メキシコは、エクアドル警察が自国の大使館に突入し、亡命を求めていた元副大統領を拘束したことは国際法違反だとして、国際司法裁判所に提訴した。この事件により、エクアドルとメキシコの関係は緊迫化している。

国際法違反か…メキシコがエクアドルとの国交断絶

メキシコは、エクアドルにある自国の大使館に警察官が突入したのは国際法違反だとして、エクアドルをICJ国際司法裁判所に提訴したほか、国連の加盟資格の停止を求めた。

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エクアドル警察は5日、首都キトにあるメキシコ大使館に踏み込み、政治亡命を求めて逃げ込んでいたグラス元副大統領を拘束した。

これを受け、メキシコはエクアドルとの国交を断絶し、両国の関係は緊迫化していた。

メキシコは11日、エクアドル警察官が大使館に突入したのは国際法違反だとして、オランダ・ハーグの国際司法裁判所に提訴。また、エクアドルが国際法違反を認め、公式に謝罪するまで国連加盟国としての資格を停止するよう求めた。

ここからは、取材センター室長・立石修が解説する。

大使館は国際条約で守られた場所であり、ここに突入することは極めて問題がある。どうしてこんな事が起きたのだろうか。

エクアドルの治安は、かなり混乱しているようだ。

メキシコの大統領は、エクアドルに激怒している。メキシコ側が公開した映像を見ると、メキシコ大使館入り口のドアが勢いよく開けられ、エクアドルの治安部隊が突入してきた。

エクアドルの治安部隊は、青い服を着た大使館職員と押し問答になるが、次々と隊員が突入し、奥の部屋から男性が4人がかりで抱えられて運ばれてきた。
この運ばれている男性が、エクアドルの元副大統領・グラス氏だ。

グラス氏は汚職などの罪でエクアドル警察に追われていて、メキシコ大使館に逃げ込み、亡命を求めていた。

この映像を公開したメキシコのロペスオブラドール大統領は、大使館突入は国際法違反であるとして、エクアドルを訴えている。

汚職で逃亡しているとはいえ、エクアドルの捜査は批判を免れない。どうしてこんな強引な手法を取ったのだろうか。

エクアドルとメキシコは、太平洋を挟んだ位置にある。エクアドルのノボア大統領(36)は、右派の政治家であり、左派のメキシコ大統領とは元々関係が良くなく、対立が深まっていたとみられる。

その一方で、エクアドルでは治安が急速に悪化しているのだが、そこに歯止めを掛けたい狙いもあったのではと考えられる。

南米各国の殺人事件の発生率を見ると、エクアドルの殺人事件の発生率は、2013年時点では、ブラジルやメキシコと比べて非常に低く、かつては南米でも一番低かったのだが、2020年から急速に伸びて、今や南米各国で最も殺人が起きやすい国となっている。

アメリカ軍の撤退で治安悪化…テレビ局乱入も

1月には麻薬取引の拠点となり、町にはギャング団があふれていて、路上でパトカーが爆破され、その様子を上半身裸の市民が驚いてみていた。

このように犯罪が多発する中、2023年に就任したノボア大統領は、非常事態を宣言してさまざまな強制捜査を行っている。

しかし、これに反発したギャング団が1月に生放送中のテレビ局に乱入。
覆面姿のギャング団は自動小銃をふりまわし、「警察はいらない」などと叫び、スタッフとみられる人々がとっさに床に伏せる様子が映っていた。

こういった治安が悪化する中で、強い大統領をアピールしなければならないため、大使館に突入してまで元副大統領を拘束したと思われる。

なぜそこまで治安が悪化しているのだろうか。

大きな要因の一つは、アメリカ軍の撤退だ。アメリカ軍は麻薬監視の目的で、エクアドルに基地を置いていたが、2009年に当時の反米左派政権のもとで撤退。麻薬ルートの監視が出来なくなったことがある。

このため、コロンビアやペルーから麻薬が大量に流入し、エクアドルのギャング団が勢力を持つようになった。国連の調べでは、エクアドルは今やアメリカやヨーロッパへの麻薬輸出の重要拠点になっている。

この麻薬、日本も無縁ではない。エクアドルは世界で一番のバナナ輸出国として知られ、日本のスーパーでも目にする機会も多い。
このバナナ輸出船に乗せて、麻薬が日本にも密輸されたケースもある。

2016年にはエクアドルの港から出港し、横浜港に到着したコンテナ貨物から、バナナ1400箱とともに約95kg、当時の末端価格で57億円相当のコカインが見つかっている。

南米の混乱は、日本にとっても決して遠い話ではない。
(「イット!」 4月12日放送より)

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