11月のアメリカ大統領選挙の前哨戦となるテレビ討論会が南部ジョージア州で開催され、実に4年ぶりに直接顔を合わせたバイデン大統領(81)とトランプ前大統領(78)が激しい論戦を繰り広げた。

81歳と78歳…2人の大統領経験者が論戦

会場から流れるBGMを背に81歳と78歳の2人の大統領経験者が肩を並べた。2人の演台の間は8フィート(約2メートル40センチ)、大きな体の2人が互いに手を伸ばせば届きそうな距離だった。

この間、互いを罵ってきた2人は、会場のCNNのスタジオに現れると、目を合わさず、握手を交わすこともなく、演台の前に立った。

この4年間、両者は、互いを「民主主義の脅威」または「老人」などと批判し、空中戦を繰り広げてきた。両者が初めて対決した2020年のテレビ討論会では、トランプ氏がバイデン氏の発言を145回遮り(CNNより)、互いに中傷し合い、史上最悪の討論会と評された。以来、直接顔を合わせるのは実に4年ぶりとなった。

4年前の教訓を踏まえ、今回は相手の発言中は、もう一方のマイクの音声を切る措置が取られた。観客も入れず、聴衆の拍手や声援がない静寂の中、舞台が幕を開けた。

冷静さを保ったトランプ氏 高齢懸念を一層加速させたバイデン氏の90分間

討論のテーマは、物価高や人工妊娠中絶の問題、国境政策など多岐にわたった。だが、何よりも注目を集めたのは、82歳で二期目を迎えるバイデン氏の高齢不安だった。

6月27日に行われたテレビ討論会(写真:ゲッティ)
6月27日に行われたテレビ討論会(写真:ゲッティ)
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演説中、バイデン氏は咳払いをしたり、咳込んだりする場面が何度もあり、弱々しい声だった。これについてバイデン陣営は、風邪をひいていると説明したが、言いよどんだり、ろれつが回らなかったり、途中で話が変わったりする場面もあり、自らの年齢や高齢不安に一層注目を集めさせるきっかけを作ってしまった。

一方のトランプ氏は、4年前の討論会を教訓としたのか、バイデン氏の発言に耳を傾け、終始口を真一文字にし、冷静さを保つよう自制している様子もうかがえた。また話が脱線する場面もあったが、集会で見せる過激な発言も控え、威圧的な態度も抑えられていた。

専門家、バイデン氏が8月の党大会で候補者を差し替えられる可能性に言及

討論会を終え、2人の専門家に話を聞くことが出来た。

ノースイースタン大学ジャーナリズム学部のアラン・シュローダー名誉教授は「両者の不人気は加速する」との見方を示した。

シュローダー名誉教授:
今夜の勝者はいない。トランプもバイデンも討論会前から不人気だったが、討論会後はさらに不人気になるだろう。これほど憂鬱な討論会は見たことがない。どちらの候補者も、知的で活力があり、前向きなリーダーシップに飢えている国に、少しも希望を与えることはなかった。

バイデンは、言葉を濁したり、咳き込んだり、声を荒げたりと、弱々しいスタートを切った。彼の話し方はしばしば聞き取りにくいほど不明瞭で、夜が更けるにつれてわずかに改善されただけだった。見た目も声も弱々しく、主張しやすいことでも何度も失敗していた。

シュローダー名誉教授は「番組が始まって30分ほどで元の過激なトランプに戻った」と指摘(写真:ゲッティ)
シュローダー名誉教授は「番組が始まって30分ほどで元の過激なトランプに戻った」と指摘(写真:ゲッティ)

トランプは、最初は比較的控えめだったが、番組が始まって30分ほどで元の過激なトランプに戻ってしまった。討論会の終盤になると、彼はわめき散らし、嘘や陰謀論をまき散らし、自分がいかにひどい扱いを受けているかを愚痴り、彼は動揺していて、危険な感じだった。

アーカンソー大学の政治学部のパトリック・スチュワート教授は、「バイデン氏が候補者を差し替えられる可能性」に言及した。

スチュワート教授:
立ち居振る舞いに注目している私の立場からすると、ディベートの前半はトランプ氏の方がよく見え、よく聞こえた、後半はバイデン氏の方が知的スタミナと集中力を発揮していた。

バイデンは、年相応だった、内容は的を射ており、より多くの事実を知っており、より多くの政策的な答えを持っていた。しかし、流暢さの欠如やかすれた声、質問にかみ合わない支離滅裂な答えも多かった。

この討論会は、民主党が候補者を誰にすべきかを再考させるきっかけになったと思う。8月の民主党大会が近づくにつれ、バイデン氏に代わって誰が大統領候補になるのか、あるいは誰がなるべきなのかについて、ざわめきが起こるかもしれない。

バイデン氏「うまくやった」と自らを労う

現地メディアからは再選を目指すバイデン氏の姿に“民主党はパニックだ”との見方も出た。

討論終了後バイデン氏は記者団に対し、今夜のパフォーマンスについて、「うまくやったと思う」と語った。さらに候補者が差し替えられる声があがっていることについては「嘘つき(トランプ氏)と議論するのは難しい」と言葉を濁した。

トランプ氏とバイデン氏は、それぞれ7月と8月の党大会で正式な候補として指名される予定だが、党大会を前にバイデンおろしの風が再び強まる可能性もある。

両者の次の直接対決は、大統領選まで2カ月を切った9月10日のテレビ討論会(ABC主催)となる。
(FNNワシントン支局 千田淳一)

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。