イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘開始から半年となった4月7日、パレスチナ自治区ガザの死者は3万3000人を超えた。子供は栄養失調になり、ガザは今、飢餓の危機に直面している。UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関の清田明宏保健局長に、ガザ地区での窮状の実態について聞いた。

「12回も避難場所を移動」「元の人口の4倍の人で密集」

清田保健局長は4月10日まで3週間、担当している保健サービスの実施状況の確認や、現地で働いている人への感謝の気持ちを伝えるため、ガザ地区南部と中部に入っている。今回のリモート取材はその合間に行われた。

ガザ地区南部・ラファでリモートでの取材に応じてくれた清田明宏さん
ガザ地区南部・ラファでリモートでの取材に応じてくれた清田明宏さん
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清田さんによると、保健サービスの従事者のほとんどが避難民で、テント暮らしをしながら医療活動にあたっているという。

「保健局で働いている人もほとんどが避難民で、多くの人はガザ北部から来て、中部から来てなので12回避難したという方もいましたし、だいたい3~4回の避難は普通です。テントに暮らしながらの医療活動をずっと続けている方もいるので、本当に毎日の生活が大変で『私は壊れている』ということをみんなが言います」

清田さんとマワシ地区のクリニックの職員
清田さんとマワシ地区のクリニックの職員

ガザ地区最南端の街・ラファには、北部や中部から避難してきた多くの市民がテントをたてている状況で、厳しい生活を強いられている。

「もともとラファは30万人の街だったんですけれど、そこに多い時は150万人。今、120~130万人いると言われていて、もとの人口の4倍の人がいきなりやってきています」

ガザ地区南部・ラファには無数のテントが並ぶ
ガザ地区南部・ラファには無数のテントが並ぶ

「空き地があればテントがたっているのが今のラファの現状です。海岸沿いの空き地はテントで全部埋まっていますし、道の周りにもテントがずっとあります。テントも援助機関から貰ったきちんとしたテントもありますが、自分たちで木材やビニールを買ってテントを作っている方もいて、本当に厳しい状態で過ごしています」

疲れは限界を超え…「人々の心が壊れている」

UNRWAが運営する避難所も人で溢れている。また、ガザ地区に搬入される支援物資の量は足りず、すべての物が不足しているという。

「基本的に何も足りていません。食料、水、そしてトイレとかそういう生活環境が全部足りていません。食料も徐々に入ってきてはいますが足りないため、子供の栄養失調が起きていて、ガザは今、飢餓の危機に直面しています」

「UNRWAで運営する学校の避難所では大体1万人弱が中で生活をして、2万人強は学校の周りにテントをたてて住んでいます。今はトイレが800人に一つ。シャワーにいたっては3000人に一つしかなく衛生状態が悪いです」

ラファの学校は避難所になっていて多くの人が生活している
ラファの学校は避難所になっていて多くの人が生活している

ラファには、多くの市民が避難しているが、イスラエル軍はそこにもハマスの部隊が残っているとして地上侵攻する考えを示している。

「非常にガザの人々にとって厳しい状態ですね。ほとんどの市民が北部などから本当に着の身着のままで南部・ラファに逃げてきて、またラファで戦争が始まるのではないか。そうすると、どこに行けるかもわからない。そしてそれを考えたくない、と」

「人々の心が本当に壊れている」と話す清田さん
「人々の心が本当に壊れている」と話す清田さん

「今日しか考えられないという方は多く、限界を超えて疲れているんです。戦争が始まって半年になり、人々の心が本当に壊れています」

人道支援団体も戦闘の犠牲に

こうしたなか4月1日、同じ人道支援団体「ワールド・セントラル・キッチン」の職員7人がイスラエル軍と調整のうえ、団体のロゴが付いた車で走っていたにも関わらず、空爆を受けて死亡した。イスラエル軍は同月5日、ハマスの戦闘員が車に乗っていると誤って認識したとの調査結果を公表したが、清田さんら関係者は憤っている。

「ワールド・セントラル・キッチン」の亡くなった職員(WCKのHPより)
「ワールド・セントラル・キッチン」の亡くなった職員(WCKのHPより)

「ワールド・セントラル・キッチンは暖かいご飯を作って、市民に配っているんです。我々も一緒に仕事をしていて、どうしてああいうことが起こったのか、本当にショックを受けています。空爆で殺されるっていうのは絶対にあってはいけないことですし、皆さん憤りを感じています」

世界から向けられたUNRWAへの疑惑

一方、UNRWAをめぐっては一部職員が2023年10月7日のハマスによるイスラエル襲撃に関与していた疑いがあるなどとして、日本を含めて10カ国以上がUNRWAへの資金拠出を停止した。その後、日本政府は4月2日、「深刻化する人道状況は待ったなし」として拠出再開を決めている。

「まず日本が支援を再開してくださるということを発表してくださって、本当に感謝しています。それとともに、複数の国が支援の再開を発表してくださっていますし、あるいは新たな支援を発表してくださる国もあるので、今のところはたぶん5月、6月までは資金はあると思います。それまでは活動は続けられますが、それ以降は非常に厳しい状況で、早く支援の再開をしていただければと思っています」

清田さんとマワシ地区のクリニックの職員
清田さんとマワシ地区のクリニックの職員

「(一部職員が襲撃に関与した疑いについて)実際に何があったかは国連の監査が入っていますので、それをきちんと待つということ。それとともに、フランスの元外相が先頭になって国連の事務総長が始めたUNRWAの中立性、職員の中立性をきちんとやっているかどうかという監査も今、入っていて、4月20日すぎに終わるはずです。2つの結果を見て、どういう形でUNRWAがやっていくのかというのを見ていくことが今、一番大事だと思っています」

ガザ市民の心を取り戻すため、早期の停戦を

今、ガザ地区の市民の願いは停戦だという。清田さんは、市民が落ち着いて生活することで心を取り戻すことが必要だと話す。

「戦闘や空爆の影響で怪我をしている方も大量にいますし、いろんな病気になってる方もいっぱいいます。人々が今日も頑張っていこう、明日に向かって頑張っていこうという気持ちがどんどん壊されていって、今日だけしか考えられないと言います」

「早く停戦を」と訴える清田さん
「早く停戦を」と訴える清田さん

「早く停戦して地域をきちんと立て直し人々の生活を支えて、ガザの人々が普通の生活に戻れるよう動き出せるようにしてほしいです」

半年間に及ぶ戦闘は建物だけでなく、人々の心も破壊している。ガザ市民は諦めず今日を生きながら、停戦が始まるのを待っている。
(FNNイスタンブール支局長 加藤崇)

加藤崇
加藤崇