福岡市の繁華街、天神で起きた“偽の覆面パトカー”による衝突事故。ドライブレコーダーはその決定的瞬間を捉えていた。初公判で被告の男2人は起訴内容を認め、検察は“緊急走行ごっこ”を約10回繰り返していたと指摘した。

信号無視で衝突事故の瞬間 相手は…

2024年2月17日午前1時半頃。天神を走るタクシーのドライブレコーダーには、車内で「グリーンホテルまで」「駅前、はい。出発します」と、乗客と運転手の会話が続いていた。

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しかし、青信号の交差点を直進しようとしたとき、突然「バン!」というけたたましい衝突音が響いた。タクシーが信号を無視してきた車と衝突したのだ。しかも、その車をよく見ると赤色灯が光っていた。

タクシーは、ヘルプネット(緊急通報サービス)に接続する。

■タクシーのドライブレコーダー(車内録音)
通報会社:
ヘルプネットです。事故ですか?
運転手:
事故です
通報会社:
救急車は必要ですか?
運転手:
救急車は分かりません
通報会社:
事故の相手は乗用車ですか?
運転手:
えっと、パトカーだったと思います
通報会社:
パトカー?
運転手:
はい
通報会社:
パトカー、ですか?
運転手:
パトカーです

「警察のまねしている一般人」

事故があったのは、天神の渡辺通りと国体通りが交わる交通量の多い交差点だ。4車線の直進レーンを走っていたタクシーは、右から赤信号を直進してきた車と衝突した。

タクシーの乗客は「もう本当に何が起こったか分からなかったですね。“パトカー”もタクシーと当たって、回転しながら反対車線の方に飛んでいってるんですよ」と振り返る。

赤色灯を掲げたパトカーらしき車両は、衝撃で180度回転しながら反対車線まで飛ばされていった。タクシーはボンネットがめくれ上がるほど大破した。

パトカーらしき車も、側面が大きくへこむほどの衝撃を受けていた。しかし「全然、車(“覆面パトカー”)から、人が降りてこなくて。5分ぐらいは出てこなかった」と事故に遭ったタクシーの乗客は、奇妙だった状況を話す。

「あの人たち警察官ですか?」と、不審に思ったタクシーの運転手が現場の警察官に尋ねた。その答えに運転手は思わず「えっ?」と絶句したという。現場の警察官は「違いますね。警察のまねをしている一般人です」という驚きの返答をしたのだ。

パトカーが好きで“偽覆面パトカー”

事故を起こしたのは、偽物の覆面パトカーだった。警察によると、事故直前には走行中にサイレンを鳴らしながら、マイクで「交差点に進入します」と呼びかけまでしていたという。

この事故で、個人タクシーの運転手は約400万円かけて購入した新車をわずか1カ月で廃車にしなければならなくなった。そして男性運転手とタクシーの乗客、あわせて4人がけがをした。

その後、覆面パトカーを装った車を運転していた本村陸被告(24)と助手席に乗っていた仰木康汰被告(25)が、危険運転致傷の罪で起訴された。2人は一体、なぜ天神のど真ん中で赤色灯を悪用した危険な“緊急走行ごっこ”をしていたのか?

2024年7月11日、福岡地裁で初公判が開かれた。検察側は冒頭陳述で「本村被告は幼少期から特にパトカーが好きで、インターネットを介し、高校生の頃、仰木被告を知った。本村被告が覆面パトカーを運転、仰木被告がパトランプを車上にのせアナウンスをするという役割分担で、危険な運転をこれまでに10回くらい繰り返していた」と述べた。

パトカー好きの2人は、覆面パトカーを装って本物のパトカーを追いかける危険な“緊急走行ごっこ”を約10回も繰り返していたというのだ。

2人は起訴内容を認めていて検察は今後、本村被告を、乗用車を覆面パトカーに改造した罪でも追起訴する方針だ。

(テレビ西日本)

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