東京都知事選で現職の小池百合子氏が再選された。2位は石丸伸二氏で、蓮舫氏は3位に沈んだ。「BSフジLIVEプライムニュース」では立憲民主党の逢坂誠二氏、日本維新の会の音喜多駿氏を迎え、政治ジャーナリストの田﨑史郎氏とともにこの背景を分析した。
政党色の濃い蓮舫氏は無党派層に支持されず
竹俣紅キャスター:
過去最多の56人が立候補した東京都知事選挙は7月7日に投開票が行われ、投票率は60.62%で前回よりも5.62ポイント増。現職の小池百合子氏が291万8015票、得票率42.8%で3期目の当選を果たした。2位は広島県安芸高田市長を辞職して立候補した石丸伸二氏で、参議院議員だった蓮舫氏は3位。出口調査によれば小池氏は無党派の31.84%の票を獲得。石丸氏は36.35%、蓮舫氏は15.63%。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
東京都の有権者の半数近くを占める無党派層の取り込みは、選挙戦術上非常に重要。今回最も多く無党派層の票が流れたのが既成政党を批判した石丸さん、次に小池さん。弱かったのが蓮舫さん。立憲民主党と共産党が応援演説でも前面に立ち反自民・非小池都政をうたった。
反町理キャスター:
この15.63%は衝撃的な数字だった。
逢坂誠二 立憲民主党代表代行:
結果は大変残念だが、応援いただいた皆さんに心から感謝申し上げたい。今回の選挙は特殊で多様な要素が絡み合っていた。今の段階でこういう要因があるからこうなったとは言いにくく、丁寧に検証していくことが大事。特に知事選はじめ地方選挙と政党がどう関わるかは、これからの非常に大きな課題。

音喜多駿 日本維新の会政調会長:
数字はなかなか衝撃的。知名度やキャリアから考えれば3割ぐらい取ると思っていた。無党派層の政党色忌避、特に共産党という特徴的な政党が応援していた影響はあったと思う。国政選挙で無党派は最後には比例代表で投票する党を選ばなければいけないが、都知事選の無党派は最後まで無党派。その点で蓮舫さんはあまりに政党色が強すぎた。
反町理キャスター:
2年前の参院選では立憲2名と共産の候補者の合計が170万票。だが今回は蓮舫さん1人で130万票に届かず。立憲・共産の中に蓮舫さんに対するアレルギーがあったか。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
世論調査によれば、女性層の5割近くが小池さんに投票し、蓮舫さんは2割ぐらいだった。その問題はあると思う。

反町理キャスター:
東京23区全体でも、地盤と言われる目黒区だけを見ても蓮舫さんは3位だった。目黒区を含む新しい衆院東京26区から蓮舫さんが出馬するという噂もあるが。
逢坂誠二 立憲民主党代表代行:
蓮舫さんご自身が決めること。個人的には頑張ってもらいたい。
SNS活用で「選挙経済圏」を作り上げた石丸氏の手腕と危うさ
竹俣紅キャスター:
石丸伸二氏の支持を拡大させた要因のひとつがSNSの活用。石丸氏は市長時代からTikTokなどのショート動画で注目されており、YouTubeの登録者数は小池氏、蓮舫氏を上回る約29万人。1日10カ所以上行った街頭演説では公約を強く主張せず、聴衆に動画の拡散をアピール。この戦略が若者を中心に支持を集めたとされる。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
実際に石丸さんの演説を聞いたが、正直演説はうまくない。淡々と喋り、時々拍手が湧く程度。だがやはりSNSの活用が大きな影響を与えたのだと思う。10〜30代ぐらいまでは圧倒的に強い。若者が情報を取るところで情報を発信していた。
反町理キャスター:
20代の竹俣さんはどう感じる? 街頭演説なのに政策を語らず「細かい政策はウェブで」。
竹俣紅キャスター:
人によると思いますが、演説をして拍手がワーッと沸き起こる「政治」の感じはそこまで重要ではない感覚はあります。また政策の重要な部分の説明は演説の時間だけでは足りないかな、と。むしろウェブで資料などをきっちり揃えていただいたほうがわかりやすいのかなと思います。

逢坂誠二 立憲民主党代表代行:
予算委員会でも、編集された動画が後からバズったりする。SNSの使い方が今後の選挙を良くも悪くも変える大きなきっかけになる。難しい政策も後から咀嚼して聴き直すことができるので、それを若い皆さんにどううまく届けるか。
音喜多駿 日本維新の会政調会長:
若い人たちは見るTikTokやYouTubeのショート動画には、話題になっている石丸さんの動画が勝手に流れてくる。そのように届く時点で「この人は私達の生活体系がわかっている」として投票対象になる。また、自由に作ってよいとした切り抜き動画(長い動画から反響のあった部分などを切り抜き再編集したもの)が爆発的に視聴されている。切り抜き動画を作り拡散する側はチャンネル登録者数を稼げる。「僕を使ってお金儲けしていいですよ」ということ。このように独自の「選挙経済圏」ができている。
反町理キャスター:
石丸さんは、当初新聞やテレビは自分を全然取材しなかったという不満も漏らしていた。
音喜多駿 日本維新の会政調会長:
むしろ石丸さんは主要候補として、安野貴博さんのような方に比べ露出は極めて多かった。「メディアは自分を冷遇した」とブランディングをしているだけで、実際そう思ってはいないと思う。

反町理キャスター:
安野さんに注目していたが、とてつもないハンデのある状況で15万票ぐらい取り、非常によく頑張ったと思う。一方で石丸さんは、主要候補の中に入った上で文句を言うという戦術。
音喜多駿 日本維新の会政調会長:
現状批判層が自分の支持層だとわかった上で、「ウェブで見るあなた方こそが本当の無党派でありピュアな人たちなのだ」とするために、既存メディアは既得権側・体制側なのだとアピールして叩いた。
反町理キャスター:
アメリカのトランプ大統領の1回目の選挙戦術に似ている。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
気をつけるべきは、アテンションエコノミーという言葉があるが、刺激的な言葉を言って再生回数を稼ぐやり方が正しいのかという点。もう一つ、YouTubeなどでは一度ある動画を再生すると関連動画が次から次へとおすすめされる。閉ざされた空間で同じことばかり聞くエコーチェンバー現象になってしまう。いろんな意見に触れて相対化することができない。
反町理キャスター:
国政に興味があるという本人の発言もあったが、このやり方でもう一度同じように爆発するか。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
すると思う。ただ弱点は、橋下徹さんにとっての松井一郎さんのような存在、つまり組織作りに必要なマネジメントをしてガバナンスをしっかりさせていく人がいないこと。

逢坂誠二 立憲民主党代表代行:
先ほど田﨑さんが言ったエコーチェンバーは極めて危うい。今後の選挙では一つの価値観しか聞こえない傾向がどんどん増していく気がする。民主主義にとってSNSの存在はある種危険。政党がこの手法だけに頼れば道を誤ると私は思う。
反町理キャスター:
石丸さんが悪いというのではなく、SNSの特性によって誘導されてしまう危険性があるという懸念。
音喜多駿 日本維新の会政調会長:
既存政党が学習しなければいけない面もあるが、流されてはいけない部分をしっかり峻別して立ち向かう必要がある。
石丸氏は国政に進出するか…維新との関係は
竹俣紅キャスター:
日本維新の会では石丸氏をめぐり混乱が報じられた。5月17日に石丸氏が無所属での出馬を表明した上で「話をしている党もある」と発言。水面下で維新が申し出た推薦を断ったと報道された。維新は都知事選の独自候補擁立を断念、石丸候補への事実上の支援禁止令を出したとされる。その後世田谷区議が石丸氏支援を理由に離党届を提出。音喜多さんは石丸氏と直接会ったか。

音喜多駿 日本維新の会政調会長:
選挙前に2度ほど会い話をした。我々は推薦を申し出て断られた認識はなく、知り合いを通じて紹介され、石丸さんから「東京都知事選挙に出るつもりだが何らかの支援をお願いできないか」と。ただ政党色はできるだけつけたくないという申し出だった。我々も野党第二党としての責任や立場があり、政策協定などを結んで推薦の形にするならあり得るという話だった。結果、別々にやりましょうとなった。どちらかが前のめりだったわけではなく、喧嘩別れしたわけでもない。
反町理キャスター:
石丸さんに対する支援禁止については。
音喜多駿 日本維新の会政調会長:
石丸さんへの支援だけを禁止したのではなく、最後まで党の独自候補を用意しようとしたができなかった中で、一律で静観のお願いをした。自由に支援してよいとするとコントロールができないので。

反町理キャスター:
今後支援などの話が蒸し返される可能性もある?
音喜多駿 日本維新の会政調会長:
政治の世界だからわからないが、ただ彼の今の強みはどこの政党とも絡まないことにあるので、そこには慎重なのではと個人的に思う。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
僕は石丸さんにお目にかかったことはないが、外側からの観察だけで申し上げると、一匹狼的な政治家ではないかなと思う。誰かと協調してやっていくタイプではない。既成政党とは交わりにくいのでは。
逢坂誠二 立憲民主党代表代行:
石丸さんの手法はすごく勉強になるが、やはり通用するのは初期の段階だけ。仲間を増やさなければ政策の実現もできない。政党の看板があると支持してもらえないというのは非常に悲しいが、首長というのは一人なので、様々な支持者がいる状況の中で政党色を付けたくない気持ちはわかる。だが、国政に参画するならどこかで矛盾が生ずる可能性はあると思う。
(「BSフジLIVEプライムニュース」7月8日放送)