在留資格を得られない難民申請者が、入管収容施設以外で生活することを入管が認める制度が「仮放免」だ。しかし「仮放免」には様々な生活の制限があり厳しい暮らしを強いられる。そんな「仮放免」の子どもたちの生きづらさを知ってもらおうと、8月に「絵画作文展」が都内で開催される。

「子どもたちの苦悩は終わっていない」

「仮放免の子どもたちによる絵画作文展が始まったのが2020年5月(※)。残念ながら子どもたちの苦悩は終わっていません」

こう語るのは「入管を変える!弁護士ネットワーク」の駒井知絵弁護士だ。今月駒井氏ら難民申請者の人権を訴える弁護士のグループは、8月に4回目となる「仮放免の子どもたちの絵画作文展」を都内で開催すると今月発表した。
(※)2020年5月は絵画展のみ

会見する駒井弁護士(右)と指宿弁護士(左)
会見する駒井弁護士(右)と指宿弁護士(左)
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昨年8月入管庁は、日本で生まれ育った仮放免の子どもたちの一部とその家族に在留特別許可を出すという方針を発表した。「送還忌避者(※)のうち日本で生まれた子どもに対して、在留特別許可を出す」というものだ。2022年12月末時点で、在留資格のない送還忌避者は4233人で、そのうち日本生まれの子どもは201人だ。入管庁はこの子どもたちの少なくとも7割に、家族も含めて在留特別許可を与えるとしている。
(※)強制送還の対象となったが日本からの退去を拒んでいる者

仮放免や日本生まれでない子どもは

しかし駒井弁護士は「この方針には大きな問題がある」と指摘する。

「いま発表から約10カ月が経過して、まだ正確な統計は明らかになっていませんが、確かにこれまでにない数の子どもたちとその家族が在留特別許可を受けている模様です。しかし日本生まれの送還忌避者のみが対象であるため、退去強制令書が発付されないまま何年も仮放免の状態でいる子どもたちや、幼少期に日本に来て日本で教育を受けて育っている子どもたちは含まれていません」

昨年の絵画作文展で展示された仮放免の子どもの自画像
昨年の絵画作文展で展示された仮放免の子どもの自画像

同じグループの指宿昭一弁護士は「だからこそ絵画作文展を行う必要がある」という。

「難民申請者は国籍や名前を特定される危険を避けるため公に出られません。また子どもたちは無理解や差別されないよう、多くの場合事情を隠して学校に通っています。本来なら仮放免の子どもと家族が、直接社会に対して話をしてほしいのですができません。だから絵や作文というかたちで現状を訴えてもらうのです」

「他の子ども達みたいに自由が欲しい」

「仮放免の子どもたちの絵画作文展」に昨年出展した、日本で生まれ育ったアフリカ国籍の中学生は会見でこう語った。

「私は小学校6年生の時に自分の生活だけ学校の友達と違うことに気づきました。みんなは風邪を引いたらすぐ病院に行くけれど、私たちは行くことができない。夏休みや冬休みに友達は海外に旅行するけど、私たちはビザ(在留許可証)が無いから行けない。私も友達みたいに自由が欲しいし、飛行機に乗れる権利も欲しいです。この夢が現実になるのを願っています」

絵画を掲げるアフリカ国籍の姉妹
絵画を掲げるアフリカ国籍の姉妹

また一緒に会見した小学生の妹もこう訴える。

「私は他の子ども達みたいに自由が欲しいです。早くビザ(在留証明書)をもらって、あちこちの国に行きたいです。それが私の夢です。私のパパとママは仕事がないから働いていないのを聞いて、とても悔しくなりました。だから早くビザをもらいたいです」

「家族みんながバラバラになる」

2人の父母はすでに10年以上日本に滞在している。父親はこう語る。

「子どもたちは日本で生まれて育ったのに、日本で暮らす他の子どもたちと同じようなチャンスが、与えられていない状態にあります。健康保険証が無いから修学旅行にも行けません。こうした困難を2人に与えている政府に対して、日本の人たちに是非声を上げていただきたいという気持ちです」

「家族をバラバラにしないで」と訴える
「家族をバラバラにしないで」と訴える

会見に参加した南アジアの家族は子ども2人と母親は在留特別許可を得ているが、父親は許可が下りない状態だ。中学生と小学生の兄弟はこう訴えた。

「私たち3人がビザ(在留許可証)をもらえたことは嬉しいですが、お父さんだけがもらえないことはとてもひどいことだと思います。お父さんは病気で、家族みんながバラバラになったらお父さんを誰が看病するかもわからない。だから一日も早くお父さんにもビザを出してほしいです。お願いします」

「日本社会が育てる責任がある」

この作文絵画展の審査員を務めるのが、難民申請者と家族の生活を描きテレビドラマや舞台化された「やさしい猫」の著者、中島京子さんだ。

「日本ではほとんどの難民申請者が認定されず仮放免の状態にありますが、この人たちを不法滞在と呼ぶのはあまりに過酷で、国際的にみてもおかしいのではないかと。さらに不法滞在という言葉が、犯罪に手を染めているとイメージされますが、個々のケースを聞くとまったく実情と違います」

「やさしい猫」の著者、中島京子さん
「やさしい猫」の著者、中島京子さん

そして中島さんは仮放免の子どもを「日本社会がきちんと育てる責任がある」という。

「日本で教育を受け、友人や恩師などの人間関係を作っている、そういう子どもは、日本社会がきちんと育てる責任があるし、やがては日本社会を担う一員になってもらうと考えるべきではないでしょうか。仮放免の子どもたちに進学や就職の機会を与えない、つまり人間として当然の生き方を与えないというのは、あまりに残酷ですし、国家がしてよいこととも思えません。日本社会にとって大きな損失でもあります」

子どもたちの未来を奪ってはいけない

そして中島さんは絵画作文展についてこう続ける。

「絵画展は今年で4回目ですが、毎年、子どもたちの作品には驚かされます。この子たちの未来を奪うわけにはいかないと思わされます。多くの方に、作文・絵画に込められた子どもたちの思いを直接知っていただき、あるべき日本社会を考えていただけたらと願っています」

2023年に大賞を受賞した作文
2023年に大賞を受賞した作文

日本が国際的に定められる「子どもの権利条約」を批准したのは1994年で、今年はちょうど30年となる。子どもの権利条約ではすべての子どもが命を守られ教育や医療、生活への支援を得られるとしている。「子どもの権利条約」を批准した日本は、仮放免の子どもたちの未来に対しても責任を持つことが求められている。

(執筆:フジテレビ報道局解説委員 鈴木款)

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。