霊媒師を装い現金などを盗んだとして男女4人が逮捕された事件。同様の手口で全財産をだまし取られた被害者を独自取材すると、“家族構成から過去の出来事まで言い当てた”という霊媒師の、巧妙な手口の全貌が明らかになった。

「ずばり当てられ…信じちゃった」

6月5日に送検された60歳の女。「霊媒師」などを装い、名古屋市の神社で60代の女性から現金など45万円相当を盗んだ疑いで、共謀した仲間と共に逮捕された。同様の被害は大阪や兵庫など全国で相次ぎ、被害は1億2000万円以上にのぼっている。

被害女性を独自取材
被害女性を独自取材
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「詐欺した3人は捕まってほしい。全財産これから稼げるかどうか分からない」。Mr.サンデーの取材に「全財産を奪われた」と怒りをにじませたのは、名古屋市に住む女性。

被害に遭ったのは5月5日。用事のため自宅からの道を歩いていると、突然「すみません。私、アメリカから戻ってこられた霊媒師を探しています。もう3週間も探し続けているんですが知りませんか?」と見知らぬ女に声をかけられたという。

「アメリカ帰りの霊(感)が強い先生を探していると。娘と旦那さんが病気をして、ちょっと見てもらいたいから、その先生見たらすぐ治るんだ、って……」

被害女性が困惑していると、話を聞いていたのか、別の女が「私、その霊媒師、知っていますよ。あの辺りに住んでいますから一緒に行きましょう」と声をかけてきた。

「『じゃあ2人で行ったら?良かったね』って言ったら『いや、あなたも一緒に行く。すぐここの辺だから』と……」

女たちは「あなたも運がいい。一緒に見てもらいましょうよ、お金かからないし」「それがいいわ!」と勝手に話を進め、被害女性は用事がある方向も同じだったため、とりあえず一緒に行くことにした。

“霊媒師の孫”だという女がが現れ、案内していた女が「霊媒師のお孫さん」と被害女性に紹介
“霊媒師の孫”だという女がが現れ、案内していた女が「霊媒師のお孫さん」と被害女性に紹介

すると今度は、“霊媒師の孫”だという女が現れ「あれ?どこ行くの?」と声をかけてきた。案内していた女が「ちょうど良かった。この人、霊媒師のお孫さん。ちょうど先生を探しに行こうとしていたんですよ」と被害女性に紹介すると、“霊媒師の孫”は女性に対し突然「あなた、よく一人で仕事を頑張っているわね。子供2人を、女手一つで…大変でしょ?」と言ってきたという。

「ずばりみんな当てられたんですよ。『あなたは人間関係もいいし、よく子供を育てるし』。本当にシングルマザーだったから、当てられた、信じちゃった」

初対面であるにもかかわらず、シングルマザーであることや子供が2人いることなどを言い当てられた被害女性は「霊能力がある」と信じてしまったという。そして“霊媒師の孫”だという女から思わぬことを告げられる。

「明日、あなたの息子が死ぬ」と言われ…

「あなたは、過去に人が死んだ場所を自転車で踏んでしまい、その霊がとりついています。このままだと、明日あなたの息子が死んでしまう」。“霊媒師の孫”だという女は女性にこう告げた。

「『あなたの息子さんは明日死ぬんですよ』って言われた。だからこっちも焦ってしまった」

ショックを受ける女性に、“霊媒師の孫”はさらに「息子を助けるためには、家にある全財産と貴金属を持ってきておはらいをしなくてはいけません」と畳みかけた。

「解決方法は、家の貴金属、お金を全部持ってきて、『おはらいみたいなのをしてくれるよ』って言われて。『家にいくらあるんですか?』『そのお金をおはらいしたら、一生うまくいくよ』と言われた」

女性が迷っていると、横にいた女が「私、お金持ってきます!」と先陣を切るようにお金を取りに帰ると言い出し、霊能力をすっかり信じ込んでいた被害女性も家に戻ってお金を持ってくることにしたという。“霊媒師の孫”は「お金と一緒に、お清めとして塩と米も入れるように」と指示した。被害女性は家に帰り、リュックに現金数千万円と貴金属類、塩や米も入れたという。

被害女性と女たちが再び合流した際とみられる様子
被害女性と女たちが再び合流した際とみられる様子

そして被害女性と女たちは再び合流。その際とみられる様子が付近の防犯カメラに捉えられていた。

2人の女と共に足早に歩く女性の姿。一行は近くの寺の駐車場へ。「急ぐ必要がある」と、この場所でおはらいし、清めるというのだ。

“霊媒師の孫”を名乗る人物が持っていたのは黒い袋。これにリュックの中の現金などを詰め、水をかけたという。

「お水1本出して私の手を洗ってくれて、その時『じゃあこのリュックの中のものもおはらいしてあげる』『むこう向いて』と言われた」

被害女性は「おはらいの効果がなくなるから」と袋を開けないよう釘を刺された
被害女性は「おはらいの効果がなくなるから」と袋を開けないよう釘を刺された

“霊媒師の孫”から「後ろは見ないで!」と言われ、しばらく背中を向けていた女性。おはらいはすぐに終わり、黒い袋を手渡され、「これで大丈夫。でも、おはらいの効果がなくなるから、5月21日までは中を見ないように」と、16日後まで決して開けないよう釘を刺されたという。

被害女性と、手をつないで寄り添うように歩く“霊媒師の孫”
被害女性と、手をつないで寄り添うように歩く“霊媒師の孫”

防犯カメラには、おはらいを終えた4人とみられる集団が歩く様子も捉えられていた。先頭を歩くのは被害女性と、手をつないで寄り添うように歩く“霊媒師の孫”を名乗る人物。そして、後ろを歩く2人が声をかけてきた女だとみられている。

袋には砂糖や塩、宝くじ…現金とすり替え

被害女性は、約束通りにおはらいから16日後の5月21日に黒い袋を開けてみた。中には、新聞紙に包まれた砂糖、塩、ペットボトル2本、なぜか油よごれをとるシートに、何かの皮肉なのか10枚入りの宝くじ2袋が入れられ、現金はすっかり消えていた。

実際に渡されたという袋
実際に渡されたという袋

取材した番組のディレクターが実際に渡されたという袋を持ってみると、確かに重みがある。すり替えたことを悟られないよう、砂糖やペットボトルなどでごまかそうとしていたのだろうか。被害女性は袋を開けて、初めて自分がだまされたことに気がついたという。

袋の中には、砂糖、塩、ペットボトル2本、油よごれをとるシート10枚入りの宝くじ2袋が入っていた
袋の中には、砂糖、塩、ペットボトル2本、油よごれをとるシート10枚入りの宝くじ2袋が入っていた

「ショックを受けたよ。パニック状態だったよ。自分はなんで信じちゃったんだろうと思って。なんで信じちゃった?それだけ。自分を責めるしかない」

声かけ役・案内役が個人情報聞き出し、霊媒師役に伝える

“霊媒師の孫”を名乗ったあの人物は、なぜ被害女性の個人情報を知っていたのか。

実は、“霊媒師の孫”と出会う前、その道中で、声をかけてきた女たちから家族構成などの個人情報を尋ねられ、明かしていたというのだ。

「世間話をして、『あなた一人ですか?』『子供何人いるんですか?』とかね」

実はこの4日後、同じ名古屋市で同様の事件が発生。その手口は、声かけ役と案内役が、被害者との世間話で聞き出した個人情報をSNSで霊媒師役に伝えるというものだった。

今回の事件でも、女らが入手した情報を“霊媒師の孫”に伝えていたのだろうか。女性は被害届を提出し、警察が捜査している。

「(Q.一番信じてしまった理由は)家族。『息子が死んじゃうから』と言われたから。だから信じないこと。会ったことない人に声をかけられたら信じないことが一番」

一連の事件では、中国語で話しかけられて、中国人や中国語が分かる日本人が被害に遭っているという。
(「Mr.サンデー」6月9日放送より)