですけど、泡や濁り、異常なにおいが出る。それは元々なかったものですので、日常的に出ているのはすごく大変なことだと思います」と話す。

産廃処分場の事業者はテレビ新広島の取材に対し「担当者がいないためコメントできない」としている。
実際に起きている異変と、この産廃棄処分場との因果関係は明らかになっていない。しかし、住民の生活に影響が出ているのは紛れもない事実。設置許可をめぐる控訴審が続く中、三原市は「水源保全条例」を制定し、2024年10月以降、市が設定した排水の目標値を守るよう今までより主体的に調査をしていくということだ。住民が安心して暮らすために一刻も早い原因究明が待たれる。
(テレビ新広島)