2022年の豪雨被害で、今も一部運休が続くJR米坂線について、5月に開かれた復旧に向けた検討会で、JR側は「JRの直営を前提とした復旧は難しい」との見解を示した。これに対し山形県の吉村知事は、6月6日の会見で「あくまでも災害復旧である」として、改めてJR直営による復旧を求めていく考えを示した。

JR側「運営前提とした復旧難しい」

吉村知事は会見で「県としては、基本的には“JR東日本による復旧と運営”を求めていくという考え。災害で被災したもので、災害復旧だと思っている」と述べた。

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JR米坂線は2022年8月の豪雨被害で、長井市・今泉駅と新潟・坂町駅の区間で現在も運休が続いている。JRの試算では復旧に86億円もの費用がかかるとみられる。

JR米坂線 復旧検討会議でJR側は…
JR米坂線 復旧検討会議でJR側は…

JRと沿線自治体が復旧への話し合いを進めているが、5月の会議で、JR東日本新潟支社・三島大輔企画総務部長は「被災前と同じように当社の運営を前提とした復旧は、民間企業として、持続可能性の観点から難しい」と述べていた。

これは、JRが示した「米坂線の今後の利用者数の試算結果」を受けた発言だ。「たとえ利用促進を図ったとしても大幅な利用者の増加は見込めず、鉄道の特性である大量輸送性が発揮できない」とJRは結論づけた。三島企画総務部長によると、「道路整備が進み、マイカー利用が浸透した。いわば“鉄道離れ”が進む地域で、鉄道の安定運行・利用増は鉄道事業者の努力だけでは難しい。地域の公共交通の課題と捉える必要がある」という。

「公共交通機関だという視点を」

これに対し、新潟県の花角英世知事も6月5日の会見で「災害時に代替交通路になる機能もあるし、もちろん地方創生の観点もある。鉄道にはいろいろな機能・役割があると考えている。基本的にはJRによる鉄道の災害復旧と運営を求めていきたい」と述べ、「鉄道の特性は大量輸送だけではない」としたうえで、吉村知事と同様にJRに対し「鉄道としての復旧を求めていく」考えを示した。

そして吉村知事は、JRが示した利用者数の試算について「条件設定や利用拡大の取り組み次第で結果が変わる」と指摘した上で、「JR側は最初から運営と言っている。経営も大事だが、私の立場からは地域の問題。『民間会社だ』と言っているが、公共交通機関であるという視点を政府もJRももっとしっかり持ってほしい」と述べた。

米坂線の鉄道での再開を願う飯豊町の住民の会「米坂線復旧をすすめる飯豊の会」の伊藤賢一副会長は、「みなさん鉄路・鉄道を使っていろんな所に行く。町民はここに生きようとしている。そこにしっかりとした交通インフラを整備してもらいたい」と話した。伊藤さんたちは、「鉄路復旧こそが沿線地域の活力になる」と訴えている。

4案が今後の議論の土台に

一方、JRは5月の会議で復旧後の運営を誰が担うのか、4つの案を示した。

1)これまで同様JRが運営する
2)上下分離方式
3)第三セクターなどへの移管
4)バス転換

この4つの案が今後の議論の土台となる。「これまで同様JRが運営する」場合は、土地や線路・駅などの施設や車両はすべてJRが所有・管理し運行もJRが行う。

これに対し、「上下分離方式」とは、土地や線路・駅などの施設は沿線の自治体が管理し、それをJRが借り受け、JRは運営に専念するやり方。これは2011年の豪雨で被災した福島・JR只見線が復旧の際に採用した方式だ。上下分離方式によって、沿線の自治体にとっては、駅の管理費など毎年3億円の新たな負担が必要となったが、地域にとって欠かせない鉄道が再開できた。

2017年、福島県・内堀雅雄知事は「只見線は地域の将来像を描き、地方創生を成し遂げるうえで大変重要な存在」と語っていた。

「第三セクターなどへの移管」は運営を第三セクターなど地域で運営する方式で、県内では「フラワー長井線」と同じ運営方式になる。そして「バス転換」は、鉄道での復旧を辞めて鉄道のルートをバスでカバーする方式で、2010年に脱線事故が発生した岩手・JR岩泉線は、その後、廃線となり路線バスに転換した。

全国でも鉄道の在り方が次々と見直される中、「地域の利便性」だけではなく、「県や沿線自治体の費用負担」も考えた上で、議論を前に進める必要がある。

吉村知事は「沿線自治体と議論を深めていくということに今は尽きる。4案のうち『これだ』ということは申し上げられない。現時点では。ただ、私も新潟県知事も、基本的にはJRによる復旧・運営が望ましいということには変わりはない」と述べた。

また、吉村知事は5日、斉藤鉄夫国交相に対し、米坂線の早期復旧と政府による復旧費の補助率かさ上げなど、国の財政支援の拡充を要望したという。

(さくらんぼテレビ)

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