去年の参院選で一躍脚光を浴びた「れいわ新選組」。代表の山本太郎氏は今年7月の東京都知事選に出馬し、落選したものの65万票を獲得して3位となった。しかし立憲民主、共産党らが押した候補者に挑んだかたちとなり、消費税引き下げで平行線だった野党共闘の決裂は決定的に。

さらに党の中心メンバーの「命の選別」発言を巡るドタバタで、一時のれいわの勢いはすっかり衰えてしまったかのようだ。果たしてれいわは、再び表舞台に飛び出すのか。「敗軍の将」山本代表に、次の国政選挙への一手を聞いた。

れいわ新選組山本代表「都知事選は10万票スタートの心構えだった」
れいわ新選組山本代表「都知事選は10万票スタートの心構えだった」
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どこまで小池都知事に迫れるかが課題でした

――まず7月に行われた東京都知事選ですが、小池都知事が圧勝し、得票数では山本さんは3位となりました。立候補の決断がぎりぎりでしたが、かなり迷ったのですか?

山本氏:
去年の秋頃から「選択肢としては排除しない」と言ってきたのですが、立候補の時期がぎりぎりだったのは、政策を実行するための財源とその調達方法について総務省から確証を取るためでした。

私たちは立候補の前に3千サンプルの民間調査を行いましたが、結果は小池圧勝、他の候補者はほとんど団子状態で、その1人が私でした。

そうであれば、いま自分たちが必要だと思う政策を訴える場、もちろん選挙に出る限りは勝つためにやるのですが、どこまで小池都知事に迫れるかが選挙戦中の私たちの課題でしたね。

圧勝で当選をはたした小池都知事 7月5日
圧勝で当選をはたした小池都知事 7月5日

――得票数が約65万7千票でしたが、この得票数への評価は?

山本氏:
当初の民間調査の予想数字は30万から40万でした。れいわ新選組が去年参院選挙の比例で東京で取った票数が約45万でしたが、それは去年の夏の話ですから10万くらいに減っているだろうと。ですから今回は10万スタートという心構えでしたね。

「多くがゲリラ街宣でしたが利点もありました」

――当初予想から見たらかなり善戦したということですね。

山本氏:
えーと、都知事になりたかったんで(笑)。最初の想定よりは善戦したととれますが、知事のいすに座れなかったことがすべてですね。勝つつもりでやっていましたから、自分の中では非常に悔しい思いでした。一方で宇都宮さんは、立憲、共産、社民という国政政党がサポートしていて約84万票。2位争いには何の意味も無いのですが、いま私たちの実力としてはこの数字が現実だと思います。

――コロナで街頭演説が思ったようにできなかったのも影響ありましたか?

山本氏:
いやー、やっぱり厳しかったですね。話を聴いて下さる人の間隔を開けたり、予告はやりづらいので多くがゲリラでの街宣でした。ただ利点もありましたね。予告をすると支持者が集まって、打てば響くみたいな状態になりますが、ゲリラ街宣では短い時間の中でどれだけ足を止めてもらえるか、どれだけの人が頷いてくれるか、疑問を持ってくれるか、そういうやりとりをやるというのは鍛えられる部分がありましたね。

「野党票が割れた」批判は全く当たらない

――立憲民主党から「山本さんの出馬で野党票が割れた」との批判がありますね?

山本氏:
その批判は全く当たらないと思います。一本化しようが何しようが、大きく迫るとか逆転するとか難しいことは選挙前のどの調査でも明らかで、責任転嫁は良くないと思います。初めから目指していたのが2位で、もう少し票数を積みたかった、という意味ならば理解しますが。逆に私たちが出なければ、維新が2位につけていた可能性もあると思います。

――れいわと維新の支持者層が重なっているという考えですか?

山本氏:
訴えていることは真逆で、維新は小さな政府、私たちは大きな政府です。ただ、私たちに投票してくださった方から、維新にしようか迷ったという声やその逆のご意見はよく聞きました。これまで既存の政党に裏切られ続けてきた方々が、「新しい勢力なら何かやってくれるんじゃないか」と、投票先を悩んだと私は思うんですけど。

「私たちにはブームや旋風はあまりいい言葉でない」

――では、次期衆院選に向けたれいわ新選組の戦略について伺います。今回の知事選の結果を受けて、東京での候補者擁立戦略は変わりますか?

山本氏:
擁立に与える影響はあると思いますね。というのは参院選での得票の地域分布と都知事選での分布は大きく違いましたから。参院選ではどちらかというと中央線沿いや世田谷、目黒の得票率が高く、江東5区や多摩地域が低いという結果が出たんです。今回は弱かった地域が伸び全体的に平均化しました。都知事選は政策の準備に時間を取られすぎて、どの地域でどういう訴えをしていくか、もう少し細かく分析して本番を迎えていれば10万票以上動きが変わったと思いますね。大きな反省点の一つです。

――去年の参院選後「れいわブーム」が巻き起こりましたが、いまはブームが落ち着いたと感じますか?

山本氏:
ブームといっても参院選前にれいわを取り上げたマスコミはほぼ無くて、選挙後の盛り上がりに乗じた格好でしたね。私たちからすれば、ブームや旋風はあまりいい言葉でないと思っています。一時だけ興味が集中するような展開になってしまうと、平時に戻れば「勢いが止まった」といわれるだけです。政治は長いスパンで挑まなければいけないので、コツコツやっていくしか無いですね。

「なんか面白いマッチメイクができればいいですね」

――次の衆院選は山本さんも当然出馬すると思いますが、どの選挙区から出るつもりですか?

山本氏:
あ、それはいえませんよ(笑)。だってただでさえ、れいわは現役の国会議員が2人しかいないし、代表はバッヂさえつけていない小さなグループですから。だから手持ちのカードって少ないじゃないですか。それはなかなかご披露するわけにいかないということです。はい、すみません。

「あ、それはいえませんよ。手持ちのカードって少ないじゃないですか」
「あ、それはいえませんよ。手持ちのカードって少ないじゃないですか」

――噂では、安倍総理、菅官房長官、小泉進次郎環境大臣の選挙区とか。

山本氏:
なんか面白いマッチメイクができればいいですね。。。私の中で一番重要なのは、れいわに注目を集めることではなく、投票率全体を上げていく、選挙に対して興味を持ってもらうことだと思っています。そういう意味で、野党共闘の条件である消費税5%への引き下げを飲んで頂いたら、「山本がどの選挙区から出るか」というカードに関しても、先輩方にご相談させて頂きたいと常々言ってきたんですけどね。

先輩方は消費増税に真っすぐな想いがあるのかな

――「消費税引き下げ」の旗は、あくまで降ろさないのですね?

山本氏:
ありえないです。おそらく先輩方は消費増税の三党合意の際のメインキャストですから、引き下げによって「あまりにも責任感が無いんじゃないか」といわれることへの懸念があったり、私たちには理解できませんが、真っすぐな想いとかあるのではないですか。

――衆院選の候補者選びは、どんな感じですか?

山本氏:
水面下では行っています。すでに11人の候補予定者は決定していますが、候補予定者をなぜ発表できないかというとコロナの影響ですね。これまでは候補予定者と私が一緒に記者会見をやっていたのですが、コロナでなかなかうまくいかず、タイミングが難しいですね。

「選挙区での活動を積み重ねていない人たちは泡沫」

――候補者選びの基準はどう考えていますか?

山本氏:
候補者として必要なことは、参院選と衆院選は違うと。たとえば参議院では1人の東京選挙区と全国比例だったので、どちらかというと「れいわ新選組がやってきた」みたいな感じ、お祭りでしたね。つまり、いろいろなシチュエーションを抱えた個性の強い人たちが、訴えをするような状態でしたが、衆院選は1つ1つの選挙区においてどれだけ活動をしてきたかです。参議院の候補者選びは当事者性が強いかどうかでしたが、それは衆議院では持ち込めません。選挙区での活動を積み重ねていない人たちは泡沫ですから。

――そうすると「れいわらしさ」が失われるのではないですか?

山本氏:
「衆議院のメンバーはれいわらしくない」とマスコミによくいわれますが、「いやいや、そうじゃないでしょ」と。衆院選は、小さな選挙区の中でどれだけ人に会って話を聞いて繋がっていくかということの1番を決めるわけですから。そう考えたときに衆院選の闘い方は、参院選のお祭りに近い形とはちょっと違う世界観です。もちろん当事者性もあることは間違いないですが、それ以外の日常的な地域との関わりが重くなってきますね。

「命の選別」発言、重く受け止めている

――最後に、政治家として将来目指すものは何ですか?

山本氏:
そうですね。やはりれいわを旗揚げする理由の1つは、総理大臣を目指すことでしたから。もう1つが「生きているだけで価値があるとされる社会をつくる」と。だから参院選の時に舩後、木村を先にして、自分より優先的に上がってもらったんですね。これで「生きているだけで価値がある社会」を目指す第一歩、当事者を国会に送り込むというのは達成できた。でもこれはあくまでもスタートですね。それより先の目標は、自分自身が総理になって成し遂げたいことがあるということです。

――そういう意味では、れいわの参院選候補者だった大西つねき氏の「命の選別」発言は、許せなかったですね。

山本氏:
旗揚げの理念は共有できていると私は思っていたのですが、そうでなかった。大西さんの中にああいう気持ちが生まれてきたのはコロナからだと聞いていますが、これは非常に重く受け止めています。私たちのグループにいる国会議員2人が、その最前線に立たれている方々ですから。

生活や経済の安定を打ち出す野党が塊にならないと

――コロナとの闘いはまだ続きますし、その中でこの国が疲弊していくおそれがあります。次の選挙に向けて訴えたい政策を教えてください。

山本氏:
自分が目指したい「生きているだけで価値がある社会」は、何もかも失っても国、社会だけはあなたを見捨てないという社会です。参院選の時は8つの緊急政策を掲げましたが、すべて重要な課題であるという認識なので、原発は一刻も早く撤退しなければならない、消費税をやめなければいけないは変わりません。

「異次元の財政出動をしないと世の中は壊れます」
「異次元の財政出動をしないと世の中は壊れます」

――具体的なコロナ対策の提案は?

山本氏:
さらに、これから現実的に起こりえるコロナ不況からの恐慌をいかに食い止めるか。

それには第二波、第三波を乗り越えていくために、まずは体力の回復が必要です。コロナは自然災害で、国がやるべきは、人々に対する給付の徹底と徴収を止める。たとえば税や社会保険料、水・光熱費の支払いは国が肩代わりする。異次元の財政出動をしないと、世の中は壊れます。人々が生きていくうえで不安なのは、自分の将来が見通せないことです。生活や経済の安定を打ち出せる野党が、塊になって政権交代を目指さないと託してもらえないですよね。

――ありがとうございました。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。