神秘的な見た目が美しい、ある“海の生物”の動画がTwitterに投稿され、話題となっている。

それがこちらだ。


ウミウシの中でもトップレベルの美しさを持つコンシボリガイを今日伊豆半島、大瀬崎の水深9メートルの場所で見ました。まだ子供だったんで、余計体の色が綺麗でした!可愛すぎます!!

体全体が青のグラデーションで、半透明ということもあり、どこか神秘的な雰囲気を感じさせる。ゆっくりと海底を移動するこの生物は、貝の仲間となる「コンシボリ」

動画を投稿したのは、水中写真をなどを撮影して海の神秘や不思議を発信している「村井智臣」(@MURAITOMOOMI)さんだ。村井さんによると、体長は約2センチだったという。

この鮮やかな見た目のコンシボリに対して、Twitterでは「この世の物とは思えない無いくらい可愛い〜」や「凄い。青色の炎が動いてるみたい」など驚きの声が上がり、4万超のいいねが付いている。(2月6日時点)

しかし、このコンシボリとは一体どんな生き物なのか。なぜ体が透明なのか? 貝に詳しい岡山大学 農学部環境生態学コースの福田宏准教授にお話を伺った。

専門家「見つけることは難しいでしょう」

ーーこの生物はウミウシの仲間?

本種を含むオオシイノミガイ上科は、つい数年前まではウミウシの仲間(現在の分類でいう真後鰓類や裸側類など)に含められていましたが、最近の研究の結果、狭義のウミウシの仲間とは言いがたいことが判明しました。

このため,本種を「ウミウシの仲間」と言い切ってしまうと、厳密には正しくありません。「ウミウシに近縁な仲間」など曖昧な表現にしておく方が無難です。本種は肉食性で、ゴカイなどを捕食することが知られています。

見た目は可愛くどこか神秘的…

ーー改めてこの生物の名前と特徴は?

学名:Micromelo undatus 和名:コンシボリ
所属: 軟体動物門:腹足綱:異鰓亜綱(いさいあこう):原始的異鰓類(非公式群):オオシイノミガイ上科:ミスガイ科:コンシボリ属

異鰓亜綱は腹足綱(いわゆる巻貝類)の中で最も派生的な(=歴史上最後に出現した)グループで、いわゆるウミウシの仲間と、カタツムリなど陸産貝類の一部などから構成されます(ウミウシとカタツムリは解剖学的には多くの部分が共通しています)。

原始的異鰓類は異鰓亜綱の中で最も原始的な(=歴史上最初に出現した)一群で、その中に属す各グループ間の系統関係は現在もまだ明確に把握できていません。


ーーこのコンシボリは人間でいうと何歳くらい?

正確にはわかりません。寿命や、いつ交尾してどのように産卵するかもわかっていないはずです。ただし、今回の動画の個体は、コンシボリとしては殻が小さくて巻き数も少ない上に、殻の表面の摩滅や褪色も見られないので、老成した個体ではなく、まだ若い個体とは言えるでしょう。


ーーコンシボリは海で見つけるのは難しい?

いつでもどこでも簡単に目にできるような、いわゆる普通種ではありません。「個体数は少ない」と明記している文献もあります。少なくとも、ダイビングで漫然と海底を見ているだけではなかなか見つけられないでしょう。

ただこれは、我々人間の側が、彼らが最も好む棲息環境の条件を熟知していないだけかもしれません。いつもは人目につかない場所に潜んでいるだけで、我々の目の届かない場所にたくさんいる可能性はあります。


ーー生息域は?

日本では伊豆半島以南の温暖な海域に知られ、小笠原諸島及び南西諸島でも記録されています。国外はインドネシア、ハワイ、紅海,南アフリカなど、西太平洋〜インド洋に広く分布します。潮間帯から潮下帯(水深約30 m程度)の細砂底に棲むと言われています。

ーーそれぞれの器官について教えて

動画に写っているのは、殻及び軟体の頭部−腹足と呼ばれる部分です。軟体の進行方向が前で、殻の前方に頭部が位置します。頭部は背面に頭楯(とうじゅん)と呼ばれる構造をもち、動画で左右対称に一対並んでいる勾玉状の構造がそれに相当します。この頭楯の前方中央あたりに小さな黒い眼が一対あります。頭楯の前方腹面に口があるはずですが、動画では写っていません。海底に接している部分が足です。内臓は全て殻の中に収まっていて、生きているときは外から見ることはできません。

専門家の回答を基に作成

「鮮やか色は相手を警戒させるため」


ーーなぜ体が透けているの?

透明であること自体に深い意味はないと思います。貝類の体は基本的に半透明で、筋肉組織や上皮が分厚い場合に結果的に不透明になるだけです。本種の場合はむしろ、足が扁平でごく薄いことこそが重要で、これは砂底を迅速かつ円滑に匍匐(ほふく)することへの適応でしょう。その結果として、足の組織が薄くなり、結果的に透明に見えているのだと考えられます。


ーー色が美しいのは子どもだったから?

確かに、若い個体の方が老成個体よりは色が鮮やかな場合もありますが、加齢とともに色彩が鮮明になってゆく場合もあるので、一概には言えません。


ーー映像で見ると目立つ色だが海の中で目立つのは不利ではない?

異鰓類のうちで殻が退化的な種群の多くは、殻に閉じこもることで防御することができないので、まったく逆の戦略を取り、敢えて仰々しい色彩で魚類などの捕食者を脅かし、食べられにくくしているとされています。

これは「警戒色」と呼ばれ、「毒を持っているぞ,食べたら死ぬぞ」というメッセージを敵に対して発しているわけです。実際に本種は、餌とするゴカイから毒を取り込んで組織に蓄積し、外敵から身を守っていると言われています。


ーー成長すると色が変わる?

殻はだんだん厚くなって不透明化しますが、軟体部の色彩が加齢とともにどのように変化するかはわかりません。一般論としては、成熟すると筋肉組織も厚くなるので、不透明になってゆく可能性はあります。

人間の指と比べるとこんなに小さい

ーーちなみに食べられる?

この類を人間が食べてみたという明確な記録はないと思いますが、上記の通り、本種はゴカイ由来の毒を持っているとされているので、人間が食べても中毒症状を引き起こす恐れはおおいに考えられます。


ーーなぜ貝類なのにウミウシには体を覆うような貝がない?

殻があってもなくても生存に支障がなかったから、結果的に殻のある貝類とない貝類が並存している、としか説明のしようがありません。殻のないグループはないなりに、上記の警戒色であるとか、なくても生きて行けるようなライフスタイルを獲得するなどでこれまで絶滅せずに生き延びてきたわけです。

要するに生き物の形態は「たまたまそれでも生きてこれたので、結果的にその状態が保たれている」というだけであり、大した意味はない場合が大半です。何でもかんでも「なぜ」と理由を求めるのは人間の悪い癖にすぎません。

また、「貝類」というとほぼ全てが殻をもつと思い込んでいる人が今でもたくさんいて、私としてはその思い込みの方にむしろ驚かされます。

ナメクジやタコやイカもれっきとした貝類ですし、最も原始的な貝類のグループは全て殻を持っていません。したがって「貝類=殻がある」というのはただの認識不足というか偏った見方であり、事実に反しています。


コンシボリの身体がこれほど鮮やかだったのは、相手を警戒させるためだった。海には、まだまだ私たちが知らない不思議な生き物がたくさんいるはず。海を訪れた際には、海岸や海中を注意深く観察するのも面白そうだ。

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