アメリカのエマニュエル駐日大使が2024年5月17日、初めて与那国町を訪問した。糸数町長と面談し自衛隊駐屯地などを視察。日米同盟や抑止力の必要性を強調した。
今回の大使の訪問について、島民からは「抗議」と「歓迎」の声が上がった。
駐日大使の訪問について識者は、台湾に地理的に近い与那国から「中国をけん制」したもので、米中間の緊張を高めるものと指摘する。
抑止力が無い場合は侵略を許してしまう
与那国空港に着陸したアメリカ軍機から降り立ったのは、エマニュエル駐日大使。
この記事の画像(10枚)駐日大使が与那国を訪れるのは今回が初めてのこと。与那国町の糸数町長から台湾との位置関係など説明を受けたあと、記者団の取材に応じた。
エマニュエル駐日大使:
抑止力がない場合には、経済的な強制や安全保障面での侵略を許してしまう多くの例がある。島の経済的繁栄と住民のために働き続けることが、我々のコミットメント(約束、責任)だ
台湾有事を想定した米国の地ならしの一環
今回の駐日大使の与那国訪問の目的について沖縄国際大学の野添文彬准教授は、中国へのけん制であることは間違いないとした上で、台湾有事を想定したアメリカの与那国に対する地ならしの一環との見方もあると指摘する
沖縄国際大学 野添文彬 准教授:
米軍として与那国島を使っていきたいというのが本音だと思います。有事の際には、台湾に対して、だいたい200キロぐらいの距離にある与那国島を使って、そこを拠点に海兵隊などを展開したり、あるいはミサイルを発射したりするっていうことが大いに想定されると思います
野添教授は、「平時から米軍が与那国島を訓練の拠点として使いたいということは大いに考えられる」とし、そのための地ならしとしての訪問だと捉えられると指摘する。
与那国島を最初に訪れた米国大使だが私が最後にはならない
与那国島の陸上自衛隊の駐屯地では2022年、初めてアメリカ軍が使用しての共同演習が実施された。
エマニュエル駐日大使:
この島を訪れる初めての米国大使だが、私はここに来る最後の米国大使ではないと思う。米国の軍人や軍属が来ることが増えることで、我々の大事な同盟国である日本の経済、安全保障を守ることができる
2022年8月、アメリカ下院議長が台湾を訪問したことに反発し、中国は弾道ミサイルを発射。日本の排他的経済水域、与那国島から80キロの水域に落下したことなどにエマニュエル大使は触れ、地元の漁師たちを気遣う発言もあった。
沖縄国際大学 野添文彬 准教授:
与那国島の人々に対して、自分たちはその与那国の味方である。だからその与那国島を拠点にして、日米同盟が機能するということは非常に大事だと、あなたたちを守るためだよというメッセージを発しているということが言えると思いますね
島の人たちは”抗議”と”歓迎”
漁協の関係者からは、今回の駐日大使の視察を歓迎する声が聞かれた。
与那国町漁業協同組合 嵩西茂則 組合長:
視察に来たことは良かったと思います。やっぱり有事が起こるかわからないとした上での、そういう不測の事態に備えて確認にするというのは必要だと思います
漁協の嵩西組合長は、「アメリカ軍にやってほしいことは、日本の領土・領海に相手国を侵入させない方策で、我々はそれに伴って安全性が保たれている」と抑止力への効果を期待している。
一方、大使の到着時に、空港前で抗議する住民の姿もあった。
抗議の参加者:
今までの穏やかなのどかな島じゃなくて、島民もピリピリしています。ここに米軍はいりません。そういう気持ちで来ました
住民として複雑な胸の内
住民の中には駐日大使の訪問が、中国や台湾との間の緊張を高めると懸念する住民もいる。
住民の男性:
日本の一番最西端ということと、台湾、中国との国境線にあることは僕らとしても意識はあります。国境の防人(さきもり)だっていう意識はあるわけですので、もちろん地域を守るためだというのはわかります。でも緊張しているというのは、どちら側からの話なのかと
国や町から具体的な説明もない中、大使の異例ともいえる訪問に、島の住民として複雑な胸の内を明かした。
住民の男性:
この緊張は日本対中国の緊張じゃないはずです。それこそ大国の間にいる私たちは、どう動くかってことですよね。もうちょっとゆっくり考えたいというのはあります
対中強硬派の訪問による影響
野添准教授は、エマニュエル大使の以前からの中国に対する姿勢も重なって、今回の訪問が中国との緊張を高めることに繋がると懸念する。
沖縄国際大学 野添文彬 准教授:
中国に対するその敵対的な発言で、アメリカ本国政府からも、中国に対してあまり過激な発言をするなということを止められた人物でもあり、非常に対中強硬派であるということ間違いないわけです
野添准教授は、「そういった人物がわざわざ与那国に行くことは、中国とアメリカの緊張を高めるということにもなってしまうので、与那国の住民の人たちが心配することは、ある意味当然のことだと思う」と話す。
今回の大使の訪問に林官房長官は「有益」だとしたが、アメリカ側の目的などについては言及していない。
アメリカと中国、大国の狭間で与那国の人たちは不安を募らせている。
(沖縄テレビ)