生活必需品として、日本の成長を支えてきたマッチ。兵庫県が日本一の生産地だ。

赤字で存続の危機にあったマッチ工場が、起死回生のアイデアで一転、世界進出!

フランス人男性:いろんな種類のお香がありますが、マッチの形をしたのは他に知りません。

伝統産業の技術を生かした、世界が認める新たな「マッチ」とは一体?

■関西発の商品が世界から注目

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フランス、パリのあるセレクトショップ。

店内には、関西の企業が生み出し、世界で注目される“ある商品”が並んでいる。

セレクトショップ オーナー:とてもユニークなのが、マッチでできていて、香りが10分間続くところなんです。

女性客:すごく心地いいですね、本当にいい香りです。

“香りの本場“であるフランス・パリ市民をうならせる、メイド・イン・ジャパンのマッチ。

軸の部分がお香、その先にマッチの頭がついている。

擦るだけでアロマになるマッチ型のお香「hibi(ヒビ)」は今や世界の30カ国以上に輸出され、パリでも評判だ。

フランスの女性:ナチュラルな商品だから気に入っているわ。形もかわいいし、使い心地がいいの。

世界に羽ばたいた「hibi」を生み出したのが、兵庫県太子町にある「神戸マッチ」。1929年創業の老舗で、半世紀前の機械が今も現役で動いている。

Q.やり方は変わらない?

製造ラインの社員:そうですね、昔から一緒の感じです。

祖父が創業した会社を継ぐ、3代目の嵯峨山真史社長。

神戸マッチ 嵯峨山真史社長:スーパーとかで見かけるマッチ。12箱入っているんですね。これが店頭だと300円くらいで売られている。これが300円ですよ、12個で。1個25円でしょ。これをマッチ会社がたくさん作って、数で利益をあげていたのが昔。でも市場が減って、数が出なくなって、厳しくなっている。

薄利多売のマッチ産業。製造方法をフランスに学び、明治時代に日本でも作られるようになった。

かつてはマッチの軸を天日干していたため、マッチ作りには年間を通じて、安定した気候が必要。

輸出拠点である神戸港とも近い姫路エリアにはマッチ工場が多く建てられ、現在、日本のマッチの8割は兵庫県で生産されている。

そんな日本のマッチの生産量は明治時代に隆盛を誇り、戦争で一度、大きく落ち込むことに。

その後、高度経済成長で盛り返したものの、1973年をピークに減少の一途をたどっている。

神戸マッチ 嵯峨山真史社長:サンプルブック。『いかがですか?どの形がよろしいですか』ってやっとったんでしょうね。今はほとんど廃盤。

広告の一つとしても日常に溶け込んでいたマッチだが…1970年代に普及した使い捨ての「100円ライター」が登場すると、過去のものに。

神戸マッチでは、2008年から2015年まで8年間赤字が続き、マッチ棒を大量に作る機械を廃棄。いつ倒産してもおかしくない状況だったのだ。

■マッチ唯一の機能“着火”で異なる製品作りへ

今やマッチは多くの人にとって、限られた場面でしか触れないものになってしまった。

神戸マッチ 嵯峨山真史社長:ずっと土地売ったりとか保険解約したり、申し訳ないけど、社員さんにリストラで辞めていただいたりしてもらいながら、現金作り、現金はき出ししながらやってきたが、いよいよそれもできなくなって、このままじゃ本当にやばいなって。どうするって話。

時代の変化に合わせて、広告マッチの代わりとなるポケットティッシュ事業や、レトロなパッケージのシリーズを発売するなど、多角化で生き残りを図ってきた。しかし会社を立て直すまでにはいかず…。

神戸マッチ 嵯峨山真史社長:ルーツを考えた時に、マッチ唯一のものが“着火する”機能。それを生かしてマッチじゃない違う製品を作ろうと。さあ何がある?っていうところがスタート。

「火をつけるだけ」。唯一だったマッチの機能に付加価値をつけ、起死回生を図ろうと模索。思いついたのが、伝統ある「線香」とのコラボだったのだ。

そこで目を付けたのが、兵庫県の淡路島。

西海岸は乾燥に必要な「風」が吹き、古くから線香作りが盛んな地域で、日本一の産地だ。今も線香工場が軒を連ねている。

中でも老舗の線香メーカー「大発」を頼り、話を持ち込んだが…。

大発 下村暢作社長:いや~、難しいなと。発想としては確かに面白いんでしょうけど、お線香は折れるもの。マッチは折れてはいけないので。彼ら簡単にいうんですけど。硬くしようと思えば硬くできるんですが、硬くすると燃えない。

「折れない硬さでなおかつ、しっかり燃える」という難題に挑んだのが、こちらも3代目の下村社長。

創業から80年余り、幅広い商品ラインナップの中からヒントを得たのが「紙のお香」だった。

大発 下村暢作社長:紙のお香と、ポキっと折れる今までのお線香のどこか中間点で、若干しなりもあって、強さもあって。擦れるっていうところがあるのではないか、あるはずだと。

線香の原料に、絶妙な配合で「和紙」を混ぜ、試行錯誤を重ねると擦っても折れない「しなり」と、燃え続けることが実現できた。

大発 下村暢作社長:話が来てから、結果的にはできるまで3年かかりました。

■年間20万個を輸出する大ヒット商品に

こうして、2015年に発売したのが「hibi 10MINUTES AROMA」。

国内だけでなく、海外の見本市にも積極的に赴き、アピール!

フランスなどの欧米圏を中心に年間20万個を輸出する大ヒット商品となった。

日本では、セレクトショップや蔦屋書店などで販売されていて、現在、香りは16種類。価格は8本入りで770円から展開している。

メルボルンに留学中(一時帰国)の女性客:私メルボルンに住んでるんですけど、結構あるんですけど。日本なので一番種類あるかなと。向こう(メルボルン)で見るようになってから逆に興味が湧いてきて。

女性客:前セレクトショップで買ったんですけど、今見たらこんなにシリーズ新しく増えてると思って。

男性客:マッチみたいな感じ?

女性客:そうそう。

男性客:懐かしいですね、マッチなんて。その単語自体、何年ぶりに言葉にしたか。

「hibi」のヒットを受けて、神戸マッチでは40年以上ぶりに最新の頭付け機を導入。

もちろん、薬品の配合や作り方は、90年以上前からのノウハウが生きている。

神戸マッチ 嵯峨山真史社長:やってなかったら、多分もう会社ないでしょうね。ないと思います。現実的にお金がなくなって終わっていた。こういうブランド製品を作れたのは本当にラッキーだったと思う。振り返れば。

大発 下村暢作社長:常にアンテナ張っていないといかんなというのはあります。お互いマッチ屋も線香屋も危機感があったのが良かった。

ジリ貧だったマッチ工場。

伝統産業が持つ技術と強い信念が掛け合わさり、新たなチャンスを手にした。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年7月9日放送)

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