富山県の県立高校再編の議論が活発化している。その背景には、少子化に伴う生徒数の減少がある。
こうした中、富山県南砺市の山間地、世界遺産の合掌造り集落などがある五箇山地域の南砺平高校が全国から生徒を受け入れる。すでに多くの自治体が取り組む中、カギとなるのが、どう差別化を図るかだ。
全国募集をかける公立高校の説明会
6月29日と30日に東京で開かれた公立高校の合同説明会「地域みらい留学 高校進学フェス」に集まったのは全て「全国募集」を行う高校だ。まるで物産展のようなにぎわい。

全国27の地域、87の学校が出展しており、自治体・学校関係者・現役の高校生が各ブースで自校をPR。2日間で、中学生や保護者、1000人あまりが訪れた。

“宇宙を学べる高校”がキャッチフレーズの和歌山県・串本古座高校。宇宙ビジネスに関する知識を専門家から学べる、公立高校では全国初の取り組みだという。
「“ロケットの学校”です」と熱心に説明している串本古座高校担当者によると、町内に民間企業としては国内で初めてロケット発射場が出来上がったため、学校としてもロケットを軸にした教育ができないか、ということでスタートしたのが、“宇宙探究コース”だという。

ブースにカナダの国旗を掲げていたのは、北海道の鹿追高校だ。
公立高校ながら、姉妹都市であるカナダの町に生徒全員が2週間、2万8000円で短期留学できるというのが大きな特徴だ。費用の大部分は町が負担している。
人口減少に悩む公立高校 全国募集の現状
人口減少に悩む自治体が積極的に導入を進める公立高校の全国募集。地元の高校を維持しようと、地域を挙げて特色ある高校をつくり、生徒を呼び込もうとする動きはここ数年加速している。

富山県教育委員会が2023年8月に行った調査では、2023年度全国募集を行ったのは38の道府県で325校。1025人が入学した。このうち全国募集しなかった9都府県は、東京や大阪など大都市圏が中心。人口200万人以下の県で行っていなかったのは、富山と福島のみだった。
すでに多くの自治体が導入する中、2023年度全国募集した学校のうち、8割にあたる269校では定員割れが起きている。こうした中、富山県は2025年度から初めて県立高校の全国募集を行う。
南砺平高校の特色をアピール
県内第1号となるのが南砺市にある南砺平高校だ。

受験生の定員割れが続く中、南砺市が県教育委員会に要望し実現した。

県教委・県立高校改革推進課の森正昭主幹は「富山県としては初めての取り組みですから。他県の高校をきょう勉強させていただきながら、一歩ずつ前向きに取り組んでいきたい」と話す。

この日は対面で行う初めての説明会。
首都圏在住の卒業生も加わり、高校のある南砺市の五箇山地域の魅力や、全国高校総合文化祭で活躍の郷土芸能部、オリンピック選手も出ているスキー部など特色ある部活動をアピールした。

説明会に参加した神奈川県在住の中学生は「みんなとは違うことをやりたいっていうのがあって。そこならではの行事とかを特にやってみたいなって」と入学したあとの楽しみを話し、愛知県在住の中学生は「(南砺平に興味を持ったのは)去年、一昨年と、南砺市利賀に山村留学していたから」と説明会に来た理由を話す。

保護者は「自然が豊かなところで、本人がやりたいことがやれたらいいなって」と子どもの意見を尊重するようだ。
一方、会場には富山から県外の高校を目指すという中学生の姿も見られた。

高岡市から来場した中学生は「海洋、魚に関する(学びが出来る)学校に行きたくて来ました。富山だったら、中途半端な免許とかしか取れないので。(県外の)違う学校に行って、本気で漁がしたいから。漁師になりたいです」と将来を見据えて説明を聞きに来ていた。
さらに、北海道・平取高校のブースでPR活動を行っていた1年生・村下陽音さんは、富山県高岡市出身で、この春平取高校へ進学した。

村下陽音さん:
中学校時代は不登校で、富山県の高校には通いたくないなと。去年の東京での合同説明会でたまたま「平取高校」に出会って。ここならリスタートして3年間がんばれるなと思ったので、入学を決めました。友達と毎日トランプやゲームをしたり楽しい時間を過ごしています。北海道という地に来て、広くて、色んな方がいるので。例えばアイヌの方。多様性や、みんなを尊重し合って生活することが大切だとわかりました。自分で選んだからこそ今があるのかなと、こうして3カ月過ごしてみて思います。
受け入れ態勢の課題と地域の対応
自分がどこで何を経験したいか、全国の高校から自分で選ぶ。そうした中学生が増えてきていて、将来的な定住人口や関係人口の増加にもつながることが期待され、全国募集に本腰を入れる自治体が増えているというわけだ。
そうした中、全国募集を始める南砺平高校のある南砺市平地域では、生徒の受け入れ態勢が課題となっている。

南砺平高校では、遠くからの生徒が多いため全校生徒の半分ほどが学校の近くにある寮で生活している。寮は学校の教員が交代で寝泊まりしているが、平日のみで、土日、生徒は自宅に帰ることになっている。そのため、県外から来る生徒は週末過ごす下宿先が必要になる。
下宿先の募集・調整は、平地域づくり協議会などが進めていて、現在3軒が受け入れ協力に手を挙げているという。

ただ、今後は、懸念もある。平地域づくり協議会・南田実会長は「とりあえず1年目はクリアするかもしれないが、毎年確実に全国から生徒が来てくれれば、(下宿先が)3軒では足りない。その下宿先も永久にできるわけではない。やっぱり高齢者が多いから。家は空いている、部屋はいっぱい空いているが、“世話をする”のになかなか二の足を踏む。(県外生徒が)安心できる環境にしてあげなければと」と話す。
全国募集で、生徒が集まること自体は歓迎するものの、受け入れ態勢をどう整えていくか、地域ぐるみでの対応が必要になっている。
全国の自治体があの手この手で特色ある高校の整備を進める中、富山県や南砺市の取り組みが注目される。
(富山テレビ)